2人目の運命の人

磨白

2人目の運命の人

「ねぇ、聞いたことある?運命の人って2人居るらしいよ」


彼女は突拍子もなく僕にそんな話を始めた。


「聞いたことないな、てか運命の人ってそう何人もいて良いもんなのか?」


「良いんじゃない?」


「じゃあ、もし運命の人が2人いたとするだろ?」


「うん」


「もし同時期に2人ともと出会ったらどうするんだよ」


「……二股?」


「考えうる限り最悪の選択肢を選ぶんじゃない!!!」


えへへ〜、と頭に手を当てて笑う彼女。笑ってごまかせると思うんじゃないぞ。


「でも私は一生一途だったでしょ?」


ウインクして茶化すように彼女はそう言った。


「そういうのは……反則だ」


「あれ、照れちゃった?意外とこういうの弱いよね」


彼女が顔を近づけてくるので、目線をそらすと彼女は楽しそうに笑った。


「ま、でもそんなことは絶対起こらないから安心して」


「そんな断言できることではないだろ」


「いや、そもそも2人の運命の人は役割が違うんだ。だから大丈夫なの」


「役割?」


「そう」


何かもったいぶるように間を開けた後、彼女はゆっくりと言った。


「運命の人は2人いて、1人目は別れの辛さを、2人目は永遠の愛を教えてくれるらしいよ」


「じゃあ、君は2人目の運命の人だね」


僕の言葉に驚いたような表情をして、首を振った。


「そうじゃないって君が1番わかってるでしょ?」


「うるさいな、良いじゃないか。君が最後の彼女でも」


「私的には、良くないんだよ。私はあなたを縛りたくない。あなたに幸せになってほしいの。私じゃ、あなたの側にいてあげられない。今日こうやって会えたのは奇跡みたいなもんなんだよ」


「……」


「それはあなたもわかってるんでしょ」


「……あぁ」


「今日が終わればまたあなたはまた1人になる。そんなの私は耐えられないの」


彼女が僕を包みこんだ。


「もう、もうあなたは充分別れの辛さを味わったよ……だからお願い、幸せになって」


彼女のぬくもりは感じられない。ただ辛い、寂しいといった負の感情が僕の心の中を満たして知った。


…それでも、それでも僕は


「君が2人目の運命の人だよ」


「……どうして?」


「君と過ごした思い出は消えないからかな」


「だからなんだって言うの…?私はあなたの側には……!!!!」


彼女の言葉を遮って僕は続ける。


「例えば、スーパーにでかけて買い物をするとして。確かに君の姿はないかもしれないし、話しかけても何も返ってこない。けど、思い出せるんだよ。すごく鮮明に。君とここで過ごしたって事実をね。そのことが僕にとって何より幸せなんだ」


多分、僕の言葉は空気を震わせることは出来ても、君の耳には直接は届かないんだろう。心にだってきっと響かない。けど。それでも、君には伝えておきたかった。


「愛してるよ、この世の誰よりも」


「馬鹿じゃないの、今更その言葉に意味なんて……」


「うん、ないのかもしれない。でも、生きてるうちはもう二度と言えないかもしれないからさ」


「……寂しい思いさせるよ?」


「大丈夫、いずれ絶対に会えるから」


「……側にいられないよ?」


「沢山思い出があるから」


「……愛も伝えられないよ」


「ちゃんと覚えてる。君の気持ちも」


僕は思いっきり彼女を抱きしめた。と、認識した。これにどれほどの意味があるのかは誰にも分からないけど




『君は僕の2人目の運命の人だよ』


























「ちゃんと伝わったかな」


いや、それはそこまで重要じゃない。でも僕の心には踏ん切りがついた。君を忘れないで一生覚えている勇気が。


「また奇跡が起きたら遊びにおいで。また会いにくるよ」


僕は彼女の名前が書かれたお墓に背を向ける。


今日は3月5日。


彼女が亡くなって三年目の春だ。

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2人目の運命の人 磨白 @sen_mahaku

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