第12話 「迷宮前最終作戦会議」



 長かった作戦会議は終了し、コウキはノアール2クラスの扉を開けた。

 昼休みは後半ということで、外に出ていた生徒の殆どは教室内にいる。目的の人物もまた、その人混みの中で授業の準備をしていた。


「マリード」

「アオイコウキか。貴殿の戦いぶり、この間は見事だった」


 マリード=デリア。

 スキンヘッドに刺青の入った大男。しかし制服はきっちりと着こなし、姿勢と所作に育ちの良さが見える人物だ。


「こちらこそこの間はありがとう。勉強になったよ」

「謙遜か真面目か。あの後も勝ち抜いたようで、まったく恐れ多い」

「ルールがルールだったから勝たせてもらった気持ちだ」

「そうか。我にも悔しさがないと言えば嘘になるが、貴殿の実力は認めている」


 真面目なのははたしてどっちだろうか、とコウキは思った。あれだけ力がありながら、きっと意図せぬ敗北だったはずなのに相手を認めることができるのは才能だ。


「して、要件は何だ」

「ニュースみたか?グェン教頭の動画」

「無論。デスフラッグの会場について色々と思う事はあるが、やるからには真剣に挑むがよい」


「そのデスフラッグに、参加してくれないか」

「――、」

「マリードにしか務まらないと思ってるんだ」

「…………すまぬが場所を変えよう」


 告げるとマリードは立ち上がり教室を後にする。

 コウキも大きな背中の後ろをついていくと、人気の少ない踊り場あたりで立ち止まった。


「どういうことが聞いても構わぬか」

「そのままの意味だ。俺たちは6人構成でいく。フラッガーをマリードに頼みたい」

「何故だ。務まるものとは思えん」

「それこそ謙遜だな。どう考えても実力は充分だ」


「我である理由を具体的に言え」

「まず、うちの選抜は4人とも攻撃特化だからサポート特化のメンバーを1人入れた。だけど各々の実力差が大きい上にデリオロスゲートは未開拓だ。柔軟な思考、環境変化に対応できて攻めることもできる優秀な人材が必要だ」

