幽霊だからって勝手に内見にくるな!

夏目海

第一話

 早朝。目が覚めると、体中に電気が走った。視界は良好。しかし、体が全く動かない。


 時間を確認しようにも、目ん玉一つ動かない。今日は、朝早くから指導教官に呼び出されていた気がする。確か、研究室の後輩を良い加減に指導してやれと言われていた。皐は部屋の白い天井を見つめた。


-金縛りだ


 脳神経が専門の理系の皐にはわかる。金縛りは超常現象ではないと。あくまで脳よりも先に目が覚めてしまった時に起きる生理現象だ。原因は疲労。だから今は焦らず、何もせず、脳が起きて手足に信号を送るのを待てばいい。しかし体は重くなる一方だ。


「ぎゃーーー!!」


 皐の上に、知らない女の子がちょこんと座っていた。


「ごめんなさい!」と女の子は可愛らしい甲高い声で言った。


「え、なに?え?」


「あの私、内見に来たんです」と女の子。


「内見!?」


「はい。ここが良いと不動産屋に紹介されて」


「待って待って、ここは僕の部屋だ。それにまだあと一年も契約が残っている!」


「説明不足でごめんなさい。私、幽霊です」


「幽霊!?」


 急に皐の体は動き出した。皐は飛び起きると、ベッドの上に座った。


「はい。それで、ここに住めと言われました」と女の子。


「誰に?」


「わかりません」女の子は泣きそうな声で言う。皐はため息をついた。


「あのね、ここは僕の部屋なんだ。ここに住みたかったら、レポートを書いてこい」


 皐は初めて誰かを指導した。指導とはこんなにも上から目線になれて楽しいものなのか。研究室の後輩指導をサボり続けなくてもよかったじゃないか。


「レポート?」女の子は首を傾げる。その様子がなんとも可愛らしい。


「ああ君がなぜ死に、なぜこの部屋に現れたのか。レポートにして持ってこい。話はそれからだ」


 わかりました!、と言うと女の子は消えていった。きちんと課題をこなせるか少し心配になる。


 それにしても指導はこんなに楽しいのか。皐は半年ぶりに研究室を訪れた。部屋の一角にはお札が貼ってあった。

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