お嬢様と従者の隠れ家探し

孤兎葉野 あや

お嬢様と従者の隠れ家探し

「こちらがご希望の条件に合った、都市郊外の貸家でございます。」

私達をここまで案内してきた、仲介業の担当者が恭しく微笑む。


家の周りは都市の中心部と異なり、静かな雰囲気。剣士や魔法士、商人も雑然と歩き回り、治安がそこまで良いとは言えないあの一帯よりも、護衛対象と共に暮らすには適した場所だろう。


「ありがとうございます。中を確認させていただいても?」

「ええ、もちろんです。」

当然ではあるけれど、外から見るだけではなくて、建物の内部も確認する。今までの日常では耳にすることの無かった言葉だが、『内見』と言うらしい。

そこで確かめるのは、部屋の内装や住みやすさという点はもちろんだけれど、私にとっては守りやすさ・・・例えば侵入者への警戒や、罠の設置に適していることも外せない。

・・・貸家の役目が終わって出ていく時には、原状回復しますよ?



「では参りましょう、お嬢様。」

「楽しみですわね、ミカ。」

私が言うと、『お嬢様』がすっと手を差し出してくる。此処では少しばかり出自の良い主従を演じる以上、おかしなことでもないかとその手を取れば、『繋がる』感覚があった。


『何でしょうか? お嬢様・・・いえ、王女様。』

精神感応を使うということは、私達の間でだけ話したいことがあるのだろうから、『お嬢様』ではない本当の身分で呼ぶことにする。

もちろん、近くの国の王族がこんな所にいるものではないから、真の目的はただ家を借りるのではなく、王女様の隠れ家・・・あるいは活動拠点を決めることだ。


『ねえ、みーか。』

・・・・・・すぐに返事が返ってきたけど、きっと気のせいだ。

隣国に甚大な被害を与え、我らが母国をもいつか揺るがすだろう組織を追うため、身分を隠し自ら調査に乗り出した王女様が、こんな調子で声をかけてくるなんて。


『お・う・じ・ょ・さ・ま・?』

『みーか♪』

あっ、これダメなやつだ。こうなったら最後、幼馴染として彼女に接しなければ、絶対に話をしてくれない。


『はあ・・・何なのよ、ひいか。』

二人ともまだ口が回らなかった、小さい頃からの呼び名を、繋がりに乗せる。


『何って、また難しいこと考えてたでしょ。私達が一緒に住む家なのよ。どんな飾り付けが出来るとか、小物を置こうとか、楽しく決めましょう? ほら、ご覧なさいな。』

表向きはお嬢様と従者を演じながら、業者の説明に耳を傾け、時々質問などする中で、王女様が明るい声を伝えてくる。


『なかなか雰囲気の良い居間よね。お店で素朴な花瓶を買ってきて、近くに咲いていたお花を摘んで、窓辺に飾るの。素敵そうじゃない?』

『・・・この窓なら色々と細工が出来そうね。不届き者が手を掛けたら、悪夢を見せてあげられるわ。』


『あっ、みーかが照れてる。お仕事に集中する振りをして。』

『そのお仕事が、誰の護衛だと思ってるのよ。少しはこういう所も考えて。』

『はーい。まあ、みーかのことは信じてるから、任せるわ。それに、いざとなれば私のほうが強いし。』

ほう・・・・・・言ってくれるじゃない。


『ひいか。貸家を決める用事が済んだら、武器なしでの組手勝負を申し込むわ。』

『望むところだよ! でも、武器ありなら私のほうが強いって認めるんだ?』


『くっ・・・さすがに状況判断で嘘を吐くわけにはいかないわ。というか何なのよ? あの王家伝来の超火力武器は・・・!』

『遠い昔のご先祖様達が、剣と魔法のお師匠様達に憧れて、少しでも近付きたいって創り上げたものらしいわよ? まあ、同じように魔力をたくさん使えるようにする修行とかも代々やってきたおかげで、それなりの適性が無いとまともに扱えない代物になったそうだけど。』


『どう足掻いても私には無理だったのよね。いや、本来は触れる許可すら出ないものだと思うけど。』

『もう・・・! 頭の固い人達がなんて言うかはともかく、みーか以外に誰が私の装備に触れて良いって言うのよ。練習での貸し出しならいつでもするわ。』


『・・・ありがと、ひいか。』

『うん、よろしい。』

ふざけている時も多いけど、こういうところは絶対に譲らないのが、この幼馴染のずるいところだ。国を揺るがす組織を追うというのも、真剣だろうし・・・



「それでは、こちらで決定ということで、宜しいですね?」

「ええ、お願いしますわ。」

そうして、精神感応を使った会話を裏でしていることは悟られることなく、貸家の内見は無事に終わり、王女様も私も問題なしということで、当面の隠れ家が決まる。


『今日から此処が、私達の愛の巣になるのね、みーか。』

『契約書の確認してる時に、とんでもないこと言うんじゃないわよ・・・!

 吹き出しそうになったじゃない。』

動揺が表に出そうになったのを、すんでのところで止める。悲しいかな、こういうことには慣れているのだ。


『えー・・・違うの?』

『ち、違わなくて良いけど・・・』

片時も離れず、寝るのも同じ毛布でというのは護衛としても安心よね、きっと・・・

頬が熱いけれど、業者にはどうにか怪しまれることなく、契約の手続きは完了した。

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お嬢様と従者の隠れ家探し 孤兎葉野 あや @mizumori_aya

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