出る部屋

つばきとよたろう

第1話

 その部屋は最強に怖い心霊スポットだと噂されていた。それで家賃も破格で、こんな安い金額で借りられる物件は、この町を探してもどこにも見つからなかった。最中さんは霊感もなかったし、そんな噂少しも信じなかった。不動産屋に連れられて、部屋の内見をしたとき、部屋の扉を開けると、天井から首をくくった男の人がぶら下がっていた。不動産屋は震え上がったが、気持ちを落ち着けて平静を装った。ぶらぶらと風もないのにひとりでにそれは揺れていた。この世に未練を残して恨めしいと囁いているように思えた。部屋に上がると、いるはいるは天井にはニ十体近くの男女様々な首吊り死体がぶら下がっていた。不動産屋は声を上げないように必死で堪えた。顔は青ざめ、体は凍り付いたみたいだった。もし最中さんがいなければ、悲鳴を上げて一目散に逃げていたところだ。不動産屋は屠殺されて吊り下げられたような死体の群れに触れないように、体を細くして部屋の奥に進んだ。その部屋にはもう一つ部屋があって、普通なら扉が開いて中が見えるようにしてあるのに、そこは閉まっていた。それで不動産屋は隣の部屋を案内しようと、わざわざ扉を開いた。扉を開いて、叫びそうになった。床にはバラバラの死体が血まみれになった転がっていた。もう何体の死体がそこにあるのか分からない。ここでどんな凄惨な事件が起こったのか、容易に想像できた。不動産屋は、ふーと息を吐いて気持ちを落ち着けた。それでも鼓動は、早まるばかりだった。その部屋の壁には血で書いたような赤黒い文字で、呪うと書き殴ってあった。不動産屋は思わず顔を逸らした。そうしなければ、呪われる気がしたからだ。

「如何です? 別に気に入らなかったら止めても構わないですよ」

 そう言ったのは、良心の呵責からだった。最中さんは、明るい笑顔を作った。

 ここに決めますと言って契約を決めた。それから何年も住んでいるが、別に変ったことは起こらないという。

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 出る部屋 つばきとよたろう @tubaki10

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