柊木 深月

 夏休みも終わり、残暑が残る、9月。文化祭実行員をクラスで決めないといけないと先生から連絡が有った。ボクはそんなの興味がなく上の空だった。誰かがきっと内申点を取りたい人がやってくれるだろうと思う。今日は何を弾こうかそんなことばかりを考える。アコギとの出会いは中学の時に音楽の授業で習ったときだ。アコギの音色がとてもきれいで惚れてしまったのだ。コード進行を覚えるまではとても大変だった。ボクの小さな指では抑えるのが大変だったけれどなんとか頑張って引けるようになった。努力というのは報われるそう感じた。頑張れば頑張るだけ色んな音を奏でられる。そうやってアコギに嵌っていった。そして、放課後前のHR、文化祭実行委員会をきめる話が上がった。クラスの委員長は実行委員会にはなれないらしく、教卓で委員長さんは嘆いていた。どんだけ学校に貢献したいんだろう。まぁ私には関係ないななんて思いながら今日はどこでアコギを弾こうかなんて迷っていた。みんなやりたがらないみたいで場は動かなかった。そりゃ当たり前か。みんな面倒事は嫌だもんなとさらに他人事。誰かがやってくれるだろうそんな感じだ。

「自薦される方いませんか?」

委員長が同じことを何回も発言している。委員長は大変だなぁ。

「いないようでしたらくじ引きになります」

委員長が決めたのならそれは仕方ない。だってそうするしかないからね。クラスは満場一致した。A4用紙を細かくちぎり、くじを作る。他の用紙でくじを入れる箱を作る。丸印が書かれたクジを引かれた方が文化祭実行委員をお願いします。委員長は申し訳程度にアナウンスした。前の席から順にクジをとっていく。私は背が小さく、後ろだと見えないので前の席にいるので早めに引けた。みんな引き終わって一斉に開く。

「あ……」

声が漏れるというのはこういうことだろう。今日はくじ運が抜群にいいようだった。そういえば今朝の星座占いも確か一位だったっけなんて思いながら。

「藤堂さん?」

「はい、丸印ってこれですよね」

「そうです。では文化祭実行委員会お願いしますね。私もサポートはさせていただきますので」

私はうなずいた。HRは丁度終わりの時間だった。今日はアコギが引けないらしい。まぁ決まった事だから仕方ないと思わないといけない。

「では、これにてHRを終わります。みなさまありがとうございます。さようなら」

その言葉を皮切りに皆が教室から出ていく。せっかくアコギが引けると思ったのに。よりによって実行委員会だなんて……まぁくじ引きの運が良すぎたのが良くなかったのだ。諦めて務めることにしよう。

「藤堂さん今日、視聴覚室で実行委員会の顔合わせがあるみたいだから参加お願いしますね」

「わかりましたいいんちょーさん」

ボクも教室をあとにして視聴覚室へと向かう。どんな人が来るんだろう……どうせやるなら楽しい人たちがいるといいなと思う。各学年クラスで一名ずつの選出だから、12名の生徒が集まることになる。それに先生が一人かな。まぁまぁなグループ編成になる。先生がきれいにまとめられる人だったらいいなぁ。まとめ上げるのがうまい先生だと話がスムーズになる。ボクみたいにクジでたまたま選ばれた人もやる気を引き出せてくれる気もする。因みに視聴覚室は、ボクの教室から少し遠い。校舎がまず3階建てで、視聴覚室は3階。ボクの教室は1階で中央階段から登ると向かって右側に視聴覚室がある。なので右側の階段で登ると少し早い。ただ、ボクの教室は中央階段が近いのでそこから登る。階段は少ししんどい。体力はそんなに多い方ではない。少し息を切らして三階に登り切る。視聴覚室の前にはおそらく文化祭実行委員会に選ばれた人たちがいる。視聴覚室は常時閉まっている。先生が鍵を持ってきて開ける事になっている。理由は知らない。ということは先生はまだ来てないということがわかる。クラス持ちの先生なのか時間にルーズの先生なのか、色んな想像が膨らむ。

「ごめんねぇ……すぐ開けますー」

後ろから声が聞こえた。若くて透き通る女性の声だった。あぁこの声は数学担任の雪先生だ。ボクはこの先生が結構好きな方だ。若くてボク等の意見をきちんと聞いてくれる珍しい先生。少し安心した。たしか、二年のクラスの担任持ちだったっけ。先生の後ろには背の大きいすらっとした男の人がいた。学生服を身に着けてるし先生ではなさそう。知らない人だからきっと先輩であることに違いない。もしかしたら雪先生のクラスの人なのかも知れない。現に、何かの資料を持っているようだった。

そうして、視聴覚室は雪先生の手によって解錠され、生徒たちがぞろぞろと視聴覚室に入っていく、ボクも流れてそのまま入室する。最後らへんに入室したので手前の席しか空いておらず、私はちょこんと前に座った。

「遅れてすみません、私の受け持つクラスがバタバタしちゃって……改めて実行委員のみなさん、文化祭盛り上げていきましょうね!!では、過去の資料を参考になると思って刷ってきました、レジュメ形式でお渡ししますね。橋田くんみんなに配ってくれる?」

橋田くんと呼ばれた先ほど雪先生の後ろにいた生徒が、レジュメを配っていく。受け取ったレジュメをさらっと読む。雪先生らしいまとめ方をされていて読みやすいなと思った。

今回は初日ということで、自己紹介と今後の活動についてを話し合いだった。金曜日の放課後に30分くらいの会議をするという。そもそも実行委員会は何をするのかというと、クラスの出店を決めること。偏りをなくすために、ジャンルの振り分けを私達で決め合い、そのジャンルに沿って、出し物を決めるというものだった。その他、クラス外での出し物の選定例えば各部活動から出し物を決めたりするのも実行委員会が生徒会と一丸となって決定する。と、言う感じらしい。確かにそのほうが生徒会の負担を減らせるのかも知れない。そして実行委員会のリーダーを各学年から、一名ずつ決めましょうと雪先生はいった。上学年の方たちはなれているのだろうかという速さで二名決まった。一年の私達は、まごまごしており決まらずにいたが、雪先生が私を推薦してきた。

