2-11 ダンジョン風

 握りしめた万札が、光となって四散する。

 そして。


――さんざーい☆キッチン!


 軽快な名乗りと同時に新鮮な食材と調味料、調理道具が、コンロ付きのアイランドキッチンと共に姿を現した!


:サンザイ☆キッチン、キターーーーーー!!!

:揚げ物の時間だあああ!

:かっらあげ☆彡 かっらあげ☆彡

:唐揚げと言っても、味付けによって全然味違いますから。これは楽しみですね~


「ど……どういう事アル!? これがユウヘイの、スキルアル!?」


 突如として目の前に現れたキッチン・スタジアムに驚くリンファ。

 そんな彼女に、スキル<散財>は料理対決のルールを説明し始める。


――本日のお題は『唐揚げ』です。鶏もも肉を油で揚げたものであれば全て唐揚げと見なします。どちらがより美味しい唐揚げを作れたかで、勝負してもらいます。


「ちょっ、ちょっと待つアル! 今、誰が喋ってアル!?」

「だから。俺のスキル、<散財>さんだってば」

「スキルが喋るわけないアル!」

「それが、割とよく喋るんだよなあコイツ」


 最初は<散財>さんも俺の脳内だけで喋ってたけど、最近は天の声みたいに、他の人にも聞こえてるらしい。

 まぁ俺としてはその方が、見えないお友達に叫ぶみたいな事にならないから、助かるけど。


 とりあえずリンファは、<散財>されたアイランドキッチンの食材をチェックし始めた。


 鶏もも肉はたっぷりと。揚げ物に必須な油に小麦粉、片栗粉、卵も完備。

 味付けに使う調味料は多種多様で、スパイス類も揃ってる。他にもにんにく、しょうが、レモン、マヨネーズなど、からあげと聞けば大体思い当たる食材が所狭しと並んでいる。


「これだけあれば、リンファが作りたい唐揚げも作れるだろ?」

「確かにどれも、上出来な食材アルけど……そもそも! 作ったところで誰が試食するアル!? ユウヘイのパーティーメンバーが審判するなら、不公平アル!」


――その心配には及びません。あちらにお越しの三名に、判定してもらいます。


 いつの間にか設けられていた審査員席には……三名の異形が座っていた。


 第一階層で異常出現イレギュラー・ポップしたデビルラビットは、審査員席の椅子をお尻で潰し、鼻をひくひくさせながらニンジンを齧りまくってる。

 その隣は、復活リポップしてきた第六階層のフロアボス――溺死ドラウンドゾンビ。青い顔で審査員席につっ伏して、口から光る粘液を垂れ流してる。

 そして三番目の席は……薄ぼんやりした白い影。ファッキューレイの亜種? 魂? が、宙にゆらゆら浮かんでる。


「こいつら全員魔物じゃねーかっ! 最後のヤツなんて、口すら付いてないぞ!」


――こう見えて三人とも、ダンジョンでは食通で名が通っている魔物です。今回の料理対決の審査員役を打診したところ、二つ返事で了承して下さいました。


「いつ打診したの!? つーかお前、普段出歩いたりとかしてんの!!?? ホントに俺のスキルなの? なんなのっ!!!???」


――ギャラも格安で引き受けて頂き、感謝しかありませんね。


「ギャラとか払ってんの⁉ 魔物に!? その請求も<散財>に含まれてんの⁉」


――まったく。いちいち私のコーディネートにケチ付けないで下さい。ここまで準備するのに、結構大変だったんですよ? リンファさんも、これなら文句ありませんよね?


 設備を確認していたリンファは、<散財>の問いかけに顔を上げた。


「魔物だろうとなんだろうと……この場にいる全員が食べれば、自ずとどちらが美味いか分かるはずアル」

「俺たちに食べさせるのはフェアじゃないって、さっき言ってたじゃないか」

「審査員じゃないなら、食べる事自体問題ないアル。丁度今はお昼時。唐揚げなんて何個作っても一緒アルし、全員、ワタシの唐揚げと敗北感でお腹いっぱいになるよろし」

「俺たちは四人で、協力して作っても構わないのか?」

「もちろんアル。その代わり、ワタシが勝ったらお前たち全員の魔石を戴くアル」

「俺たちが勝ったら、リンファはパーティに加わる。それでいいな」

「異論ないアル」


:盛り上がってまいりました!

:腹減ってきた……俺も唐揚げ食いたい……

:ご飯にキャベツ、トマトもあるし、唐揚げ弁当にもできそうだな

:プロ相手に料理勝負なんて、無理ゲーじゃない?

:ユウヘイが言い出しっぺなんだし、何か策があると見た


 コメントが盛り上がりを見せる中、俺は三人を呼び寄せ作戦会議する。


「ちょっとユウヘイくん。私お料理なんて自信ないよ? さすがに無謀じゃない?」

「あたしも料理は苦手だ。アメリカで唐揚げなんて、ナクドーナルのナゲットくらいしか食べた事ないんだぞ!?」

「私は多少料理するけど……揚げ物は家でやらないかな。後片付け大変だし」


 委員長、アメリア、ナデコと、三人は一斉に不安を口にする。


「大丈夫。ここは唐揚げマスターの俺に任せろ」

「どういう経緯で、唐揚げマスターになったんだよ……」

「唐揚げにとって一番大事な事、なんだか分かるか?」


「ファイヤー! とかだろ、知らんけど」

 と、適当に答えるアメリア。


「七味とマヨネーズ、みたいな?」

 と、オッサンくさいトッピングのナデコ。


「あ、料理は愛情! これでしょ!」

 と、ロマンチストの委員長。


 俺は「違う違う」と首を振る。


「ここはダンジョン内のサンザイ☆キッチン。唐揚げだって魔石稼ぎだって、チームワークが一番大事だ」


 俺たちは膝を突き合わせ、ごにょごにょと打ち合わせする。

 これこそ前代未聞、空前節後の唐揚げ――それなのに。


「でも、それって……」


 一通り話し終えると、ナデコが驚いたように言う。


「ちょっと普通過ぎない?」

「いーや。これこそが俺たちにしか作れない、ダンジョン風唐揚げだ!」

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