内見へいこう!

羽間慧

内見へいこう!

 優歌ちゃんは僕にチラシを見せた。


「パパ。子どもが増えたから、家がキュークツになったと思うの。広いところがいい」

「うちだって素敵じゃないか。優歌ちゃんが一から設計した、世界に一つだけの家だ」


 夫婦が並んで料理できるキッチンや、ダイニングのシャンデリアは、優歌ちゃんのこだわりが詰まっていた。手放すなんてもったいない。


 僕の力説に優歌ちゃんは頬を膨らませた。気に入った物件があったから、内見に行きたくて堪らないみたいだ。こうなったら僕が賛成するまで口を聞いてくれなくなる。


「分かったよ。見るのはタダだからね。次の土曜日に内見へ行こう」

「やったぁ! パパにありがとうって言うのよ。いちご、もも、あんず」


 生まれたてで僕のことを認識できているのかは分からないが、優歌ちゃんに手を振られているのは可愛い。一番可愛いのは、何を着ていこうか考える優歌ちゃんだけど。



 🏠🏠🏠



 物件を実際に見た優歌ちゃんは、部屋のレイアウトが目に浮かぶようだった。


「この部屋もすてき! 白い窓が可愛いし、屋根裏部屋もある! パパの部屋はここでいいや。書斎とビールの入る冷蔵庫があればいいもん」


 膝が悪くなったら、リビングで作業するようになるよ。そのときパパが邪魔だって言わないか心配だ。


「ピアノとダイニングテーブルを入れたら、場所がなくなりそう。三つ子ちゃんの三段ベッドとジャングルジム、おままごとセットもあるのに。いい住まいを見つけるのって、こんなに大変なのね。頭痛くなっちゃった。パパが今の部屋を見つけてくれたのも、だいぶ時間かかったの?」

「そうだよ」

「じゃあ、引越しはやめる。パパと部屋をリノベーションしたい」

「優歌ちゃん……」


 引っ越し費用が浮いて、僕は安堵した。勝手に契約を結んでしまっては、優歌ちゃんに甘すぎるとママに怒られてしまう。


「どんな部屋にしたいか、パパとまた一緒に考えよっか」


 僕は優香ちゃんの手を引っ張り、おもちゃ売り場を後にした。

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