「藤堂さんお願いできるかしら?私も全力でサポートするわよ」

私は、流れに弱い。断りきれずに承諾した。

「あ、はい」

「そうしたら今日は、ひとまず解散ね。次は来週の金曜の放課後忘れないで来てちょうだいね」

そうして、今日は解散した。

「あ、そうそう3名は少し残れるかしら」

そう雪先生はそう続けて私達リーダーに声をかける。私は全然問題はなく承諾をした。2年生の方も問題なさそうだったけれど、3年生の方はこのあとの用事があるということで二人で話をすることになった。

「あーそうね。どうせリーダーするんだから3人で連絡を取り合えるようにしときなさい」

そう言われて、リーダー同士で連絡先を交換した。

「じゃ、三上くんはまた来週ね」

そういって三年の先輩はその場を去っていった。

「では……今後円滑に進めるための話し合いをしましょう」

私は自然と授業で使うルーズリーフを取り出してメモする体制になっていた。やっぱり雪先生は人にやる気を出させるのが得意なんだろうなと思った。決まったときはもうめんどくさいの一言に尽きたのに。

3人で色々と取り決めが行われた。ボク達リーダーが他の実行委員会の進捗具合を確認する。進んでなければ相談、そして雪先生に相談。出し物のジャンルは、飲食、展示、舞台の三項目だ。展示はお化け屋敷とかも含まれる。それぞれクラスで第三希望まで出して、実行委員会で報告、そこから選定する事。詳しいことは後日先生と3人で詳しく決めることになった。

「じゃぁ、これくらいかしらね。あ、少し遅くなってしまったね。少し待ってもらえれば内緒で送るわよ?」

「や!大丈夫です」

「じゃぁ、橋田くん一緒に帰ってやって。どうせ吹奏楽ももう終わりの時間でしょう?」

「や、いいですよ一人で帰れます」

「そんな事言わないの女の子なんだから」

そう言って先生は橋田先輩に私を任せて一緒に視聴覚室からでて颯爽として職員室へ帰っていった。

「す、すみません先輩」

「んー気にしてないよ。雪先生ちょっと強引な所あるから」と先輩は少し笑った。

「確かに」私も釣られる。

「改めて、橋田光です。二年ですってわかるか」

「あ、はい。ボクは藤堂美月です。一年です」私は同じように返す。

「じゃぁ、藤堂さんだね。よろしくー」

「よろしくお願いします。橋田先輩」

「なんか照れるなぁ可愛い女の子に先輩って」

「私は可愛くないですよ……よく根暗って言われます」

「そーなの?俺にはそんな感じしないけど……」

「あ、そういえば吹奏楽はいいんですか?」

「大丈夫。もう多分最後のミーティングくらいだから」

「そーなんですね。因みに何されてるんですか?」

「んー一応打楽器かなぁ。ほんとはドラムやりたいんだけれどね」

「あーそんな感じしますー」

「え?そう?そんな事言われたことないなぁ」

「えーそうなんですか?」

「そうそう。そういえば、部活見学のときに来てくれたよね?結局入部しなかったんだね」

「え……なんで知ってるんですか」

「今年うちの部活の見学者そんなに多くなかったからさ自然的に……」

「それでも結構経ってるのに……」

「なんか印象残ってたんだよねぇ」

「なんですかそれ」

「ま、まぁそんな感じ」

そんな感じの当たり障りない会話をしながら、家の近くまで先輩に送ってもらった。その会話は少し楽しくて、また話してみたいなって思えたのも事実だった。今度はギターの話出来たら良いななんて思いながら私は家にたどり着いた。



色々有った。実行委員会は滞りなく進んだ。さすが雪先生だ。私のクラスは展示会に決定した。それから次は、各部活動で希望するかを募うことになった。

「皆さんのご協力により早い段階でのクラス出し物が決まり一安心です。次は部活動での出し物をするかどうかを決めて行きます。前年度は全部活動が参加したみたいです。今年度も同じように出来たらと思います。ご協力をお願いします」

三年のリーダーさんが、話をする。雪先生と同じような感じで勧めてくれる三年生は、さすがだと思いました。先生も満足そうで、ニコニコしている。

「部活動で、クラスみたいにジャンル分けはあるんですか?」と、他の一年生が質問した。

「いいえ、部活動では特に制限を設けておりません。部活動に関しては文化部は文化祭なので思い切り自分たちを出してほしいと思っています。運動部のみなさんはできれば活動内容と同じにしていただきたいとは思っていますが、一般開放もあるので小さな子を来校することを考えるとすこし、難しいと思いますので、飲食などでも構いません。前年度の文化祭もそうでした。」

「ありがとうございます」

「まぁでも私達がすることはあんまりないです。顧問の先生に伝言をお願いしておりますので、そこから集計などをするだけになります。なので実質そこまで動くということはないのです」

そうやって、今日の実行委員会の会議は終わった。

「今日もありがとうございました。では解散。リーダーは少し話をまた煮詰めるので少しだけ残ってください」

私達は毎週同じようにリーダー会議をする。というのは建前で4人での他愛のない会話のほうの割合は多かった。

最初に切り出したのは橋田先輩からだった。

「今回、全部活動参加してくれますかね」

「どうだろうね、まぁ参加するんじゃない?アピールもできるし」

リーダー会議の時は敬語が崩れるのは三年の三上さんだ。

「吹奏楽部はもちろん参加するんだろう?」

「そうですね。参加すると思いますよ。一応みんなでどんな曲をやるかをみんなで決めてる最中です」

「三上先輩は、部活なんでしたっけ」

「自分は、バスケ部。だからまぁ飲食になるのかな。去年何したか覚えてないなぁ」

「一年前のことって忘れちゃいますよね」

「藤堂さんは帰宅部なんですよね」

一連の流れを終えて、次は橋田先輩は私に話をふる。こう気配りしてる感じが橋田先輩なんだなぁって思った。まだそんなに顔を合わせて仲良くなったわけじゃないけれどなんとなくそんな気がした。

