第3話(♂:♀:不問=3:4:0)※テスト前台本

【台本名】

 アークホルダー・フラグメントレコード

 Fragement.01 流星のおとし子、星の涙 / 第3話

 副題:『真相への探求と隠蔽』

 ※テスト前台本です。


【作品情報】

 脚本:家楡アオ

 所要時間:**~**分

 人数比率 男性:女性:不問=3:4:0(総勢:7名)


【登場人物】

 コーネリア・エンゲルマン / Cornelia Engelmann

  <Data>性別:女、年齢:20代前半、台本表記:コーネリア

  <Overview>

   物語の主人公で、アスクレピオス・ラボラトリー医療部

   所属の研究員。

   真面目でまっすぐな性格をしており、そして責任感が強い。

   ステラの主治医として、彼女の様子には常に気を配っている。


 ステラ・ディーツ / Stella Dietz

  <Data>性別:女、年齢:10歳、台本表記:ステラ

  <Overview>

   物語のもうひとりの主人公で、重症アーク瘴気被曝者として

   医療部に入院し、覚醒療法によって特殊能力者となった。

   〝ある実験〟の被害者であり、そのショックによって心を

   閉ざしている。


 ハイネ・ウィリアムズ / Heine Williams

  <Data>性別:男、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:ハイネ

  <Overview>

   アスクレピオス・ラボラトリーの統括補佐(ナンバー2)を

   勤める男性。

   常に厳しい口調で喋り、冷静な様子を崩すことが無い。

   少し天然なところがある。


 ヴェルナー・ストレンジラブ / Werner Strangelove

  <Data>性別:男、年齢:40~50代、台本表記:ヴェルナー

  <Overview>

   アスクピレオス・ラボラトリー医療部部長であり、コーネリアの

   直属の上司。世界的権威のある研究者で、温厚で聡明な人物。

   その本性は——


 ロイド・ヴィーデマン / Lloyd Wiedemann

  <Data>性別:男、年齢:20代前半~20代後半、台本表記:ロイド

  <Overview>

   アスクピレオス・ラボラトリーのアーク・サイエンス部所属

   の研究員。

   軽薄なお調子者ではあるが面倒見がよく、後輩の

   コーネリアの事を気にかけている。


 ユーティライネン・リーズベリー / Juutilainen Leesbury

  <Data>性別:女、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:ユティ

  <Overview>

   アスクピレオス・ラボラトリーのアーク・サイエンス部部長

   であり、ハイネとは大学時代の腐れ縁。

   活発でユーモアあふれる女性で、しばしば常識に

   囚とらわれない行動をとる。


 フローレンス・ブラックウェル / Florence Blackwell

  <Data>性別:女、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:フローレンス

  <Overview>

   アスクピレオス・ラボラトリー責任者である統括を務める女性で、

   ハイネとは幼馴染の間柄。学生の時は快活な女性ではあったが、

   現在はリアリストで冷酷で冷徹。


 研究員A……医療部所属の臆病おくびょうな性格をした女性研究員。

       名前は『リズ・ヴァージニア』

 研究員C……医療部所属のプライドだけが高い男性研究員。

       名前は『ケント・マックイーン』

 研究員D……医療部所属の陰湿な女性研究員。

       名前は『リン・マーカロイド』

 教授……修復された映像に映っていた研究員。

     ウェゲナー・スターロンバー所長?

 軍人……修復された映像に映っていたユグドラシル誓約者連邦軍

     の女性軍人。

 ハイネの父親……自分にも他者にも厳しい性格の人物。

         名前は『ギルベルト・ウィリアムズ』

 ハイネの母親……明るい性格をし、ハイネのことを第一に考える。

         名前は『アンジェリーク・ウィリアムズ』     


※詳細なキャラクター設定は下記Link参照をお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073232406047



【用語説明(簡易版)】

 『アーク鉱石』……莫大ばくだいなエネルギーを持つ不思議な物質で、人体に

          有害となる瘴気しょうきを放つ。

 『アーク瘴気』……アーク鉱石から放たれる瘴気しょうきで、瘴気しょうきさらされた

          ヒトを『被曝者ひばくしゃ』と呼ぶ。

 『アーク・ホルダー』……『アーク瘴気しょうき』に耐性と特殊な能力を持つ存在。

 『アスクレピオス・ラボラトリー』

   ……今回の物語の舞台となる最先端テクノロジー企業兼研究所。

     通称、ALエーエルラボ


※詳細な設定資料は下記Link参照をお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073231929525


【台本・配役テンプレート】

 台本名;

  アークホルダー・フラグメントレコード

  Episode.01 流星のおとし子、星の涙 / 第3話

  URL 

https://kakuyomu.jp/works/16818093073232574599/episodes/16818093075771574508

 <配役>

  コーネリア・エンゲルマン:

  ステラ・ディーツ:

  ハイネ・ウィリアムズ:

  ヴェルナー・ストレンジラブ:

  ロイド・ヴィーデマン:

  ユーティライネン・リーズベリー:

  フローレンス・ブラックウェル:



※配役検索に役立ててください。

☆:コーネリア、N②

●:ステラ、研究員A、ハイネの母親

□:ハイネ

△:ヴェルナー、教授、研究員C

◇:ロイド、男性、N①、ハイネの父親

▽:ユティ、研究員D

◎:フローレンス、軍人


――――――――――――――――――――――――――――――――――


【0】


<アスクピレオス・ラボラトリー アーク・サイエンス部/部長室>


◇N①:アスクレピオス・ラボラトリー、アーク・サイエンス部の部長室。

    ――ユーティライネン・リーズベリーの私室。


▽ユティ:映像を再生する前に確認したいことがあるんだけど……

     いいかしら?


□ハイネ:なんだ。


▽ユティ:スターロンバー研究所についてウチが関わっている

     かもしれない。

     ――あの調査の時にそんなことを言っていたわよね?


□ハイネ:あぁ、そうだ。

     行動調査こうどうちょうさ部があやしいとにらんだが、NSエヌ・エスインダストリーとの

     つながりが見つからなかった以上は、

     推測の域を出ないが……


▽ユティ:…………。


□ハイネ:どうした、ユーティライネン?


▽ユティ:――調査部の連中じゃない。


□ハイネ:なに?


▽ユティ:行動調査こうどうちょうさ部はむしろ利用されているだけ!

     裏で糸を引いているのは——



(間)



<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部/中央処置室>


◇N①:一方、医療部の中央処置室では、ステラ・ディーツの

    〝覚醒療法かくせいりょうほう〟が行われていた。


医療いりょう部・中央処置室。

    ステラ・ディーツの〝覚醒療法かくせいりょうほう〟が行われていた。


●研究員A:活性定着かっせいていちゃく剤の投与を開始します。


◇N①:まるで実験室であるかのようなガラスで仕切られた

    処置室に点滴てんてきをつけられ椅子いすに座らされていた。


●ステラ:っつ!