「それが我であると」


 その通りだ、とコウキは告げてマリードを見る。

 金の瞳が遠くを見据え何かを考えている。

 すこしの静寂の後コウキに目を合わせた。


「メンバーの特徴を見た。言いたいことも理解している。しかし、貴殿に勝算はあるのか」

「それはマリード次第だ」

「――、」


 マリードは少し驚いた表情をしてコウキを見るが、至って真剣な眼差しを受けて「ふん」と少し笑みを浮かべた。


「我任せか」

「そうだ。俺に実力がつくまでは、他人任せだ」

「負けを認める人物とは思えぬが」

「あぁ負けは認めない。でも自分の弱さは認めている」

「この数日で何があったかは知らぬが、なるほど興味深い」


 そして、コウキは深々と頭を下げる。


「頼む!俺たちに力を貸してくれ」


 しばらく無音が続き、やや不安になったコウキがゆっくりと顔を上げた。そこには右手を差し出すマリードの姿があった。


「よかろう。この命、存分に使え」

「――ありがとうマリード。俺の命も託すよ」


 ぐっと、強い握手を結んだ。

 ちょっと痛かったが、こうしてマリードが参加することになった。


「あとさ、またお願いなんだけど……修行つけてくんね?」

「ふん。傲慢な奴だ。――良いだろうシゴいてやる」


 ついでに修行仲間も手に入れた。



××××××××××××××××××××



 ――作戦会議から二週間以上。


 デスフラッグは数日後に迫る状態だった。

 この二週間はそれぞれ6人のメンバーは地獄の日々と言っていい。



 コウキは、限界まで予備試験と依頼をこなしながらマリードとの修行に明け暮れる日々を送っていた。


 ロイは、テイナに座学を叩き込まれながらネイに実戦や能力操作を指導してもらっている。


 テイナは、コウキ同様に予備試験を増やし、空き時間のほとんどをライラと過ごしていた。


 ライラは、テイナに修行をつける時間以外はサタン化の制御方法を模索していて生傷が増えていく一方。


 ネイは、ロイとのトレーニングに加えて予備試験と依頼をこなしつつ、迷宮の情報収集をしていた。


 マリードは、コウキに技術を叩き込みながら、攻守のバランスを考慮した業の応用開発に集中している。



 このように、各々が今やれることに集中しているため自然とプライベートの会話の機会は減っていった。それを早く危惧したのはエリエリだ。


「わたーし的には、同じパーティなのに生活がすれ違っていてはコンビネーションもクソもないって訳ですよ〜☆」


 とのことで、7人のグループメッセージの開設と毎日の合同昼食、三日に一度のミーティングを挟み各々がしっかりと交流する場を設けてくれた。


 これにはかなり助けられたと6人は実感している。

 最も弱いというノアールの特徴が引き金となって、全員が今まで以上の血生臭い努力をしているからだ。


 受験の時でも部屋に篭りすぎず、たまには外でリフレッシュしなければうまくいかないのと同じだ。それをしてくれるキッカケが重要で、エリエリの行いがどれだけ支えになっているかは最早計り用がない。