「そうなんですよ。実はアコギが好きで、家で練習したりしてるんですよね」

「おーそうなんだね。アコギの音色良いよね」

「そうなのか、藤堂さんアコギ引くんだ」

意外そうに三上先輩は会話に参加してくる。続けて三上先輩はこんな事を聞いてた。

「エレキには興味ないの?」

「今の所はないですねー。」

「バンドとかは興味ない?いや、最近音楽聞くようになってバンドの曲が好きで」

「うーん。そうですね……あるにはありますけれどアコギが好きなのでアコギ枠では入れたらって思います」

「アコギ枠かーなるほど。え?じゃぁ弾き語りとかしてたりするの?」

「恥ずかしながら……やるときもあります」

「実はその藤堂が弾き語りしてるの聞いたことがあるぞ」

雪先生がいきなり入ってくる。そう。実は雪先生に川辺でアコギを練習していたときにたまたま見られたのだ。そこから、少し好きな曲をお披露目した。雪先生は褒めてくれたし、これからも応援してくれると言ってくれた数少ない人だった。

「そういえば、そうですね。その説はどうもありがとうございます」

「生徒が夢に向かってるのは嬉しいからな。私も学生の頃はバントがしたくて、とりあえず楽器を引きたいと思い楽器ショップへいって楽器を買ったのは良いものの結局ホコリまみれになっただけだったしな」

「先生にもそんな過去があるんですね。なんか意外」

「意外とはなんだ失礼な」

そんな感じで話が大分それてしまい収集がつかなくなるのがリーダーが会議だ。それからまた少し話をして、今日の議題をまとめ、議事録を先生に提出した。そして、みんなでお疲れ様と言いあって視聴覚室から出た。話が弾んだことにより時間が少し遅かった。以前のように橋田先輩が私のことを送るという謎のパターンが生まれた。でも橋田先輩と話して下校するのは楽しくて、少し安心する。なぜ安心するのかはわからないけれど。

「それでは、また金曜日に会いましょう」

お互いが、それぞれの帰路につく。

三上先輩は部活の居残り練習に、先生は職員室に。ボクたちはそのまま下校。吹奏楽部はやることはないらしく、前回と同じパターンになる。

「三上先輩みたいに居残り練習しないんですか?」

「うーんそこまでお熱はないかなぁ……」

「なるほど、でも一緒に帰ってくれるの嬉しいです」

「う、うれしい?!」

「あ、いえ。一人でも全然良いんですけれど、話し相手いたほうが楽しいので」

「なるほどなー……」

先輩が少し可愛いと思ってしまった。なんでかわからないけれど。言動がなんか小動物っぽくて昔買ってたハムスターを思い出した。

「そういえば、なんで先輩はパーカッション?してるんですか?」

「ん?あー……最初はかっこいいなって思ったんだ」

「かっこいい?」

「うん。ごめん嘘。楽器やるとモテるって誰かに聞いたから」

正直なところもなんか可愛すぎて、いじりがいがありそうだなってボクは思ってしまった。

「なるほど。でもモテたいならギターとかのほうがもてるんじゃないですか?」

「確かにそうなんだけれど……ギターはセンスがないみたいで全然上達しなかったんだよね……」

「パーカッションのほうが難しそうですけれど……」

「なんか俺はそっちのほうがあってたみたいで……んで、最近ドラムを始めたんだ」

「へぇあのドラムですよねバンドの後ろの方にいる感じの」

「そうそうそのドラムね。将来誰かとバンドできたらなって思うんだ。人に音楽を響かせることをやってみたくってさ」

「あーわかります。私はアコギに助けられたんですよだからこのアコギを使って私みたいな人を一人でも助けられたらなって」

「そうなんだね。じゃぁ今度弾き語り見てせよ。ちょっと興味ある」

「いいですよ、今度弾き語りさせていただきますね」

橋田先輩と弾き語りの約束をした。上手く演奏できるだろうか。少し緊張する。いつもどおりにやれば問題ない。それに橋田先輩はバンドに関して興味あるんだなって思った。まぁ確かにボクがイメージするバンドにはドラムは必ずいるなと思った。バンドに必要なメンバーを思い浮かべてみる。とりあえずドラムは確実だとして……あとはなんだろう。ギターも必要か。でもギターとドラムだけって何か物足りないな。あ、そうだ。ベースも必要。これでバンドできるのでは?と思ってしまった。

「橋田先輩!先輩が考えるバンドって何を構想されてるんですか?」

「んーそうだねーそんなに多いと大変だから3ピースくらいが丁度いいと思っていて。まず自分のドラム。あとはドラムだけだとリズムが寂しいのでベースがほしいかなー。でやっぱり最後はメロディーを奏でるギターがいいな。それからボーカルは二人がいいんだよね」

「そーなんですか?」

「うん。女性の声と、男性の声にそれぞれ魅力があるから。因みに俺はそんなにきれいな声をしていないからボーカルは務まらんのだけれどね」

「え……そんな事ないとおもいますけれど」

「どうしてもドラムに集中しちゃうと言うか……カラオケとかなら大丈夫なんだけれど」

「あーそういうことですね」

今日はなんかいつも以上に話が盛り上がる。まぁ音楽の話だし当然といえば当然か。ボクも橋田先輩もそれぞれ音楽が好きだし。それになんか橋田先輩は好きなものを話していると、キラキラしているような気がする。いや、人が好きなことを話す時必ずキラキラしている気がする。どんな人でも、好きなことを話せてる時は主人公なんだって思う。橋田先輩にも同じ景色は映っているだろうか。映ってたらいいなって少しだけ思う。

盛り上がってしまうと家につくのも早い。もう分かれる場所についてしまった。名残惜しくてしばらくここでお話をする。10分も満たないのにそれ以上に感じられた。

「じゃぁ、今度弾き語り絶対聞かせてくれよな!」

「はい。ではさようなら」

そうして、別れて少しの道を一人で帰る。弾き語りの時は何を歌おうか、そんな事を考えていた。先輩がもし褒めてくれるなら、先輩のバンドに加わりたいなって少し思ってしまう。ボクなんかが加わって良いのかなって思うけれど。

家について、少しアコギをさわる。いつ奏でてもいい音だ。この優しい感じの音が本当に好きだ。今度聞かせる弾き語りは女性アーティストの曲を引いてみようと思った。ボクの声に合うようなそんな曲。そして、先輩に良い声と思ってもらうために。