◇N①:薬剤が投与された瞬間、つらそうな表情を浮かべる。


●ステラ:ぐっ……い、たい……!


☆コーネリア:部長、ステラの様子を見ていると治療中の

       痛みがひどくなってきています。

       それに、薬の投与量についても上限値じょうげんちを超えています。

       やはり、減量げんりょうしたほうが……


△ヴェルナー:ドクター・エンゲルマン。

       前も言ったと思うが、痛みを伴わない治療は無いのだよ。


☆コーネリア:ですが!


△ヴェルナー:投与量が過剰かじょうになっているのも承知の上だ。

       我々が行っているのは先進的治療であり、

       そして確実に成功することが保証されるものでもない。

       治療を通して、我々は探究をしなければいけない。

       ――それを忘れないように。


☆コーネリア:はい……


●研究員A:と、投薬完了!


△ヴェルナー:終わったか……


◇N①:すかさず、コーネリアは部屋に入った。

    ステラの顔色は悪く、多くの汗粒あせつぶが見られた。


●ステラ:ドク、ター……


☆コーネリア:大丈夫、もう終わったよ……


●ステラ:ステラ……がまん、したよ……がんばったよ……


☆コーネリア:うん、そうだね……よく我慢したね。


□ハイネ:――ドクター・エンゲルマン、ステラ。


●ステラ:あっ……


☆コーネリア:ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ……

       いらっしゃったのですね。


□ハイネ:あぁ、見舞いに来た。

     大丈夫か? 顔色が悪いぞ、ステラ。


●ステラ:だい、じょうぶだよ……おじさん、

     ステラ、がんばるから……!


□ハイネ:……そうか。

     そうだな、ステラならきっと出来ると思う。


●ステラ:えへへ。


△ヴェルナー:ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ、忙しい中

       見舞いに来てくれて感謝するよ。


□ハイネ:大したことじゃない。

     ――ストレンジラブ部長、少し話したいことがある。

     いいか?


△ヴェルナー:構わないよ、今日は全ての工程を終えたからね。

       問題がなければ、ここで話そうじゃないか。


□ハイネ:――ラボにとって重要な話だ。

     出来れば、私の部屋で話をしたい。


△ヴェルナー:わかった、それじゃあ行こう。


●ステラ:……ドクター。


☆コーネリア:んっ、どうしたの?


●ステラ:おじさん……なんか、こわい……

     おこっているの?


☆コーネリア:大丈夫よ、ステラ。


☆コーネリアM:……でも、ステラの言う通り。

        あのヒトの言葉に怒りがこもっていたような気がする。



☆コーネリア:アークホルダー・フラグメントレコード、エピソード1。


▽ユティ:『流星りゅうせいのおとしほしなみだ』、第3話。。



【1】


<アスクレピオス・ラボラトリー 統括制御部/統括補佐室>


△ヴェルナー:――それで話とは何だね?


□ハイネ:単刀直入たんとうちょくにゅうに言う。

     NSエヌ・エスインダストリーと協力関係にあるのか?


△ヴェルナー:突然何を言っているのかね?

       ラボは、NSエヌ・エスとパートナー契約けいやくを結んでいるじゃないか。


□ハイネ:違う、お前個人としてだ。


△ヴェルナー:私個人、かね?

       君も知っているように、個人のみでの企業援助は

       規則で禁止しているだろう。


□ハイネ:なら、何故、お前の資産管理会社にNSエヌ・エスからの入金がある?


△ヴェルナー:――これは、これは。

       私の資産状況を調査されているとは……驚いたもんだね。


□ハイネ:説明しろ。


△ヴェルナー:それは、講演費と会場までの交通費が入金されただけだよ。

       しかも、複数回の分を一括に振り込まれたもんだから、

       私も驚いたさ。

       あそこには大学教授時代の教え子が複数いるのでね。

       彼らに頼まれたんだよ。


□ハイネ:総合事務そうごうじむ部に確認したところ、講演についての

     報告書が提出されていなかったようだが?


△ヴェルナー:それは申し訳なかった。

       隠すつもりはなく、提出を忘れてしまっていただけだよ。

      

□ハイネ:今まで書類についての期日を誰よりも守っていた。

     ……お前にしては珍しいミスをするもんだな。


△ヴェルナー:ハハッ、お恥ずかしい限りだ。

       年老いてしまうと、昔出来たことが突然

       出来なくなってしまう。

       ――老化というのは、実に忌々いまいましいものだよ。


□ハイネ:つまり、ヴェルナー・ストレンジラブはNSエヌ・エスインダストリー

     とは個人的な繋がりは無かった、そういうことだな?


△ヴェルナー:あぁ、その通りだよ。

       それで間違いない。


□ハイネ:そうか……失礼する、時間をとったな。


△ヴェルナー:構わないよ。

       むしろ、そちらの手をわずわせてしまって申し訳ないね。


□ハイネ:――それと最後にひとつ。


△ヴェルナー:んっ?


□ハイネ:スターロンバー研究所について、どう考える?


△ヴェルナー:驚きの一言だよ。

       まさか都市伝説と言われていたものが存在するとはね。

       いやはや……「事実は小説よりも奇なり」とは

       よく出来た言葉だよ。


□ハイネ:そうか。


◇N①:去っていくストレンジラブの後ろ姿をハイネはじっと見つめる。

    そして、ユーティライネンとの会話を思い出す。


▽ユティ(回想):裏で糸を引いているのは——医療いりょう部よ。


□ハイネ(回想):なに? それはどういうことだ?


▽ユティ(回想):――修復できた一部の映像に、連邦軍人と

         ある研究者の会話が録音されていたの。

         今から、その部分を再生する。


◇N①:そして、ユーティライネンは問題の箇所かしょまで映像を早送りする。

    映像や音声にはノイズがかかっており、顔は見えなかった。

    しかし二人の姿は映し出されている。


◎軍人:――それで実験の方は順調か?


△教授:それなりに進んではいるが……まだ、ひとつ足りないんだ。


◎軍人:貴様程の天才でも上手くはいかないものなのだな、教授。

    ……いや、今は、スターロンバー所長だったな。


△教授:それは嫌味かね?

    ただ、今、その言葉に返すことは出来ないな。

    ――ここだと、そろそろ限界かもしれない。


◎軍人:だったら、ウチから人員を派遣しよう。


△教授:馬鹿な事を言わないでくれ。

    凡人を増やしたところで事態は変わりはしない。


◎軍人:凡人か……軍研究所の科学者たちもそれなりに優秀なのだが。


△教授:優秀か……貪欲どんよくで、愚図ぐずで、戦争しか能のない連中が?


