【KAC20242】 モンスターハウス

🔨大木 げん

第1話モンスターハウス

 私の名前は岡田たかし

 大手ハウスメーカーで設計士をしている。


 ようやく長年の夢だった、自分の設計した新築住宅が完成し、妻と生後3ヶ月の娘と3人で都内で暮らしている。


 入居してから今日でちょうど一ヶ月になる。


 だが、しかし・・・


 どうも妻のかなでが産後うつをわずらってしまったようなのだ。


 奏は、子供が好きで愛情深い性格をしている。

 自分の赤ん坊にあそこまで不快感を示すような女性ではなかった。


 産婦人科で相談したところ『産後うつ』との診断をされてしまった。療養の為、明日から群馬県の彼女の実家に、娘と2人で帰ってもらうことになった。


 ◇◇◇


 実家で三ヶ月くらい療養すると、産後うつの症状は見られなくなったので、それからは一ヶ月に一度程、実家からこちらに来てもらい2、3日ほど新居で生活してみるが、そうするとまたもや具合が悪くなるのだ。


 私の単身赴任のような状態はしばらく続いた。


 冬が終わりに近づき、花粉症の症状を感じ始めたので、かかりつけのアレルギー科の小川医院を受診した。いつもの薬を処方してもらう時に、世間話として家の状況を話した。


 小川先生は首を傾げて「それって産後うつだけじゃなくて、シックハウス症候群の可能性も有るんじゃない?産婦人科では何も言われなかった?」と言った。


「いや、先生、私はなんともないですし、建材もちゃんと『F☆☆☆☆』以外使わないようにしましたよ。」


「アレルギーは個人差が有るから、微量だとしてもシックハウスの症状が出る人もいるのよ」


 私はもの凄いショックを受け、しばらく放心状態におちいってしまった。


 ・・・新居の方に原因があるのか?

 そんなはずは無いと思いたいが・・・


 花粉の時期が終わる頃、私は一つの決断をした。

 半年前より妻と義両親に、「群馬の実家で一緒に住まないか」と言われていたのだが、ようやく決心がついたのだ。


 私は群馬の支社に異動願を出し、都内の新居は賃貸にすることにした。


 これで私もマスオさんか・・・


 ◇◇◇


 今日は住宅の内見で、我が家にお客さんが来る日だ、気に入って契約してくれるといいのだが。


 ピ〜ンポ〜ン


「こんにちは~。内見を予約していた和田です。今日はよろしくお願いします」


「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」


 御夫婦で来てくださったようだ。・・・赤ちゃんも抱かれているので3人だな。


 ふと病院での会話が頭をよぎる。

「産後うつではなく、シックハウス症候群かもしれない」


 私はそう思うと最高に機能的でデザインもイケてると思っていた我が家が、急にモンスターハウスに見えてきた。


 私はこのモンスターハウスを笑顔の裏で、次の犠牲者になすりつけようとしているのかもしれない。

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