先輩はどんな声色を求めてるんだろう。すごく気になる。先輩とバンドが組めればいいという気持ちがボクの中を満たしていく。以前は一人でこのアコギを広められたらと思っていたのに。先輩との話で先輩と活動したいと思ってしまった。

そのために、先輩に選ばれるために。もっと上手く……もっと上手く歌を歌えたら良いのに……。そんな気持ちを思い続けたら突然歌いたくなった。夜の河川敷は誰もいない。以前先生にあったくらいだ。大丈夫。家の中では思いっきり歌えない。ご飯を食べたら外へ出よう。

「ご飯食べたら少し外で練習するね」

「わかったけれどあんまり遅くならないようにな、一応女の子なんだから」

母も昔から外に出ることに嫌味を言わない。学生の頃自分も同じように外出しまくっていたくらいやんちゃな性格だったらしい。おじいちゃんによく怒られたって何回も私に話してくる。私と同じ血が流れてるんだから抑制したって意味ないと思っているらしい?なのでそこらへんは理解があるので助かっている。父もそこまであたりがきついわけじゃない。親に恵まれてるなって思う。好きなことを好きな時間にできるのは本当に嬉しい。だからボクは結構両親の事を信頼しているし、尊敬している。親のためになにか出来たらなっていっつも思っている。この趣味を仕事にして、親に感謝の気持ちをいつか歌ってみたいなと思った。それを実現するためにも、アコギ一本では無理な気がしてきたから先輩とバンドを組みたいなって思ったのも事実だ。だから私は河川敷で練習をする。一番好きな弾き語りの女性シンガーの曲をめいいっぱい歌う。この曲を歌うと勇気が出てくる。いずれは作詞、作曲をしてみたい。この女性アーティストみたいに。力強い曲を書いてみたい。河川敷はちょうど人通りも少ないし、家々も適度に離れてるから歌うには本当に最適で好きな場所の一つ。本当は公園とか路上とかで歌ってみたいけれど少し恥ずかしい。もしかしたら上手じゃないのにこんなところで歌うなよとか思われたら嫌だし……。でも人に聞かれることによって上手くなるとどこかで聞いたことがある気がする。いずれは人前に出て歌うことをしないとなって思ったりもする。だから、余計に先輩とバンドを組んで少しでもその恥ずかしさを共有して打破していきたいなって思っているボクもいた。でももし本当にバンドを組むとなると、アコギとドラムだけじゃ本当に寂しい。だれかベースできる人いないのかな……。ベースは男の人で歌唱力が高い人が良いなぁとほんのり思う。

 しかし、今日は上手く弾けているような気がする。なんでかはわからないけれど指がスムーズに動いている気がする。一つ成長したような感じで調子が良いのかも知れない。練習成果を実際に感じると少しうれしい。気持ちが前向きだとやっぱり音楽も前向きになっていく感じがする。暗い歌を歌うのはあまり好きじゃない。元気なアーティストを目指したいなって練習をしているといつも思う。元気を配れるアーティストになれたらっていう思いがあるからなのかも知れない。練習をはじめると時間が経つのが早い。気づけばもう九時前だった。家に帰らないとあまりにも遅くなるといけないと思いギターをケースにしまって家路についた。



 今年も全部活が文化部の参加が確認できた金曜日だった。運動部のほとんどは飲食関係の出典だった。文化部は、活動内容の報告だったり、体験会にするということだった。これで大方文化祭実行委員会の仕事は片付いた。あとはまとめて、いかに円滑に進めるか、各クラスの準備の先導が主な役割になってくるという話だった。まぁ確かに実行員だしそうかなんて思いながら、実行委員の仕事をするよりも最後のリーダー会議が楽しみになっていることは自身びっくりしている。先輩と繋がれたっていうのがきっと本当に嬉しいんだろう。同じ好きなものを語れる友達がいなかったのが大きいのかもしれない。一人でやっていくにはそろそろ限界があったんだと思う。ボクもいずれはシンガーソングライターになるって言う夢はいつの間にかバンドで名を広めたいに変わっていたのも驚きを隠せなかった。先輩と音楽活動ができるならきっと楽しいんだろうなぁなんて日に日に大きくなっていく。アコギの練習もいつもより気合を入れた。先輩に良い声だって言ってもらえるように頑張った。準備は万端だ。文化祭実行委員会も抜かりはない。クラスの先導は委員長さんと一緒にできている。活動報告もスムーズで執り行われる。先生や、三上先輩や橋田先輩のおかげだ。ボクは結構何もできてない。

「おーい?藤堂?聞いてるかー?」

不意に雪先生に呼ばれた。

「・・・あ!はい?なんです?」

「やっぱり聞いてないじゃないか。今度大きい集まりは隔週金曜日じゃなくて、頻度が減って二週間に一度になるって話だよ」

「え、そうなんですか全然聞いてませんでした」

「どうした上の空で藤堂ってたまに抜けてるよな」

「そうですかね」と笑ってごまかした。

「そうだ、大きな決まり事は決まったので、それぞれクラス毎の進捗に力を入れてほしいと思ったからだ。進捗情報なんて毎週やってたら面倒だろう?まとめるのも私が大変だし」

「それ先生が楽したいからじゃないんですか?」

「まぁ楽できるのことはしたほうが人生は捗るぞ。残業をいかにしないかが私の目標だからな」

「残業って……まぁ確かにこの委員会自体業務外みたいなとこありますからね……」

「そうなんだよ……上が押し付けてくるからな……」

再び私は笑ってごまかす。でも、集まりが少なくなるのは少し寂しいな……先輩と絡みが少なくなってしまう。どうしたらもっと先輩と関わりをもてるだろうか……。やっぱりバンドを組むしかないのかも知れない。