「とまぁ、エリエリには感謝しかない」

「なんかグェン氏みたいな言い回しだな少年〜!」


 そんなこんなで今は三日に一度、授業後の全体ミーティングだ。


 昼休みの影響でいつもの席になった大きめの円形テーブル。

 コウキ、エリエリ、ライラ、ネイ、ロイ、テイナ、マリード、コウキに戻るという順番で座っている。


「じゃ、今日が最後の全体ミーティングだけど」


 進行役がすっかり染みついたコウキ。


「とは言ってもボクたち毎日お昼ここで会うけどな」

「私は昼食はオフの気分だ。ロイのいう事は最もだが、このミーティングとは意気込みが違う」

「オマエは堅物か!」

「我もだが?」

「よりかてぇよ!?ほぼ岩だろオマエ!」

「ふん」


 意外と言ってはなんだが意外だ。

 マリードはこのグループにすぐ溶け込んでいる。

 ロイもロイで心開くのが早く、ネイに至っては同じ2クラスなのもあり会話数が多い。それらもエリエリの配慮あってこそのものだと、コウキは感謝していた。


「最近コーキ、エリエリさんに優しいよね〜?」

「へ?そうか?」

「なぁに言ってんのテイナ!少年は元々すけべ優しい担当だってばよ〜☆」

「すけべ優しいって何だよ」

「キモいわ」

「ライラ〜?本人に聞こえてるぞ〜?」


 エリエリ、テイナ、ライラも仲が深まった。

 エリエリはテイナに氏をつけなくなったり、2人の会話にライラがツッコミを入れたりしてるのは紛れもなく距離が近くなった証拠だろう。


 是非とももう少しライラはコウキに優しくしてほしい所存だ。


「一旦ミーティングはじめるからな〜。でも今日は近況報告と……あと、ランクのチェックくらいだ」


 コウキの合図で各々が会話をやめた。

 こういう点にも、デスフラッグに対しての姿勢や意識を感じる。


「まずランクチェックから。各々生徒手帳開いて」


 コウキが指示を振ると、新しいニュースページを全員が見た。

 そこには追加の参加者に加えてそのランクが表示されている。

 当日まで常時更新されるようだ。


----------



白色階級ブロンクラス

・ミア=ツヴァイン Sランク

・キオラ=フォン=イグニカ Cランク→Bランク

・グレイオス=ヴァリアード Bランク

・ラン=イーファン Cランク→Bランク


赤色階級ルージュクラス

・ガミア=イシュタル Bランク

・プラハ=ヴァリアード Cランク

・テオ=ランティス Cランク→Bランク

・ゼクトロドリゲス Aランク

追加

・クリーク=バラモア Bランク


青色階級ブルクラス

・シュウメイ Bランク

・ヒメ=オオタケノミズチ Bランク

・リアス=クロイ Bランク

・ナナミ=カトラッゼ Bランク


黒色階級ノアールクラス

・アオイコウキ Cランク→Bランク

・ロイ=スリア Dランク→Cランク

・ネイ=オラキア=トリネテス Cランク→Bランク

・ライラ=ナルディア Bランク

追加

・テイナ=フォン=イグニカ Dランク→Cランク

・マリード=デリア Bランク



----------


 参加時点からランクが上がると隣にランクが表記される。


 ブロンクラスはキオラたちがランクアップしたことにより全員B以上且つSランクを兼ね備えた安定構成だ。

 ルージュクラスはサポート追加人員やCランクの昇格等でより一層強さを固めてきている。

 逆にブルには動きはなかった。


「マリード、あの後すぐBランクになってたんだな」

「左様だ。故に参加時点でBランクである」


「というか少年、あとネイ氏!2人ともBランクになってらあ!」

「俺はこの二週間以上めちゃくちゃ詰めてたからなぁ。今朝到達してたっぽい」

「私は一週間以上前だ。おそらく定期テストがハマったとみえる」


 コウキとネイはBランクへと上がっていた。

 コウキに至っては極めてCに近く、ネイは実力相応といったところだろうか。


「ロイとテイナもおめでとう。流石だ」

「コーキが予定詰めてくれたおかげだよ〜でもありがと!」

「ボクはやればできるんだって知れたぜ!」


 ロイの自信過剰は最早過剰ではなかった。

 一週間前にコウキが確認したところテイナが教えた座学の8割はこなしている上に、実技の方も順調だった。


 サラッと流しはしたが、テイナも急成長している。

 というか、ライラと修行を始めてから明らかに学科と実技の両方の数値が向上している。バケモノだ。


「やっぱこう見ると、この時期ではBランクに到達するのがやっとみたいだな」

「我としても歯痒さ残るが、Bランクは評価項目がCランクの4つから8つに変更される。その上評価基準は厳しくなる始末だ。今は仕方がないとしか言えまい」

「予備試験だけじゃ補完しきれないもんなぁ」


 コウキがマリードに返事を返すと、生徒手帳を眺めたままのロイが首を傾げた。


「ボク的にはこのゼクトロドリゲスとかいうAランクの奴がなんとなく不愉快だな」

「アタシも不快って訳じゃないけど疑問。最初の段階でAだったよね。なんかランク意識するようになってからAの重さを知ったというか……」

「アレはプレイヤーキラー」

「ぷれいやーきらー?」


 ライラの発言に、テイナが復唱した。ライラは表情を特に変えないまま、テイナに説明する。


「決闘を申し込み、生徒からポイントを稼いでいる。決闘は勝利のたびに評価も見直される。加えて莫大なポイントは依頼を通せば教師をつけられる。そこで特別授業をこなせばAランクに近づけるわ」


「なんか劣悪政治の匂いがプンプンするな。一旦この話やめようか」

「私も言葉にするのは不快」


 コウキが制すと、異論のないライラが同意した。

 どちらにせよロイの不愉快な気持ちを拭う結果にはならなかったが、そこはロイも空気を読んでそれ以上話してこなかった。


「でもまぁー、これでノアールの平均ランクもそこそこまとまったんじゃなぁいかな☆少年、近況報告の方に移ろうジャマイカ!」

「そうだな。まず、テイナとライラからいこうか」


 テイナに目線をやると「おっけー」と話し始める。


「まず、アタシはライラさんに色々教わってる身なんだけど……とりあえず迷宮では戦えるくらいになってると思う。実力も……うん。それなりに自信ある」

「ライラはどう思う?」


「謙遜している。テイナは戦闘技術がとても高い。イグニカ家らしい幼少期からの正確な基礎が生きている。ただ、本来できるはずの事をできないと思い込む癖があるわ」

「お褒めに預かり光栄であります師匠!ってのはまぁ冗談として……アタシは守られるより守る側になれるよう、直向きに努力し続けるつもりだよ」


 てへ、と可愛く済ましたが、二週間前と比べると格段に頼り甲斐のある自信がついていた。これにはコウキも驚きだ。ポテンシャルもあるが、それを引き出すライラの実力も確かなものだった。


「流石だなテイナ。あとライラも。……で、ネイたちはどうだ?」

「依然、ロイの実技は私が見ている。才能に溢れていると言っていい。しかし、精霊剣は他のメンバーと比較して集中力が伴う能力だ。シングルタスクだと考えて順序を立てた運びが勝利の鍵だ」