◎軍人:はぁ……貴様も我々と同じあなムジナじゃないか。


△教授:――まあ、それに関しては否定しないよ。

    ただ、私は〝彼女〟の〝いかずち〟に惚れこんでしまったのだ。

    アレが亡くなってしまうのは実に惜しい。

    ――だからこそ、アスクレピオス・ラボラトリーの

    力を使う時だ。

    医療部を利用すれば、きっと出来るだろうさ。


◎軍人:了解した。

    だが……例の委員会が最近気になる動向どうこうを見せている。

    注意しろ。


△教授:あの連中か……了解したよ。


◎軍人:それでは、吉報きっぽうを期待している。


□ハイネ:――「事実は小説よりも奇なり」、か。


◇N①:ハイネはひとつ溜息ためいきをつき、

    自らの目的を果たすために動き出す。



【2】

<科学研究都市『イディア』 中心街/NSインダストリー本社前>


◇N①:科学研究都市『イディア』中心街、

    化学企業NSエヌ・エスインダストリー本社前。


▽ユティ:どうだった?


□ハイネ:「ヒューリンデンの研究所について、弊社へいしゃは一切関与していない」

     「そもそも、研究所自体があるのは知らなかった」

     ――想定内の返答ばかりだ。


▽ユティ:まるで政治家の苦しい言い訳みたいね。

     それじゃあ、会社の支援者リストは?


□ハイネ:企業機密への抵触ていしょくと個人情報保護を理由に拒否された。


▽ユティ:まあ、そりゃあそうよねぇ……

     うーん、それじゃあ、私のツテで探しておきますか。


□ハイネ:出来るのか?


▽ユティ:あら、信じていないわね?

     こう見えてもあらゆるところにネットワークを張ってあるのよ。

     まっかせなさーい!

     ――あっ! 用意出来たらスイーツ、おごってね!!



(間)



<アスクレピオス・ラボラトリー 統括制御部/統括補佐室>


◇N①:そして数日後。


▽ユティ:はい、これ、NSエヌ・エスインダストリーの支援者リストよ!


□ハイネ:本当に手に入ったのか……


▽ユティ:もちろん、合法での範囲内よ!

     ちなみに詳細についてはシークレットでお願い!


□ハイネ:……本当に大丈夫なんだろうな?


▽ユティ:大丈夫だって!

     それよりも付箋ふせんがついたページを見てもらえる?


□ハイネ:――これは……ヒューリンデン在住の支援者たちか?


▽ユティ:そう、支援者たちの年齢は20~80代と幅広いけど、

     支援開始日が同じ年の同じ月。

     こういうのって投資目的での支援ということがあるけど、

     この時期のNSでは特に目立ったプロジェクトや研究成果

     の発表があった訳じゃない。

     もちろん、株価の動きも特になし。


□ハイネ:確かに……ここに答えがありそうだな。

     支援者たちに会おう。



(間)



<ヒューリンデン 中心街/カフェ>


◇N①:ヒューリンデンの中心街。

    2人はリストにあった支援者たちの家を周り全ての調査を

    終わらせ、市内のカフェで休憩をとっていた。


▽ユティ:あ~あ~

     とんだ骨折り損だわ~


□ハイネ:…………。


▽ユティ:まさか、リストの全員が、偽装ぎそうされた身分に、

     行方不明者……。


□ハイネ:もしくは、ここ一週間の間に何らかの〝事故〟や〝病気〟で

     命を落としている……〝事故〟については手掛かりは一切なし、か。


▽ユティ:〝病死〟した支援者についても特に事件性はなし。

     いくらなんでも出来過ぎよねぇ~


□ハイネ:あぁ……明らかな偽装工作ぎそうこうさくだ。

     素人の仕業ではないだろうな。


▽ユティ:肝心の研究員たちは、爆発でドカーンと消し炭に

     なっちゃったし……要するに手詰まり、というわけね。

     ハァ……


□ハイネ:だが、生死不明の奴がひとり残っている。


▽ユティ:くだんのスターロンバー博士、ね。

     本当に謎の人物よね~

     データベースに登録されていない研究者とか聞いたことはないわ。


□ハイネ:偽名だろうな。

     そして、その正体が——


▽ユティ:待った。

     今は、その話はやめときましょう。

     それに誰かに聞かれているかもしれない。


□ハイネ:確かにそうだな……

     とにかく、こうなると他の手掛かりを探さないといけないな。


▽ユティ:そうね……

     さてっと、明日からテープの更なる修復をしてみますか!

     うーん! ここ数日は徹夜てつや続きだったから、

     今日はさっさと帰ってビールでも飲もうっと!

     アンタも久しぶりにどうよ?


□ハイネ:遠慮しておく、そもそも酒は得意じゃない。


▽ユティ:つれないわね~


□ハイネ:お前は先に帰ってろ。

     私は、ラボに戻る。


▽ユティ:はあ?

     アンタねぇ……ここに来る前もまともに寝てないでしょ!

     目の下にひどいクマができているわよ!!


□ハイネ:ステラの治療については気になることがある。

     それに……約束したからな。


▽ユティ:ねえ、ハイネ……どうしてあの子にこだわるの?

     あの子の話を聞いたとしても、事故についての有力な

     手掛かりは出てこないはずよ。

     今までのアンタだったらしなかった。

     なのに、どうして?


□ハイネ:――さぁな。


▽ユティ:まったく――って、ちょっと! 置いていかないでよ!!



【3】


<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部/ステラの病室>


□ハイネ:ステラ、好きな本はあるのか?


●ステラ:うーん……あまり、読んだことがないから、

     わかんない……


□ハイネ:それでは、この絵本を一緒に読もう。

     精霊族せいれいぞくと呼ばれる、かつて存在した

     種族を題材にした物語だ。


●ステラ:わぁ! おもしろそう!!


◇N①:ヒューリンデンの調査から戻ってきたハイネは、すぐさま

    ステラの元へと向かった。

    多忙である彼に与えられた少ない時間を、彼女の為に使う

    ようになった。

    和気藹々わきあいあいとした彼らとは反対に、ガラスの向こうでは緊張

    した空気が流れている。


☆コーネリア:そんな!

       やっと、ステラの体調が回復してきたのに、

       ここで活性剤の投与量を増やすのはどういうことですか!

       彼女により苦痛を与えるだけです!

       そんなのは治療じゃ——


△ヴェルナー:ドクター・エンゲルマン、落ち着きなさい。

       ……君は大事な事を忘れている。


☆コーネリア:大事なこと?


△ヴェルナー:我々の最終目標は、アーク瘴気しょうき汚染おせん自体の治療だ。


☆コーネリア:しかし……!