「今日は少し早めだが、切り上げるぞ。私も最近は他で忙しいからな」

そういって、リーダー会議も早めに切り上げて、視聴覚室を追い出されてしまった。

「今日の先生かなり急いでたね」と、三上先輩

「確かに……まぁでも文化祭前の定例テストありますしね……うちの学校行事の前に何かしらテスト挟んでくるよね……」

「え……そうなんですか。てっきり文化祭後だと思ってました」

中間テストが文化祭の前に行われることを初めて知ったボクであった。

「慌てなくてよかったね。これからきっちり勉強しとけー」

「そうですねがんばります」

「んじゃぁ、俺は部活みてくるわー」そういって三上先輩は体育館へと向かっていった。

「先輩は吹奏楽いいですか?」

「うーんべつに良いかなぁ。金曜日はもうなんか遅くまでリーダー会議ってことになってるからたまの休みで帰ろうかな」

「え、それただサボりたいだけじゃないんですか?」

「まぁサボるのも青春だよ」

先輩はニコッと笑った。そして続けて

「あ、そうだ。せっかく早く終わったし、ギター聞かせてよ。先週からちょっと楽しみにしてたんだよね。いつ聞けるんだろうなぁってさ」

「え。今日聞いちゃいます?別に良いですけど上手くできるかな……」

心配がるボク。いやいつ弾けても良いように努力はしている。大丈夫。

「まぁそんなに身構えなくても!いつもどおりでいいんだよ」そういってボクに笑顔を向けてくるのが少し眩しかった。

「アコギはお家にあるので取りに来ます。じゃ、河川敷集合でいいですか?」

「了解。一応、帰り道は同じだから途中までは一緒だけれどね」

そうして、いつもと同じように先輩と帰路についた。毎週金曜日に一緒に帰ってくれる先輩。今日は河川敷でアコギを弾く。どうか先輩が気に入って先輩とバンドが組めますようにっと祈りながら先輩との他愛もないおしゃべりをして歩く。早くも緊張が体中を巡ってドキドキする。緊張しすぎて上手く弾けないんじゃないか。そんなことばかり考えて会話もままらなかったかも知れない。いつもよりなぜか歩く距離が長く感じた。心を落ち着かせなきゃいけない。深く深呼吸。大丈夫いつもどおりに弾いて歌おう。歩いている時間は一緒で気づけば、先輩と分かれる場所にきた。

「で、では先輩また後ほど……河川敷で……」

「お、おうじゃ。一時間後くらいでいい?」

「あ、はい……お願いします」

そうしてボクたちはそこで別れてそれぞれの家と向かった。



 一時間後に、彼女のギターが聞ける。少し楽しみにしていた。彼女がどんな感じで歌うんだろう?俺が想像している通りなんだろうか。彼女の魅了的な部分は少し声が低いところな気もする。彼女の声は聞き取りやすい。普段喋っていて、珍しいタイプの声だと思った。今までに聞いたことのないような声だった。これが音に乗って聞こえてくる声がどんな感じなのだろうか。俺もそんなに詳しいわけじゃないけれど、女性が出す低音はなぜか安心する。高音だと耳がキンキンしてしまうのが行けないのかも知れない。べつに悪いことではないのだけれど。ボクの好みではない。というか、第一印象がとても印象的だった。少しやる気のない感じの子で、委員会もしかたなく決定したんだろうなくらいのレベルの態度だった気がする。でも一応選ばれたからにはきちんとやらなきゃなみたいな感じの子だった。でも担任の雪先生は彼女のことを知っているみたいで、結構印象が良い感じの接し方だった。雪先生は好き嫌いが激しくて、有名な先生だ。嫌いな生徒には容赦しない。いや、もちろん授業の差があるわけではない。授業外のときの絡みが0か100の先生という認識だったから、藤堂さんに絡んでたから良い生徒さんなんだろうなって思ったのもあるのかも知れない。そして、半ば強制的にリーダーに仕立て上げるのもさすが雪先生だと思った。三上先輩もそうだ。三上先輩は世渡りがうまい。バスケでもたしか、副キャプテンだったはずだ。縁の下の力持ち的な感じ。表立って引っ張るのではなく、リーダーの補助の天才って言うイメージである。まぁでも今回はさすがに三上先輩が一番上の立場であることから自ら先導してる感じはあった。ただ雪先生のサポートにすんなり入っているなぁと感じた。おかげで上手く実行委員会は回っているしさすがだなと感心した。しばらく3人でいろんな事を話して決めて、そして。藤堂さんと一緒に帰るというミッションが追加されたのは本当に偶然だった。そして一緒に帰ったときに音楽が好きでアコギを弾いていると話になって少し嬉しかった。将来はバンドをやりたかった俺は、ギター候補ができたなぁくらいに思ったのだ。声も落ち着いて、聞き取りやすい声で、最初少し小さいかなって思ったけれど聞いていくうちにそうでもないような気もした。そんなこんなで音楽雑談に華を咲かせた。とても有意義な時間だった。吹奏楽のメンバーでさえそんなに盛り上がらないのに、彼女とならとても楽しかったのだ。彼女の歌声がきけるのもあと少しに迫っている。好きなバンドのライブのチケットが当選したときくらいにうらしくてドキドキしている。今日は彼女の歌声を独占できるのだ。本当にすごいことだと俺は思う。ただ、3ピースバンドが組みたいくてベースが足りない。この学校に男性ベーシストがいれば完璧なのに……まぁそれは上手く行きすぎか……他校の生徒でも良いんだけれど……まぁまずは彼女と一緒にバンドが組めれるかを考えなければ……。

 待ち遠しいと思ってた1時間は案外早い。気づけば河川敷に行かないと間に合わない時間になっていた。俺は急いで準備して、河川敷へと向かった。

彼女は、そこにいた。最初はギターケースが歩いてるのかとおもった。夕方だから更にわかりにくかったのだ。俺は、声をかける。

「藤堂さん」


「本当楽しみで。普段どおりでいいからね」

彼女は、はいと返事をしてギターを弾く準備をしていた。なんか小さい身長で抱えるギターはなにか存在感が強い。アコギだからこそかも知れない。エレキであればもう少し薄いというかなんというか。彼女だからアコギなのかも知れない。でも、ギターに背負わされてる感はなくて、着こなしているように感じた。引きなれてるんだろうなって言う感覚がわかる。俺も楽器は一通り触ってきたから少しわかる。まぁわかるだけで弾けるってわけじゃないんだけれど。俺にはドラムが一番しっくり来たんだ。だからドラムを続けているだけ。彼女もきっとアコギがしっくり来てるんだろうと思う。そんな持ち前を感じる。

