第3話 神格レベルの召喚術師

 ふと気がつくと、そこは見覚えのある真っ白な世界だった。


 ここ、転移執務室だよね!? いつのまに???

 もしかして、転移執務室のおねーさんの仕業ですか?


(はい。なお私の正式名称は『正義の女神』です。ところで、さきほど家賃滞納者を刑事で告訴したいと心の声が聞こえたんですけど、あなたの声でよろしかったですか?)


 え? あ、うん。たしかに俺だけど。そんなことできるわけな……


(できますよ。なぜならそれがアナタのユニークスキル『宅地建物取引士』ですから)


 え? そうなの?? 刑事告訴なら宅建士じゃなくて弁護士の領域なきがするけれど……


(細かいことは気にしないでください。現在はチュートリアル。詳細ルールはいずれ理解できる日が来るでしょう。そんなことより、ユニークスキル『宅地建物取引士』を行使しますか?)


 細かいことではないような気がするけれども……ま、いいや。


「はい!!」


(承知しました。ユニークスキル『宅地建物取引士』を行使します!)


 転移執務室のおねーさんが叫んだ途端、俺は再び宿屋へと飛ばされる。


「さっさと朝食よこしやがれ! このもやし野郎!」

「このもやし野郎!」


 …………あれ??


「何すっとぼけてるんだこのもやし野郎!」

「このもやし野郎!」


 なんでだ? 何故だが時間が数秒巻き戻っている。

 俺はバラとモンに、再び朝食のプレートを奪われた。その時だ。


 な、なんだ、あれ!?


 突然、宿屋の天井に真っ白な穴が空いて光が差し込んできた。

 でもってその穴から転移執務室のおねーさんが、左手には天秤、右手には剣をもって、ゆっくりと降りてくる。


 ? どういうこと??


「なんだこの女、突然現れやがって!」

「やがってでやんす!」


 驚くバラとモンをガン無視して、転移執務室のおねーさんが天秤を高く掲げる。


「バラとモン、家賃滞納の罪で、懲役6ヶ月、または罰金50万円の刑に処す! ん? あなた達、持ち合わせがないようですね。では、問答無用に懲役6ヶ月ってことで!!」


 転移執務室のおねーさんは、目にも止まらぬ早業で、右手に持った剣でバラとモンを横薙ぎに一刀両断にする。


「ぎゃあああ!!」

「ぎゃあああ!!」


 バラとモンは断末魔をあげるが、傷ひとつついてない。


「ん? ……いたくない。驚かせやがって!」

「でやんす!」

「よくみりゃ、なかなかのいい女じゃねえか。俺たちの部屋でハッスルしないかい?」

「ハッスルでやんす!」


 バラとモンが、転移執務室のおねーさんに抱きつこうとしたときだった。

 とつぜん、ふたりが煙に包まれていく。そして、


「んもー?」

「めぇー?」


 ふたりはウシとヤギへと変化していた。


「懲役刑を施行するため、被告を家畜に変化させました。メスにしておきましたから、毎日新鮮なミルクが飲めますよ」


 な、なるほど、刑務所に収監できないから家畜にして懲役刑にかけるシステムってことか!

 でも、元おっさんのミルクなんて、ちょっと、イヤかなりきもちわい……


「あら、ご不満ですか? で、あれば屠殺して食用にするのはどうでしょう」

「ん!! んもー!?」

「め!! めぇー!?」

「そんな物騒な事しませんよ!!」

「そうですか? では、バラとモン。半年間の懲役で、これまでの愚かな行為を反省しなさい。では、私はこれで」


 そう言うと、転移執務室のおねーさんは、再びゆっくりと浮かんでいって、宿屋の天井にあいた白い穴へと消えていった。


「すげえ! 激レアスキルの召喚術だ」

「しかも女神を召喚だなんて! 神格だぞ!!」

「お、おい、おまえ、一体、なにもんなんだ?」

「!! ひょっとして、ユニークスキル持ちか!!!」


 一部始終を見ていた酒場の冒険者たちが、矢継ぎ早に質問をなげかけてくる。


「ええ、まあ。一応、『宅地建物取引士』っていうユニークスキルを、さっきのおねーさんに戴きました。はい」


「「うおおおおおお!!」」


 酒場は大歓声につつまれた。


 うん。なんだかわからんけど、ユニークスキルってのが理論を超越したトンでもスキルだってのは理解できた。

 でも、翌々考えたら、このユニークスキルって利用用途がめっちゃ限定的じゃない!? 家賃の取立てくらいしか使い道が無いぞ!!


 ……まあ、いいや。


 俺は所詮はモブの宿屋の下働き。便利なユニークスキルがあっても、もて余すだけだもんな。

 この時の俺は、自分のユニークスキルをこの程度にしか考えてなかった。


 だってそうだろう?


 なさか自分が、この世界のパワーバランスを揺るがす存在にまで成り上がるだなんて……想像なんて出来るわけ無いだろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る