「ネイの言う事に異論はねーよ。ボクなりに考えて動きさえすれば能力も使いやすいし」


 やや厳しめな意見にも反論を示さないロイ。

 金髪にパーマで甘い顔をしているが、出立ちには弱さが見えない。

 修行の影響か普段の姿勢を見直しているようで、治った猫背がコウキには印象的だった。


「ネイ、情報の方はどうだ」

「私なりに知人を当たりまとめてみた。前提として、錯綜迷宮さくそうめいきゅうは本当に未開拓の地だ。完全に地図化されているのは全体を通して1割もないと言って良い」


「我の家系デリアは代々王の側近……宮廷きゅうていのソレであるが、身内の情報からしてネイの意見は正しいだろう。開拓を始めたばかりと言う点も加味するべきだが」

「おいおい初耳だマリード……宮廷って事は家族が宰相さいしょうって事か?」


 マリードの突然の発言に驚くコウキ。

 デリア家が何とかとは言っていたが、王の側近である事までは知らなかった。周りの反応が普通なのを見ると、おそらく知らなかったのはコウキだけだとも自覚する。


「いいや、デリア家はヴァーリア帝国の政治に一切関与しておらん。我らの家系は代々近衛兵である。銘を受け戦い、常に守護し続ける使命だ」

「そうだったのか……ごめん、話が逸れたね」


 近衛兵という事は家族が相当な実力者なのだろう。

 噂ではヴァーリア国王は相当慎重な性格をしていると聞く。

 その王が命を預ける存在、これは凄いことだ。


「話を戻す。迷宮についてだが、どうやら遠い先に“果ての城”の存在を確認したようでその中に旗を置くというものだ。迷宮の大きさから逆算した全体の進行度で言えば、2割強の部分まで進むようだ」


 ネイが全員を見ながら言った。

 そこにコウキが疑問を抱く。


「大人が国単位で全然進んでないのに、学生がそこまで行けるのか疑問だ」

「コウキ。国単位とは言っても今の王族の兵や騎士の殆どが、名のある者含め隣国の戦争に出ている。つまり各地の迷宮探索に使える人員は限られている上に最も死傷者が多い。攻略が遅いのはいつものことだ」


 冷静なネイが一通り解説する。

 ヴァーリアは独立国家だ。600年以上前の建国以降、大陸の中心にあり隣国の殆どが敵。極度の人員不足とまではいかないが防衛の為に優秀な人材が動くのは当然のことだろう。

 コウキは納得して続きを待った。


「そして今回、未確定だが気になる点が二つある。一つは魔獣の数。錯綜迷宮の周りを飛び回るデリオロスの数があまりに多い。今迷宮は勿論広い方だが、それにしても暴食と呼ばれるデリオロスが多く出入りしているのは魔獣の数も比例して多いと予測できる」

「グェン教頭も似たようなこと言ってたな」

「その通りだ。今回の話は、その報告以上かもしれないという情報だ」


 恐ろしい話だとコウキが思う。

 あれからデリオロスについてを過去のミーティングで調べたが、飛竜かつ性格が凶暴。動くものなら大体食べるということ、全長3メートルから5メートルで身軽、長距離移動以外は飛行しないという点が分かった事だ。