じゃらんと、調整が入る。そんなにずれてないから普段きちんと調整しているんだろうなって感じる。アコギはやっぱりいい音色だと思う。

「じゃ、先輩聞いてください」

そういって彼女はギターを本格的に弾きはじめる。聞いた事がある有名な曲だ。イントロですぐにわかった。この曲を彼女が歌うのか。確かに選曲は良いと思う。彼女のその低い声とあってるような気がする。そして相当練習してるんだろうなって思えた。

歌い出し、とてもなめらかで彼女の歌だと勘違いしてしまいそうな歌い回しだった。そんなに長い曲ではないはずなのにとても永遠に感じられた。幸福というのだろうか。心からもっと聞きたい。ずっとリピートして聞いていたい。耳がその曲をもっともっと求めている。まるでライブ会場にいるような感じだった。周りからは声援が聞こえ、大人数で彼女を見つめているようなそんな感覚を覚えた。こんなにも上手だと自分が一歩引いてしまいそうになる。俺のドラムで彼女をどこまで支えられるだろうか。いや、まだ見ぬベーシストと彼女の声を支えられるだろうか。いや、絶対支えになりたい。色々考えているうちに彼女は演奏を終えてた。いやずっと聞いていたはずなのに永遠を感じていたはずなのにもう終わってしまっている。彼女は頬赤らめて、俺の感想を待っているようだった。

「あ、あの……」

彼女が俺に声をかける。

「どうでした?ボクの弾き語り……」

「……ごめん少し待って」

今すぐに言いたい。感想を言いたいのに言葉にしようとすると出てこない。感想を言う前にもう一度、彼女の歌声が聞きたかった。それほど、彼女の声が気持ちよかった。

「は、はい」

そう言って彼女は、ちょこんとその場に座り込んだ。感想を待っている姿もなにかソワソワしているのがわかる。なんで俺が評価をしなくちゃならないんだ。一緒にバンドをしようって言えば済むことじゃないか。言えよ、俺。何をビビってるんだ。

「藤堂さん……」

「はい」

彼女は俺に視線……いやキラキラした目をこちらに向けてくる。

「一緒に……バンドやろう」

「え?えぇ?!」

彼女はすごく驚いたような顔をする。なんでそんなに驚いているんだろう。当然の結果じゃないか。こんなに歓声を上げるような弾き語りをリリースするなんて考えられないじゃないか。

「とても、とっても。聞き入ってしまった。まるで永遠を感じた。スリーピースをしたいからあとはベースが必要だけれど」

「大げさですよ先輩。ボクはまだまだです。これはとても練習している。いわゆる大好きな曲なので、弾き慣れてるだけです」

そんなことはないよ。どんなに弾きなれていようが自分の曲のように歌えているのはとてもすごいことなんだ。君はその自覚がないだけ。そんな事を口には出さないが……。

「でも、結構理想の声に近いんだ。実は、初対面の時から良い声だなって思っていたんだ。これが歌声になるときっと俺好みの声になるんだろうなって思ってはいたんだけれど、まさか予想以上の声が俺の胸に響いたよ」

「先輩それは褒め過ぎですよ……嬉しいですけれど」

そう言って、彼女は更に頬を赤らめる。

「ん。でも本当に良い声だった。改めて聞かせてくれてありがとう」

「いえいえ。先輩に気に入っていただけたのなら良かったです。ご拝聴ありがとうございます」

そういって、その後も少し音楽の話をしながら、途中までの道を歩いた。

「じゃ、先輩今日は聞いてくれてありがとうございました。引き続き文化祭実行委員頑張りましょうね。バンド活動はおいおい話し合いましょう」

「そうだな。今は目の前の仕事をしないといけないな」

「では」

軽い挨拶を交わして、俺と藤堂はそれぞれの道へ帰っていった。

文化祭準備も大詰め。成功を祈ることを俺は願った。



あの時間から結構経っているのにまだドキドキが治まらない。ついに先輩の前で弾き語りをしてしまった。結果的にはバンド活動しましょうっていう話だったから良かったと思う。ご飯を食べている時、お風呂にゆっくり使っているときもずっと胸の高鳴りが治まらなかった。演奏は本当にうまく弾けた。過去一レベルで歌えもした。声の調子が良かったのもある。あんなきれいに歌えたのは自分でも驚いている。もちろんいつも弾き語っている大好きなアーティストの大好きな曲だ。先輩も言っていたけれどボクと好きなアーティストの声質がとても似ていて、歌い方を似せるだけで本当にそっくりに聞こえるレベルだった。でもそのアーティストに寄せるではなく自分流に歌うのが好きで、今回も自分流で歌っていた。それを先輩は自分の持ち歌みたいだねって言われて少し嬉しかった。先輩と今後どんな音楽活動ができるのだろうか。とても楽しみで仕方ない。しかしベースがいないのでできることは少ない。そこら編はゆっくり人を見極めて募集していこうという話で落ち着いた。とりあえず今は目の前の文化祭をどううまく成功させるかを頑張ろうという事になった。各クラス、準備は滞りなくできていて部活動の人たちもうまくできているみたいで安心である。吹奏楽もだいぶ仕上がっているという話を先輩から聞いた。三年の三上先輩も食べ物を提供するお店なので当日になるまで待機みたいなことを言っていた気がする。私は帰宅部なのでクラスの出し物を精一杯準備している。

そういえば、何を展示するんだっけ。もう一度考える。体育館で演劇などをやるのは確か他クラスだったはずだ。あーそうだ思い出した。小さな脱出ゲームだったはずだ。クラス教室を使って2−3問解くと教室から出られるような感じで進めるみたいな事を言っていた気がする。私は企画側ではなくサポートなので買い出しなどがメインだ。文化祭実行委員という肩書をもらっているのでそれ以上のことはしたくないのだ。委員長さんもそれは理解してくれていて委員長さんも結構クラスをまとめてくれたりすごい円滑進んでいる。うちのクラスは全然問題ないな。

文化祭まであと数週間、10月初週の土日が本番だ。実行委員会の集まりもあと2,3回で終わる。少し寂しい気もするが、集まってもそんなにやることがないただの報告会とかしているので報告が終わり次第解散が多くなってきた。最後のリーダー会議と名ばかりの3名プラス先生とっ雑談するのがなくなると考えると少し寂しい気もするが、先輩たちの繋がりが消えるわけじゃないので、そこは今後も活用しようと思う。それこそ、先輩とバンドができるんだから、文化祭実行委員会に選ばれて?良かったと思う。やっぱり、くじ運が良い日のときで良かった。