△ヴェルナー:確かに、ステラ・ディーツの容体ようだいは良くなってきている。

       しかし、まだ不十分なのだよ。

       この先どうなる? 現状維持で満足できるか?

       となれば、彼女は一生ここから出ることは出来ない。

       ドクター・エンゲルマン、それは君が望む結末なのか?


☆コーネリア:くっ、それは……


△ヴェルナー:君の考えも理解は出来る。

       ドクター・エンゲルマン、あれを見たまえ。


◇N①:ストレンジラブが指さす方向には、ハイネとステラの姿。

    読み聞かせをしているハイネが今にも眠りそうな様子で、

    彼が疲労困憊ひろうこんぱいであることは明らかだった。


☆コーネリア:あっ……


△ヴェルナー:統括補佐とうかつほさという立場である以上、

       彼は私達以上に多忙たぼうの身だ。

       ラボを守るために、重要な案件をいくつも抱えている。

       ――彼もステラの早期回復を願っている筈じゃないのかね?


☆コーネリア:…………。


△ヴェルナー:治療の一環として、彼に見舞いを頼んだことは

       理解している。

       でも、以前と違って患者自身も治療に協力的になっている。

       となれば、わざわざ足を運んでもらう必要はなかろう。

       ――そうは思わないかね?


☆コーネリア:そう、ですね……



(間)



□ハイネN:なつかしい光景が目の前に広がる。

      昔住んでいた家、そして泣いている幼い自分の姿。


◇ハイネの父:泣くんじゃない!


□ハイネN:ひとりの男性が、幼い自分のほほたたいた。

      ――あぁ、思い出した。

      昔、父に学校でいじめられていることを相談した時だ。

      その時の私は、ずっと泣いていた。


◇ハイネの父:お前が虐められるのは、「弱い」からだ!


□ハイネN:父はとても厳格なヒトだった。

      褒められた事は、覚えている限りひとつもない。


●ハイネの母:アナタ、やり過ぎよ。

       ――大丈夫よ、ハイネ。

       私が、一緒に学校に行って先生に話をしましょう!


□ハイネN:一方で母親は心優しいヒトだった。

      親から褒められると言う事は、

      母からにしてもらったのは覚えている。

      ふたりとも優秀な研究者だった。

      だから、家にいることは珍しく、

      家族の時間と言うものはほとんどなかった。

      ……ただ、一度だけ。

      あの時だけは、唯一記憶にある家族の時間というものだった。


●ハイネの母:じゃーん! ハイネ、一緒にこの本を読まない?


□ハイネN:多忙な研究者である二人が共に休暇となり、その日は珍しく

      家族がそろっていた。

      しかし、どこかへ遊びに出かけることもなく、退屈そうに

      窓を眺めていた私に一冊の本を持ってきた。

      それは、かつて存在した精霊族せいれいぞくの物語。


●ハイネの母:この本はお父さんがハイネの為に用意した本だって。

       せっかくだから、3人で読んでみましょう。


□ハイネN:そこへ自分が用意したことをバラされることを

      想定していなかったのであろうか。

      少し慌てた様子の恥ずかしそうにしている顔の

      父が現れた。

      今まで父から贈り物をされる事も、いつもの厳格な

      顔つきが崩れた初めての出来事に驚きもあったが、

      それ以上に私は喜びに満ち溢れていた。

      家族揃って本を読んだあの時、自分が二人の子供

      であることを実感出来た気がした唯一の温かな時間。

      あっけなくそれは終わりを告げた。

      ――次の日、両親は交通事故で亡くなった。

  


□ハイネN:恥ずかしそうな顔を浮かべた父が現れる。

      あまりのことに驚きもあったが、それ以上に喜びもあった。

      自分が二人の子供であることを実感出来た気がして。

      あっけなくそれは終わりを告げた。

      ――次の日、両親は交通事故で亡くなった。



(間)



□ハイネ:―――はっ!


●ステラ:あっ、おきた!


□ハイネ:すまない、寝てしまっていたようだ……

     これは……ブランケットか?


●ステラ:おじさん、つかれていたから。

     ステラのかけたよ。


□ハイネ:そうか……ありがとう。


●ステラ:えへへっ! あのね!

     この絵本、もらってもいい?


□ハイネ:ああっ、もちろん構わない。

     元からステラに渡すために持ってきたものだからな。


●ステラ:やったー! ありがとう!!


□ハイネ:……最近の治療の痛みは大丈夫か?


●ステラ:うん……ちょっといたい時はあるけど、

     前よりはガマンできるようになったよ。


□ハイネ:そうか、ステラは強いな。


△ヴェルナー:お取込み中失礼するよ、二人とも。


□ハイネ:治療の時間か?


☆コーネリア:はい……統括補佐とうかつほさ、大丈夫ですか?

       あんまり眠れていないようなので……


□ハイネ:恥ずかしいところを見せてしまったな。

     しかし、問題ない。

     今日の分の仕事を終わらせたら、ちゃんと休みをとる。


☆コーネリア:ならいいのですが……

       統括補佐とうかつほさ、実は——


□ハイネ:すまない、連絡が入った。

     ――私だ、わかった。すぐに向かう。


●ステラ:おしごと?


□ハイネ:ああっ、すぐに対応しなければいけない用事が出来てしまった。


△ヴェルナー:急ぎの要件なんだろう?

       なら、遠慮えんりょせず行ってくれ。

       治療のことは、私たちに任せてくれれば大丈夫だ。


☆コーネリア:…………。


□ハイネ:そうだな。

     では、頼んだぞ、ドクター・エンゲルマン。


☆コーネリア:は、はい……


□ハイネ:ステラ、すまない。 

     今日の治療に立ち会えないそうにない。

     また見舞いに来るからがんばってくれ。


●ステラ:大丈夫! ステラ、がんばるよ!


□ハイネ:なら、これを渡しておかないといけないな。


●ステラ:わあ! ラムネキャンディーだ!!


□ハイネ:それではな。


●ステラ:またね!!


△ヴェルナー:――さて、行ったか。


☆コーネリア:部長、いったい何を考え――


△ヴェルナー:ここ最近、ロイドくんを見かけないが……

       まあ、私達だけで大丈夫だろう。

       ドクター・エンゲルマン、始めよう。

       今回はイレギュラーだが、大丈夫。

       君ならうまく出来るはずだ、期待している。


☆コーネリア:……はい。



(間)



◇ロイド:おっ! ウィリアムズ先輩、ちぃーっす!


□ハイネ:ヴィーデマン研究員、時と場所を考えろ。


◇ロイド:まあまあ、今は俺たちしかいないんですから~

     そういえば、ここ最近、ウチのボスと仲良くしているようで。

     一体、何をしているんですか~?


