怖がりな私のゆずれない引越し先の条件

高山小石

お題「住宅の内見」

 私は、引越し先候補の内見の同行を、いわゆるえる系友人に頼んだ。

 私が希望する条件に合う物件を確実に選びたいからだ。

 今日は四軒まわる予定で、午前から不動産屋さんの車に二人で乗り込み、東へ西へと運ばれている。


「――ここ、死んでる」

 六畳の部屋に入った瞬間、ポツリと友人がつぶやき、指さした。

「ベッドの上」

 いま内見しているのは、誰も住んでおらず家具ひとつない部屋だ。


「うわっ。今、鳥肌立ちました! たまにえるお客様がいらっしゃると聞いてはいたのですが、私が担当するのは初めてです! どんな感じに視え」


 私はワクワクしている案内役をさえぎっていた。


「あの!」


「あっ、ここはお止めに」


「ここに決めました!」


「ええっ」


 私が視える系友人に頼んでいたのは、部屋で死んだ人間がいるかどうかを教えてもらうことだ。


 もちろん、それだけではいろんなパターンが考えられる。

 だから中でも、寝具の中で本人が満足して息を引き取っている場合のみ頼んでいた。


 巻き込まれ体質の私は、外を歩けば事故にあい、誰かと仲良くなれば刺されかける。


 重度の怖がりに成長した私は死ぬのも怖い。


 居心地の良い部屋で穏やかに暮らし眠るように死ぬのが、今の私の理想なのだ。


 こんな私の希望ズバリな部屋などそうそうない。私はすぐに引っ越した。


 越してすぐはバタバタしていた。


 在宅ワークのかたわら荷物を整理し、食べて片付けて掃除して。


 あの部屋に友人から聞いた配置で置いたベッドで眠る頃には疲れ切って、すぐに眠れた。

 

 異変が起きたのは、部屋が落ち着いてからだ。

 

「っん、はぁ」


 ベッドで寝ているとなぜか快感が襲ってくるようになったのだ。

 

 そういえば、私は理想の条件に合う部屋が見つかった喜びのあまり、死因までは友人に聞かなかった。

 『本人が満足している』のを私は勝手に老衰だと思いこんでいたけど、今度、かくに……んんぅっ。

 


「……死因は腹上死だけど大変ご満悦だったから、条件は合ってる、よね」

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怖がりな私のゆずれない引越し先の条件 高山小石 @takayama_koishi

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