それから、学校は次第に文化祭の色味が強くなってきて、放課後も各々生徒達が各自の出し物の準備をする時期になってきた。

「いよいよ、文化祭ですね」

「そうだな。気を引き締めていこう。この集まりも来週で終わりだ」

「寂しいものですね。実行委員会は文化祭の時はなにか動くんですか?」

「そうだ、忘れていた。文化祭当日、君たちは少し、運営を手伝ってほしい。運営はほぼ生徒会が行うことになっているが、生徒会からの要請が来ていてな。3名1組で、1時間ほど受付をお願いしたいということだ。来賓の方々にパンフレットを渡す簡単なお仕事だ」

「せっかく出し、1年2年3年でグループを作ろう。みんな仲いいだろ」

そういって、雪先生は適当に決めていく。もちろんリーダーである私達はそのまま同じグループに属された。さすが先生というか……人を見ているというか。何一つ文句なくグループが形成されていった。

「じゃぁ、今日の実行委員会は終わりだ。それぞれまだ準備しているクラスもあると思うから合流してくれ。リーダーは報告書まとめてその後解散。以上だ」

そうやって、実行委員会の報告会は終わった。各々クラスへと戻って言った。私達リーダーはそのまま報告をまとめるために同じようにノートにまとめる。

「もう残すところあと僅かですね」

「なんか寂しい気もするけれどこれからだからなぁ」

「確かに。そうだ。これが終わったら自分は本格的に受験勉強に集中しなきゃだな……」

「あー三上先輩は大学進学予定なんですか?」

「そう。一応ね。恥ずかしながら社会系の先生がやりたくてね」

「そんな夢を持ってたんですね三上先輩。将来を描けているのは」

「いやいや、君たちみたいにさ本当は音楽とかやってみたいんだけれどなかなかね難しいから。バスケはそれほどうまいわけじゃないし。だったら現実見ないとなぁって思ってるだけだよ」

「なんか三上先輩らしいですね」

「ですね!三上先輩っぽいです」

空気が和んだ。いやいつも和んでるんだけれど。

「そういえば、だいぶ前の話を掘り返すんだけれど。弾き語りはどうだったんだい?」

「え?あぁとても素晴らしかったっすよ。」

「一応、ボク達バンドしましょうって事になりました!」

「なるほど、それは良かったじゃないか。もし、ライブをやるとかなったら連絡くれよ?応援するよ!」

「まぁスリーピースバンドしたいのでベースを見つけないといけないんですけれどね……」

「きっと大丈夫だよすぐに見つかるって」

「そうですかねぇ。まぁ見つける間でもお互い練習を頑張ろうって話です」

「そっかそっか。二人おんなじ夢を追いかけられて羨ましいなぁ」

「いえいえそんなことは……」

そうやって無駄話をしつつ今回の報告書をまとめ、先生に提出した。今回はクラスの準備があるということでその場で解散した。

そして、それぞれ、各教室へと向かった。

 教室に帰ると、円滑に進んでいるらしく、脱出に必要な小道具や、舞台装置などが作り上げられていた。

「只今戻りました。何か手伝えることがあればお手伝いしますよ」

「良いところに藤堂さん、ちょっと先生と買い出しをお願いします」

そして、買い物リストを渡されて先生と近くのホームセンターへ買い出しへと向かった。担任の先生とはそんなに親しくはないが、買い出しに行く場合は先生との引率が必須であるため、毎回二人きりになることが多かった。そして何回か行く毎に会話も増えていった。今日の先生はおそらく機嫌も良かったのだろう先生から話しかけてきた

「俺な、初めてクラスを受け持ったんだが、やっぱりいいなぁクラスって。みんな仲良くてさ、ニュースとかでいじめだ何だ?みたいな話があるし、クラスを持ったところでそんなに手当がつくわけじゃないから断っていたんだよ。でもお金とかそういうのじゃないなって改めて思い直したよ」

「え……先生今までクラス受け持ったことなかったんですね……。まぁ確かに、そういうの聞くとめんどいなとは思いますよね。あんまり興味ない人も絶対いるだろうし。うつのクラスはなんかみんな仲いいですよね。クラスカースト?みたいなのもないし。グループはあれどそこまで鑑賞もしないというか。一人は一人で全然受け入れてくれるし」

「実はなぁ。藤堂のこと少し心配だったんだ。いつも一人だろ。だからみんなと仲悪いのかなって思ってたんだけれど……先生の思い違いだった」

「あはは。あんまり友達と行動しないだけであって、実際委員長ちゃんと結構仲いいんですよ。ボク」

「うんうん。今回これをきっかけにそういう感じのが受け取れて本当にホッとしているよ。他のクラスの子も結構新しい発見とかあって毎日が新鮮だよ俺は」

そんな、他愛のない会話をしつつ、ホームセンターにつき、買い物リストに書いているものを買い物かごへ入れていく。そんなに多いわけじゃない。小物が数点である。これらを使ってどうやって脱出するんだろうというものばかりだった。

「先生って、こういう脱出ゲームとか好きですか?」

不意に先生に話しかける。

「え?あ?うーん。どうだろうなぁ。学生の頃よくweb上で脱出ゲームとかやりまくってたくらいかなぁ」

「なるほど」

「なるほどって藤堂が聞いてきたんだろ……全く」

「いや、なんか広がるかなって思ったんですけれど」

「広げる気はなかっただろ」

「はい」

「はいって素直だなぁ」

そう言いながら先生は笑う。

「仕方ない、よしじゃぁもう大詰めだし先生がみんなになにかおごっちゃる。適当に菓子買ってくぞ」

本当に先生は機嫌が良いようだった。何があったんだろうと思いながら買い物リストのものはすべて買い揃え、クラスみんなで食べるお菓子を先生と名一杯選んだ。

お菓子を選び終えて学校へ戻って作業を一時中断して、お菓子パーティが始まった。そして、そのまま今日はお開きにしましょうということで今日の作業は終わった。

文化祭まで後少しだ。そんな事を考えながら、正門を目指していると、みんな同じ時間帯に帰っているんかぞろぞろと生徒たちが流れている。あとは部活動も終わる時間だから当たり前かなんて思いながら歩いて帰路へついた。