□ハイネ:仕事だ。


◇ロイド:おかげさまで絶賛ぜっさんパシられていますよ……

     俺だって忙しいのに……


□ハイネ:NSエヌ・エスインダストリーの支援者リストを調達したのは、

     お前なのか?


◇ロイド:やっぱり先輩の案件だったんすね……

     そうっすよ、めっちゃ大変だったんですよ~

     あっ! ちゃんと合法的な方法でやりましたからね!!

     ……ちょーっと、クロよりのグレーですけど。


□ハイネ:それはもうクロだろ。


◇ロイド:アハハ……

     てか、そういえば今日はお見舞いの方はいいんですか?


□ハイネ:先程済ませてきた。

     それよりもお前の方こそ、ここで油を売っていていいのか?

     治療がそろそろ始まるぞ。


◇ロイド:えっ? 何を言っているんですか?

     今日は、休薬期間ですよ?


□ハイネ:なに?

     先程、ストレンジラブ部長が「治療の時間だ」と言っていた。


◇ロイド:えっ、うっそだー!

     ほら! タブレット見てくださいよ!

     〝覚醒療法かくせいりょうほう〟のクリニカル・パスに従うなら、

     今日は休薬日じゃないといけないっすよ!!


□ハイネ:……どういうことだ?


●研究員A:ロイドさん!!


□ロイド:お~ どうしたんだ、リズ。

     そういえば、どういうことなんだ?

     今日、治療日って俺たちに連絡は——


●研究員A:今すぐ来てください! ステラが!!



【4】

<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部/中央処置室>


◇N①:時間を少し前にさかのぼる。

    場所は、医療部・中央処置室。


△ヴェルナー:では、準備を。


●ステラ;いやっ!


☆コーネリア:なにをしているの!?


▽研究員D:どいてよ、邪魔じゃま


☆コーネリア:どうして、拘束具こうそくぐが必要なの!

       それに、アンタ達は謹慎きんしんを命じられたはず!!


△研究員C:部長命令だから仕方ががないだろ。

      それに、この拘束具こうそくぐは安全のためだ。

      お前も、今回の投薬量を知っているはず。

      ウィリアムズ統括補佐がいない以上、どうするんだ?

      その足りない頭でもわかるだろ。


☆コーネリア:こんの……!


●ステラ:ドクター……


☆コーネリア:ステラ……


●ステラ:ステラ、がんばるよ……だから、怒らないで。



(間)



●研究員A:で、では……薬の投与を開始します……


△ヴェルナー:始めてくれ。


◇N①:そしてステラの腕に繋がれた点滴の管に薬が入る。

    覚悟を決めた彼女は、目を思いっきり閉じた。


●ステラ:だいじょうぶ……わたし、がんばれる……ぐあっ!


◇N①:薬が体内に入るのと同時に、身体全体に

    きしむような痛みが襲い掛かった。


●ステラ:ああああ!!

     だい、じょうぶ……くうっ……!

     ドクターと……っつ、おじさんと、やくそく、したんだ……!

     がんばるって……!!

     ――うあっ……あああああああ!!


☆コーネリアM:ステラ、ごめん……本当にごめん……ごめんね……!!


●ステラ:ああああああああああ!!


◇N①:ステラの叫びと共に、身体から放電し始める。

    部屋全体にまばゆいほどの輝きを放ち、周囲の壁や

    ガラスにヒビが入る。

    バイタルサインや感情波形のモニターから異常を

    知らせる警告音が鳴り響く。


☆コーネリア:ステラ!!


△ヴェルナー:おおっ……


☆コーネリア:部長! これ以上はやめてください!!

       このままではステラが——


△ヴェルナー:すばらしい……


☆コーネリア:部長!!


△ヴェルナー:これならば――


□ハイネ:何をしている!!


◇ロイド:おいおい、これは一体どういうことだ!


☆コーネリア:ロイド先輩! 統括補佐とうかつほさ!!


△ヴェルナー:おや、用事の方はもう終わったのかね?

       それにしても早い――


□ハイネ:今すぐ投薬を中止にしろ!


△ヴェルナー:――正気かい?

       早期治療を君も望んでいたはずだ。


◇ロイド:お言葉ですけど、このままじゃステラの能力が暴走して、

     ラボ自体にも危険が及びますよ!


△ヴェルナー:それを制御するのが、君たち、アーク・サイエンス部

       の仕事だろう?


◇ロイド:だったら、どうして俺たちに黙って治療を行ったんですか!

     本来のクリニカル・パスならば、今日は治療日じゃないはずだ!!


△ヴェルナー:落ち着き給え、ヴィーデマン君。

       連絡の不備はびよう。

       だが、彼女の能力が強力なものとは言え――


□ハイネ:ヒューリンデンで起きた、NSエヌ・エスインダストリー第八研究所

     ――通称、スターロンバー研究所の爆発事故は、ステラの

     能力が暴走したことで起きたものだ。


◇ロイド:ちょ、先輩……!


☆コーネリア:えっ……!?


△ヴェルナー:…………。


□ハイネ:機密に指定されている事実だが、このことを口外せず、

     その上で今回の治療継続について是非ぜひを重視しろ。


☆コーネリア:っつ!


◇N①:コーネリアはそう言って、投薬中止のボタンを押した。


△ヴェルナー:ドクター・エンゲルマン!

       私は止めていいとは言っていないぞ!!


◇N①:徐々にステラは落ち着いていき、それを示すように雷も収まっていく。


☆コーネリア:ステラ!!


●ステラ:はぁ……はぁ……ドクター……


☆コーネリア:大丈夫?!


●ステラ:ごめ、んなさ……い……わたし、がまんできなかった……


☆コーネリア:くっ……ごめんね、ステラ! ごめんね!!


□ハイネ:…………。


△ヴェルナー:これは重大な越権えっけん行為だぞ、統括補佐とうかつほさ


□ハイネ:どういうことだ、ストレンジラブ。


△ヴェルナー:君の行動は、本プロジェクトにおける不適切な干渉かんしょうだ。

       医療部として抗議させていただくよ。


□ハイネ:ステラの特殊能力は、想定を超えたものだ!

     お前は、ここを第二のスターロンバーにするつもりか!!


△ヴェルナー:それは君の想像の上での話だろう!

       能力を含めてコントロールは可能な範囲だ!


☆ハイネ:アーク・サイエンス部のバックアップもあってこその話だ!

     それに、安全性を評価するのは私の仕事だ!

     統括補佐とうかつほさ権限を行使する!

     本プロジェクトにおける安全評価、ならびに

     医療部の治療プランについて見直しを要求する!


△ヴェルナー:それはいくらなんでも横暴すぎる話だろう。

       〝覚醒療法かくせいりょうほう〟はステラ・ディーツにとって生命線だ!

       君は——ヒューリンデンの件で、証人としての

       価値がないからと、彼女の命をどうでもいいもの

       と考えているのかね?


