ジョジョに奇妙な住宅の内見

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 私は売れない物書き崩れの六五月りこつき茂助もすけ。物書き崩れと名乗っているが、流行っていない古本屋で週五日働いているので古本屋店員が本業だ。

 売れない本屋で当然儲けも無い。だから私に入る給料は雀の涙。

 素敵な金のかかる趣味なんてものはもっての外で、売れなくとも相手にされなくとも小説を書きたいという気持ちがあって、だから休日は一日三文小説を書いているか散歩をしているので窮屈な暮らしはしていない。


 それでも、ストレスを感じて法に触れないギリギリ悪い事や倫理的にアウトにならないスレスレのロクでもない事をしてしまおうという考えに襲われて実行する事が稀に、いや、頻繁にある。

 具体例としては、先週、家近くの公園で休日に歌を大声で熱唱してやった。

 途中、子ども達がそれを見て面白がって一緒にアニソンを歌い出し、ウォーキングに来ていたおっさんがアイドルソングを熱唱、デートをドタキャンされたJKがキレながら演歌を歌い、騒ぎを聞いてやってきたお巡りさんがヘヴィメタ噛ましてシャウトして歌合戦に……いや、この話はまた今度にしておこう。

 要は、はっちゃけたくなったのだ。


 何をしてやろうかと思い、職場からの帰り道、普段は通らない裏路地を見つけた。

 何があるか分からなかった。だから入る事にした。

 普段自分の居る街とは少し違う場所の様な、自分が街の何処に居るか分からなくなるような不思議な雰囲気の場所を通って、行き止まりに看板を掲げた建物を見つけた。


 『萬世よろずよ不動産屋』


 不動産屋なのに物件の張り紙一つ無い、不動産屋なのに明らかに立地が最悪、中の様子を覗くと案の定閑古鳥が鳴いていた。

 「不動産屋、不動産屋ねぇ……イヒヒ」

 今回のはっちゃけを思いついた。



 「こんにちは。未だ開いているだろうか?」

 建物の中に入ると古い建物独特の香りがした。といっても、ウチの古本屋程ではない。

 「いらっしゃいませ。未だ開いておりますよ。今日はどういったご用件で?」

 店の中に入り、没個性的な会社員の風体の男が迎えてくれた。しかも、予想していた言葉を口にして。

 「実は、物件を探していてね。」

 「はい、どのような物件でしょう?」

 「いや、私は売れない物書きをやっていてね。最近不動産を主題とした小説が流行っているようなので一度手を出してみようと思ってね。

 面白い物件や小説の参考になりそうな不動産は無いだろうかと思ってここに来てみたのさ。

 そちらに、取材の参考になりそうな不動産はあるだろうか?」

 非常に面倒で厄介、意地悪な質問をした。不動産屋は不動産取り扱うプロだが、そんなものは基本的な商品知識には無いはずだ。

 今回の私のはっちゃけは『ひやかし』だった。

 そう、その心算だったのだが、意地悪な笑いを隠す私に対して不動産屋の男はニッコリと笑って言った。

 『沢山ありますよ。内見しますか?今から。』

 その表情に不自然な所がなく、あまりにも自信満々が過ぎたので私は面白くなってきて『是非頼もう。』と言った。

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