――文化祭当日。

集まりも色々あったがそこまで大きい事故もなく、滞りなくタスクが消化されて円滑だった。これが終われば実行委員会が終わる。ボクの役割は全うされる。

ボクらは最初に受付をする事になっていた。

「んじゃぁ、1時間ほどよろしくな!」

そういってさっそうと雪先生は消えていった。

「先生文化祭楽しむ気まんまんじゃん」

「一応先生ですよねあの人」

「まぁ雪先生っぽいですけどね」とボクは笑いながら先輩たちに話を返す。

「そうだよね。雪先生はあんな感じだ」

「ボクはこの受付が終わったら今度はクラスの受付です」

「俺はそのまま吹奏楽の演奏一部がすぐ始まるな」

「え、それは大丈夫なのかい?あれだったら橋田くん早めに抜ける?」

「いいんすか?先輩。じゃぁお言葉に甘えて。藤堂さんもごめんね」

「いやいや、吹奏楽も大事ですからねぜひ頑張ってきてください!」

「三上先輩はこの後はなんか役割あるんですか?」

「うーん。部活の出し物に顔出してその後クラスの方による感じかなぁ。自分は比較的余裕があるかな」

「じゃぁ、ボクと三上先輩最後までがんばりましょう」

そうやって、受付業務を3人でこなしていった。

時間は長くなく、30分後には橋田先輩が抜けても全然忙しくなかった。まぁ朝だし来賓してくる人もそんなにいないようだった。次の時間が大変そうな気もするけれどまぁそこは関係ないので気にしないことにした。

無事に、受付業務を終え、そのまま別のチームに引き継ぎして、三上先輩と別れて、そのままクラスの方へ戻っていった。クラスの展示は結構人気らしく、来賓もそんなに多くなかったのに、一時間待ちという看板が出ていた。

「うちのクラス大好評だねぇ」

「脱出ゲームだからね、制限時間があるとはいえ、数名づつしか入れないから。教室が狭いからね」

「なるほどそういうことか」

納得して、受付を引き継ぐ。脱出ゲームの説明などをして、後から来れるように、番号札をグループ代表に渡す。せっかくの文化祭なのだから色んな所を回りたいだろうという配慮である。時間制なので何時頃来てくださいねと添えれば完璧である。

これは、企画が出たときからそうだった。この出し物だけにとらわれるよりかはこの学校全体を楽しんでほしいというクラスの一致である。それが幸をなしたのだ。予約制度は人気で、次第に2時間3時間待ちと着々と増えていく。ある程度目処をつけないと終わる時間との戦いになるかもしれないなと思った。

そうやって、受付をしていると時間が立つのは早い。普段しないようなことをしていると時間は早く過ぎ去っていく。

「あ、藤堂さんそろそろそろ変わろっか?お昼食べてきなよ」そう言ってクラスの子が受付を変わってくれ、晴れてボクは自由のみとなった。

適当に回ろうと思いまずは三上先輩が所属しているバスケ部が出している出店?に向かうことにした。時間も時間だしもしかしたらいないかもしれないけれどとりあえず付き合いはあるし、いなかったらバスケ部の子たちに来たことを伝えればいいだけのこと。

バスケ部はたしか、たこ焼きとかだった気がする。ど定番である。まぁでも出店のたこ焼きって3倍位美味しいよなと思いながら向かう。道中先輩に合わないかななんて思ったりもしたけれど全然合わない。雪先生も今頃どこで楽しんでいるのだろうか。もしかしたら教頭先生とか偉い先生に怒られているかもしれない。そして、バスケ部のところに行き着く。

「おー藤堂さん来てくれたんだねー」

「はい。ってかずっとここにいるんですか?三上先輩」

「んーや、クラスの方にも居たんだけれどこっちが思いの外忙しいってことで少し加勢しに来たってわけ、そしてそれも落ち着いたったって感じ。まぁお昼もまぁまぁ過ぎたし」

「なるほど、じゃぁボクが最後のお客さんですね」

「最後のお客さんて。あ、そうだ。じゃぁ一緒に回るかい?確か吹奏楽の二部がそろそろじゃないかな?演奏聞きに行くかい?」

「おーいいですね。橋田先輩の音楽聴きに行きましょう」

そして私はたこ焼きを頼んで食べて、先輩と一緒に体育館へ向かい橋田先輩がいる吹奏楽部の演奏を聴きに行った。

さすが、吹奏楽部というか、壮大な音楽で、意外とレベルが高いらしく夏のコンクールでは金賞を受賞したらしい。橋田先輩全然そんな事言わなかったのに。バンドとは違う複数種類の楽器達がハーモニーを奏でる。同じ音楽として最高だった。2、3曲で演奏は終わった。

そのまま三上先輩と橋田先輩を出待ちして、その後3人で色んな所を回った。この三人でまたいろんな事をしたいなって思った。

橋田先輩とのバンド活動もそうだけれど、この三人だから実行委員会も頑張れたんだって思えた。今青春を感じたボクは少し自分に驚いた。ボク自身がこんな青春をするなんて思いもしなかった。一つの出来事がいい方向に切り替わるなんて、いっぱいあるんだなって思えたんだ。

雪先生が以前言ってたっけ。チャンスは常に転がっていてそれを掴むかどうかはキミ次第だってその言葉もどっかの受け売りだけどねって雪先生も笑ってたな。でも今その実感をしている。

「おー三人さん楽しんでるかい」

「先生こそ」

ちょうど雪先生も見つけて4人でいろんなところを回った。先生仕事は?なんて聞いたけど今そんな事して場合じゃないって言われてあぁこれ偉い先生に後日怒られるバターんだなってきっとボクを含めて先輩方も思っている。

校内放送で度々雪先生が呼ばれていたような気もするけれどそれはきっと現実だろうけど先生はとぼけていいた。

そして、今日が終わり、次の日も同じような感じで文化祭は幕を閉じた。二日目はみっちり雪先生は怒られたみたいで流石に二日目は普通に先生の仕事をしていたのは明らかである。

これからボクは先輩とバンド活動をすることになっていくのだがそれはまた別の話だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

柊木 深月 @story_in

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る