□ハイネ:――医療部がラボラトリーと患者自身の

     双方そうほうを守れないのならば、

     ステラを他の医療機関へと転送させる。


△ヴェルナー:はぁ……ならば、統括とうかつの判断をあおぐ必要があるな。


□ハイネ:なんだと?


△ヴェルナー:当然だろう?

       そもそも〝覚醒療法かくせいりょうほう〟にはリスクが

       伴うことは、君も理解していた筈だ。

       だが、治療を行う事がデメリットよりも、

       メリットが上回ると判断した。

       君の独断による、治療に支障をきたす問題の

       責任を我々だけにしてもらっても困る!

       君は考えを変えるつもりはないだろう。

       それは私も同じだ。

       なら、統括とうかつに是非を伴う事は道理のことだろう?


□ハイネ:――わかった。


△ヴェルナー:では、行こう。


☆コーネリア:統括補佐とうかつほさ……


□ハイネ:私の事は大丈夫だ。

     行ってくる。


☆コーネリア:はい……


□ハイネ:ロイド、頼んだぞ。


◇ロイド:はい……気を付けて。



【5】


<アスクレピオス・ラボラトリー 統括制御部/エレベーター内>


☆N②:統括とうかつ室に向かうエレベーターの中。

    先程まで言い争いをしていた者同士しかいない

    箱の中は、重苦しい空気で満たされていた。


◇ハイネM:――ヒューリンデンの件で、ここしばらく

      彼女に会っていなかったな。

      正直、会うのははばかられるが……


☆N②:やがて、エレベーターは目的地へと到着する。

    ラボの最上階、開いた扉の先には広い殺風景な部屋があった。

    そして、ひとりの女性がいた。


△ヴェルナー:失礼するよ、統括とうかつ


□ハイネ:…………。


☆N②:背を向いていた女性が振り返る。

    女性の名前は、フローレンス・ブラックウェル。

    アスクピレオス・ラボラトリーのトップで、

    ハイネの数少ない友人の女性である。



【6】

<????>


☆N②:時を過去に戻す。

    まだアスクピレオス・ラボラトリーが出来る前の在りし日。

    科学技術都市・イディアのホテルにて、とある会合が

    行われていた。


●女性:ウィリアムズさん!

    先程のフローレンス・ブラックウェルさんとの

    合同発表は素晴らしいものでした!


□ハイネ:ありがとうございます。


◇男性:いやはや、ユグドラシルにこんな素晴らしい研究者が

    いるとは感無量かんむりょうです!

    しかも、お二人はまだまだお若い!!

    きっと、後の世代の研究者たちが目標とするはずですね。


●女性:ええっ!

    そんな若い優秀な御二人には、是非、我が社に

    来て頂きたいのです!

    相応そうおうのポストに、報酬ほうしゅうをお約束します。

    よろしければ前向きなご検討をいただきたく――


□ハイネ:折角せっかくのありがたいお言葉ですが、

     ここでお断りさせてください。


◇男性:そう、ですか……残念です。


●女性:ですが、お心変わりがありましたら、連絡を。


□ハイネ:申し訳ない、失礼します。


◇男性:――――ちっ、若造わかぞうが偉そうに。


●女性:まあ、いいじゃないですか。


◇男性:それもそうだな。

    奴はブラックウェルの泥船どろぶねに乗っている。

    しずみかけている船に、いつまでも乗り続ける馬鹿じゃないんだろう。

    きっと、後に泣きついてくるさ。


●女性:あの方も天才とは言え、両親の後ろ盾がない以上は、

    いくら名門家とは言えどもおしまいですね。


◇男性:まったくだ!


◇男性 / ●女性:アハハハハハ!


□ハイネM:――もう少し聞こえないように話してもらいたいもんだ。


☆N②:煩わしい喧騒から逃れるように、静かな

    バルコニーへとハイネは向かった。

    そこに、ひとりの女性がいた。


◎フローレンス:――あら、あなたもここに涼みに来たの?


□ハイネ:お前と同じだ、フローレンス。

     どうも、あの空気は好きになれない。


◎フローレンス:今のユグドラシル科学界の現状よ。

        沢山の企業家に声をかけられたでしょ?

        私もそうよ。

        彼らは科学や人類の発展を声高こわだかに言うけど、

        興味があるのはお金と名誉だけ。

        私欲のために手を組んだり、争ったりを繰り返している。

        お父様とお母様が亡くなった瞬間に、

        部下や懇意こんいにしていた企業家たちはバッシングし、

        それなのにブラックウェル家の名が大きいだけに、

        私にびへつらっている。

        ――どうして、ヒトって、そこまで恐ろしいモノに

        なってしまうのかしらね。


□ハイネ:安心しろ。


◎フローレンス:えっ?


□ハイネ:俺は科学者ではあるが、特殊能力者アーク・ホルダーでもある。

     悪意を持ってお前に近付く奴は、俺が

     全てらしめてやるだけだ。


◎フローレンス:あはは! 相変わらず、ハイネはおもしろいわね!


□ハイネ:面白い事を言ったつもりじゃないんだが……


◎フローレンス:冗談じょうだんよ。

        ――ありがとう、あなたはいつも私を守ってくれた。

        ううん、私だけじゃなく、死んだ両親の名誉も。


□ハイネ:礼には及ばない。

     それに夫妻ふさいは命の恩人で、憧れの存在だ。

     二人は多くの功績を残し、ユグドラシルだけじゃなく

     世界を発展させた。

     卑怯者ひきょうものたちには消すことが出来ない大きなものだ。


◎フローレンス:そうね。

        そんな二人の背中を追い続け、私も科学のともがらとなり、

        二人の研究を引き継いだ……私はお父様とお母様は

        最後まで正しいことをしていたと証明したいの。


□ハイネ:お前の功績を考えれば、ご両親の思いも報われるだろう。


◎フローレンス:――いいえ、まだまだよ。

        もっと頑張らないといけないの。

        はる彼方かなたそらの向こう側

        ――宇宙を解明しないといけない。

        アークが元々あったと言われる星々の世界を、ね。


□ハイネ:随分ずいぶんと大きい夢を語ったな。


◎フローレンス:夢というのは大きいものじゃないと、夢ではないわ。


□ハイネ:そうだな……だが、その夢を叶えるに俺たち2人

     では難しいだろう。


◎フローレンス:そう! だからこそ、私たちにはチームが必要なの!

        小さいチームじゃなくて、大きなチームがね!


□ハイネ:チーム……


◎フローレンス:年齢や経歴は関係なく、科学を追い求める探究心

        にあふれるヒトたちを集めるの!

        そして、すべて科学分野のトップランナーを

        目指して!!