 魔獣については文献が少ない上に種類が多く難航中だ。


「コーキ、デリオロスって指定魔獣だよね?」

「そうだね。指定魔獣って事は特に根絶しなければならない人類に有害な独自の生態系を持ってる。おそらく異常な暴食を指してると思うけど」

「でも食べるのは魔獣が主でしょ?アタシたちにとって害があるのかな」

「それは違うよテイナちゃん」


 テイナの疑問に、ロイは珍しく肯定しなかった。


「デリオロスは本当に何でも食べるんだ。幼少期ボクの村は魔獣に襲われて無くなった。その時にデリオロスも居たけど、家畜から人まで、生物は見境なく食い殺されてる」

「え――、ロイ君」


 ロイは自然に話した。

 しかしコウキ以外の全員が驚いた表情でロイを見る。

 コウキは事前に聞いていたがその他のメンバーは初耳だろう。重たい話に表情の少ないライラもやや動揺していた。


「ボクの中では解決してるから重く捉えなくていーよ。あの時は村人4人だけ残って王族に助けられ、忠誠を誓ってここに居る。ただ魔獣の事実を伝えたかっただけだ」

「そっか。話してくれてありがとう」

「デリオロスにはやや社会性もある。強さだけなら2級以上だけど、普段は人里に来ないし色々加味して3級認定なんだと思う」


 ロイが周りに気を遣わせないよう配慮すると、テイナが心の内を話したことに感謝を込める。続けてデリオロスについてまとめたロイをじっと見ていたのはネイだった。


「4人……。ロイ、壮絶な過去を掘り返してすまない。村の名前はスルト村では?」

「――、」


 ロイが驚きの表情を浮かべた。


「……そうだよ。どうして知ってるんだ?」

「――やはりか。生き残りの中に遠い血縁が居る」


 ネイの発言にコウキも関心を持った。ロイは依然驚愕している。


「な……まじ!?スルト村はだいぶ人口いたからそれは奇跡だ」

「あぁ、年齢は一つ下のシャルロットという女の子だ」

「わかんねぇ……親も妹も殺されて全員知らない奴だったからな」

「私のような銀の髪に緑と赤のオッドアイだ」


 思い出すようにしばらく考えたロイがふと顔を上げた。


「……そう言えば銀髪で眼帯してる緑目の女の子が居たぞ!あれネイの身内かよ。……その、元気なのか?」

「壮健だと聞いている」

「それは……良かった、本当に」


 ロイが心から嬉しそうに呟くと、ネイも優しく微笑む。

 その姿に各々が複雑な感情を寄せた。


「ロイも無事で良かった。この事はシャルロットに伝えておく」

「あの時は自分に必死だったから、合わせる顔はないけどな……。一言だけ、無事で良かったと伝言してくれ」

「勿論だ」


 一連のやりとりは済み、話の切替に困っているとエリエリが「そろそろ二つ目の話聞いちゃう?」と滞った状況を示唆する。マリードも「頼む」と同意してネイが話をし始めた。


「二つ目についてだ。これは一つ目のデリオロスに関係する。報告では魔術解析により地下5階の迷宮とされていて、今回はその2割である1階全体の攻略となるのだが……恐らく、これが間違いだ」

「……どう言うことだ?」

「環境とデリオロスの数からして5階層で済むと思えないという話だ」

「詳細を」


 ネイの結論をマリードが煽る。


「錯綜迷宮は名の通り、迷路を揶揄していて道が多い。しかし魔獣はある程度敷地面積のある場で活動する。道が多いほど生態系は少なくなる。……だと言うのに尋常ではないデリオロスの数は、迷宮の規模が大きいことを意味する」

「……ネイ君。それって地下2階とか3階がすごく広くて、そこに大量の魔獣が居るって考えもあると思わない?」


 テイナが驚愕の顔を浮かべながらネイに指摘。

 ネイはごく普通に「その通りだ」と返答して続けた。


「それを考慮して尚、5階層では辻褄が合わないと見てる」

「――、」

「私が思うに、最低でも8階層。恐らく10階層前後の中規模迷宮だ。小規模迷宮で例年行われるデスフラッグの難易度とは話が異なってくる」


 ネイの言葉にテイナとロイが息を呑んだ。

 コウキも真剣に考えながら周りを見やる。

 動じないマリードとライラ、大袈裟に驚くエリエリを見てから質問を投げかける。


「1階のみを攻略するから大丈夫って話にはならないか」

「すまないが9割ならない。階層が多いほどストームが増える」

「ストーム?」

「魔獣が出入りするための風穴だ。床に穴が空いていて、そこから魔獣が出入りする仕組みになっている。特に入り組んだ土地はストームが多い」


 コウキが想像して冷や汗を浮かべた。


「なるほど。しかも階層が深いほど強い魔獣が居る事になり、その遭遇率も高いと」

「流石だ。酷いとストームは3階層以上落ちることもある。コレをキルストームと言い、こうなると生存確率は一気に下がるだろう」


 今回のデスフラッグにより一層の危険度を感じ、ネイもやや疲れ気味の顔色だ。やるしかない状況とはいえ、7人とも其々の感情のやり場に困っている。


「自分と仲間を信じるしかないよ」


 だがそんな中でもコウキはなるべく前を向いた。


「俺たちの今までを信頼して次に託そう」

「コーキ……」


 きっと迷宮では今よりももっと辛い。

 精神的負荷、肉体的疲労にやられる事だろう。

 常に堂々として動じない意識を心掛けなければならない。


 決して屈してはならないのだ。


「――絶対に勝つ。その為の今だ」


 全員の想いが満場一致したところで、最後のミーティングは終了した。


 デスフラッグまで、あと3日に迫っていた。


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