□ハイネ:だが、世界はアーク瘴気しょうきや紛争によって

     蹂躙じゅうりんされ続けている。

     この国だっていつまでも平和な時を

     過ごせるかどうかは保証されていない。

     実際、その目標を実現するには多くの

     困難が立ちふさがるだろう。


◎フローレンス:そのために、私達は立ち上がるのよ!

        アーク瘴気しょうきやアークホルダー

        の問題を解決することで、紛争の根絶に繋がるはずだわ!

        それに、私の目標に一致する。

        ならば、それらをまとめて研究することで多くの問題が

        解決されるかもしれない!


□ハイネ:それじゃあ、会社を作らないといけないな。


◎フローレンス:ええっ! その考え、最高!!

        私たちの会社ならば、研究に専念することができる!

        きっと素晴らしいものになるわ!!


□ハイネ:お前ならきっとできるさ。


◎フローレンス:いいえ……私だけじゃダメだわ。

        ハイネ、一緒にやりましょう!


□ハイネ:ならば、荒事あらごとなら俺に任せろ。

     そうすれば、お前は安心して研究に専念できる。


◎フローレンス:あなた程の能力の持ち主ならば、私だけじゃなく

        国を守れちゃいそうね!

        ――それじゃあ、ハイネ!

        これからもユグドラシルの科学と、私を

        守ってちょうだい!


□ハイネ:ああ……任せてくれ。



【7】


<アスクレピオス・ラボラトリー 統括執務室>


☆N②:そして、時は現在に戻る。


◎フローレンス:――久しぶりね、ハイネ。

        元気にしていたかしら?


□ハイネ:それなりだ、統括とうかつ


☆N②:ハイネの返答を聞いて、笑みを浮かべていた

    フローレンスは、威厳いげんがある表情へと変える。


◎フローレンス:それで、ご用件は?

        ヴェルナー・ストレンジラブ医療部長。


△ヴェルナー:実は——



(間)



◎フローレンス:――状況は理解したわ。

        ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ、彼の述べたことに異議はある?


□ハイネ:いいえ。


◎フローレンス:であれば、〝覚醒療法かくせいりょうほう〟を中止する必要はないわ。


□ハイネ:白紙に戻せと言った訳ではない。

     被験者の安全を考慮した新たな治療計画を策定し、

     再検討をするべきだ。


◎フローレンス:もう一度確認するけど……

        「患者、ステラ・ディーツは改善の経過を辿っている」

        ――という、ストレンジラブ医療部長の見解に

        異議はあるの?


□ハイネ:いいや、異議はない。


◎フローレンス:なら、それでいいじゃない。


□ハイネ:だが!


◎フローレンス:ハイネ……私達のラボはあらゆる進歩を

        はばめる権力者に異議を唱え、ユグドラシルだけじゃなく、

        この世界の科学と人類を発展させるために存在している。

        そのことは忘れていないわよね?


□ハイネ:――科学技術の進歩はつねに危険と背中合わせだ。

     進歩のみを目指して突っ走る科学技術が、社会に深い

     亀裂きれつゆがみをもたらす。


◎フローレンス:……同じことを父も言っていたわ。


□ハイネ:現に今回の薬剤過剰投与により、ステラの

     能力は暴走一歩手前だった。

     くだんのスターロンバー研究所での爆破事故も

     彼女の能力が暴走したことが原因だ。

     これはステラ・ディーツだけの問題じゃない、

     ラボ全体の問題となる。

     慎重を期すのは当然の結論だ。


◎フローレンス:ハイネ……ならば、父のこの言葉も覚えているわね。

        ――「感情は利己主義との表裏一体ひょうりいったいであり、

        それだけで物事を決めることは危険である」


□ハイネ:私の判断は感情的ではなく、理性的なものだ。


◎フローレンス:今回の暴走自体、本当に薬剤に

        原因があると言えるのかしら?


□ハイネ:なに?


◎フローレンス:現にスターロンバー研究所は、彼女の暴走に

        よって消えた。

        それは明らかな事実よ。

        でも、彼女が暴走した原因自体を考えたことはある?

        現に瘴気しょうき被曝者である以上、

        瘴気汚染による苦痛が彼女の暴走を引き起こした

        とも考えられる。

        だったら、ストレンジラブ医療部長の治療は、

        それを抑えることが出来る可能性も考えられる。


□ハイネ:それは推測でしかないだろう。


◎フローレンス:ええっ、その通りよ。推測でしかない。

        それに覚醒療法かくせいりょうほうは、あの帝国ですら

        さじを投げた先進的治療よ。

        ならば私たちは探究の手を停める訳にはいかない。

        ――これは選択よ。

        治療による「勝利の可能性」か、それを

        放棄ほうきすることによる「確実な敗北」かを。


□ハイネ:…………。


◎フローレンス:それに、彼女の能力が暴走したとしても……

        ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ、あなたがいる。

        そうでしょう?


□ハイネ:対処は可能だ。

     しかし、それを避けることを最優先事項とし、

     患者と研究員たちの命と安全を守るべきだ。


△ヴェルナー:ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ、私達を信じて欲しい。

       リスクを理解して治療を望んでいる。

       それに医療部も何のそなえもないわけではないんだ。


◎フローレンス:では、本件については……

        医療部の判断に一任する、ということでいいわね?

        その一方で、ストレンジラブ医療部長にも

        統括補佐とうかつほさの仕事について理解して欲しい。

        今回のことは彼の職務の一環であり、それに

        懸念けねん自体は非合理的なものではない。


△ヴェルナー:それは承知しているよ。


◎フローレンス:それに、あなたなら利益と危険性の適切な

        バランスを取ることは可能でしょう。


△ヴェルナー:もちろんだとも、統括とうかつ

       統括補佐とうかつほさの想定するリスクをもとに、安全性を

       再評価し、適切な治療を行うとも。


◎フローレンス:これでいいかしら?

        ハイネ・ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ


□ハイネ:……ああっ。



【8】


△ヴェルナー:それじゃあ、失礼するよ。


◎フローレンス:……統括補佐とうかつほさは残ってちょうだい。

        話があるから。


△ヴェルナー:なら、邪魔者の私はさっさと退散させてもらうよ。



(間)



◎フローレンス:――さて、スターロンバー研究所の調査

        について軍から感謝の言葉があったわ。

        それに生存者の発見もあり、大統領から

        受勲じゅくんの発表があったそうよ。


□ハイネ:とは言っても、真相は未だに解明されていないことが多い。

     現に、責任者であるウェゲナー・スターロンバーは未だ

     行方不明で、調査の継続が必要だ。


◎フローレンス:ユティから聞いたわ、彼女を連れて

        再調査をしたらしいわね。


□ハイネ:再調査の結果、事故の原因や人体実験の証拠

     をつかむことが出来た。

     NSエヌ・エスインダストリーについては、裏があるのは明らかだ。

     このまま野放しにしていれば、新たな犠牲者を生むはずだ!


◎フローレンス:ダメよ、調査は終了よ。


□ハイネ:真実を隠蔽いんぺいするのか!


◎フローレンス:その件に関しても前の会議で話し合ったでしょ?

        それに事件のことが明らかになれば、ステラ・ディーツの

        治療プロジェクトが難航なんこうするだけじゃなく、アーク瘴気しょうき

        関する研究も滞ってしまうわ。

        大衆は未知を何よりも恐れる。

        ――だから、時として世論を抑え込み、証拠を隠滅いんめつする

        必要があるの。

        それに……隠ぺいしたがっているのは連邦政府の意向よ。


□ハイネ:スターロンバーは、科学者として超えてはならない

     一線を越えたんだ!


◎フローレンス:あの爆破事故で生きているはずはないわ。

        きっと報いを受けて死んだのでしょう。


□ハイネ:奴の行った実験は、一企業ができるものではない!

     裏で必ず大きな組織が糸を引いていたはずだ!!

     でなければ、同じようなことがまた――


◎フローレンス:ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ

        それはあなたの個人的見解でしょう?

        アスクレピオス・ラボラトリーの見解ではない。

        中央政府は終わりを告げている。

        なら、我々としても同意見よ。


□ハイネ:しかし!


◎フローレンス:済んだことよ。

        これ以上、この話をする気はないわ。


□ハイネ:……それが統括としての結論なんだな。

     わかった……失礼した。



(間)



☆コーネリア:統括補佐とうかつほさ


□ハイネ:ドクター・エンゲルマン……どうして、ここに?


◇ロイド:おいおーい、俺の事も忘れてもらっちゃ困るっすよ~


□ハイネ:ロイド、お前もここにいたのか……


◇ロイド:――何かあったんすか?


□ハイネ:えっ?


◇ロイド:あんたが職務中にファーストネームで呼ぶなんてあり得ない事ですから。


□ハイネ:……ストレンジラブ医療部長が治療の安全性を

     保障するという結論になった。


☆コーネリア:部長も同じことをおっしゃっていました……


□ハイネ:ドクター・エンゲルマン。


☆コーネリア:はい。


□ハイネ:しばらくは仕事があって来られない。

     その間は、ステラのことを頼む。


☆コーネリア:はい、わかりました……


□ハイネ:ロイド、部署は違えど同じプロジェクトに携わっている身だ。

     彼女の補佐を頼んだぞ。


◇ロイド:わ、わかりました……



【9】


<アスクレピオス・ラボラトリー 地下駐車場>


▽ユティ:――ねえ、どこに行くつもりなの?


□ハイネ:何の用だ、ユーティライネン・リーズベリー部長。


▽ユティ:あら、他人行儀な感じを出しちゃっているのはどういうことかしら?


□ハイネ:悪いが、無駄話をしている余裕はない。


▽ユティ:――調査に行くんでしょ?


□ハイネ:私用で出掛けるだけだ。


▽ユティ:勤務時間なのに~?


□ハイネ:そうだ。


▽ユティ:あたしも統括とうかつにこれ以上突っ込むなって言われちゃったわ。

     なら、勝手に調査をするしかないじゃない。

     ね? そうでしょ?


□ハイネ:――統括とうかつの支持者として俺を止めに来たのか?


▽ユティ:冗談じょうだんを言わないでよ。

     私だってアーク・ホルダーだけど、アンタに

     かなわけないじゃない。


□ハイネ:なら、止める訳じゃなければ調査に協力するのか?

     それをしてお前に何の得がある? 何が狙いだ?


▽ユティ:ひどいわ! あたしを利益や自己保身しか考えない

     人間だと思っているの?

     アンタと同じく正義のために真実を明らかに

     ――って、待ってよ!

     車のエンジンをかけないでよ!!



(間)



▽ユティ:――で、これからどうするの?


□ハイネ:スターロンバー研究所について再度調べる。


▽ユティ:まあ、そうよね~

     あの研究所の規模から考えて、相当な資産が必要なはずよ。

     なら支援者については限られてくるはずだわ。

     それが競争相手ならば私たちの有利となるわ!


□ハイネ:――よし、車から降りろ。


▽ユティ:ちょっと待ってよ! てか、降ろすなら停車してよ!!


□ハイネ:結局は政治のためか。


▽ユティ:アンタね、会社のことを考えるなら、そういうことも

     考えないといけないのよ!

     それにアテがあるんだから! 絶対に役立つはずだもん!!


□ハイネ:そのアテというのはなんだ?


▽ユティ:聞いて驚きなさい! ハイラント諮問しもん委員会よ!!


□ハイネ:よし、降りろ。


▽ユティ:ちょっと! 最後まで話を聞きなさい!!


□ハイネ:都市伝説ネタを持ち出すとかふざけているのか?


▽ユティ:スターロンバー研究所だって存在したじゃない!!


□ハイネ:……確かにそうだな。それで?


▽ユティ:えっ?


□ハイネ:おまえが驚いてどうするんだ……話を続けてくれ。


▽ユティ:まったく……彼らからコンタクトがあったのよ。

     前にNSインダストリーの支援者リストを

     手に入れたのは覚えているでしょ?

     で、それをどこかから聞きつけたらしく、ご丁寧に

     エージェントをよこしてきたわ。


□ハイネ:ワナの可能性は?


▽ユティ:ないと思うわ。


□ハイネ:なぜ、そんなことが言える。


▽ユティ:エージェントに会えばわかるわよ。


□ハイネ:あまりにも根拠が乏しすぎないか?


▽ユティ:でも、このまま研究所を探したって

     何も見つからないと思わよ。

     ……それに彼らがスターロンバー研究所について

     警察と軍に通報したらしいわよ。


□ハイネ:なんだと?


▽ユティ:もちろん委員会の名前で、ね。

     これが証拠よ。


□ハイネ:……確かに軍情報部に見せてもらった資料と一緒だ。

     あの時は一部黒塗りにされていたが……


▽ユティ:ねっ? 言ったでしょ?


□ハイネ:……わかった、お前を信じよう。

     どこに向かえばいい?


▽ユティ:彼らは待ち合わせに、国境の街・ザルツバーグを

     指定してきたわ。


□ハイネ:リューネブルク王国との国境近くか……

     随分と遠いところを指定してきたな。


▽ユティ:で、どうするの?


□ハイネ:無論だ、行こう。


▽ユティ:それじゃあ、長旅に付き合ってもらうわよ!

     ザルツバーグへレッツ・ゴー!!

 


(To be continued......)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

【声劇台本】流星のおとし子、星の涙(アークホルダー・フラグメントレコード) 家楡アオ @aoienire

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