第32話 最強の俺、と最強の彼女の夜

俺は荒くなりかける呼吸を必死に抑えつけながら、レビアの部屋へと向かう。


うん、勘違いだったらいいんだ。

そうならばきっと、彼女はいつものようにしっかりと部屋に封印魔法をかけて寝ているはず。

俺がレビアの部屋に近づくと、なんだか部屋から不思議な音が聞こえてくる。

これは……音楽か?

レビアが歌ってムードたっぷりに俺を待っていてくれているのか??


俺は歩を進める。

扉に対しそーっと感知魔法を使ってみる。

やはり!

封印魔法はかかっていない。


浮足立つ。

ドキドキが抑えられない。

俺は、そのドアを開け、全力で彼女の部屋の中に飛び込んだ!












全身に走る激痛。

そして爆音で聞こえてくるレビアの声。

声でぐらぐらする頭に、痛めつけられた肉体。

俺の喉から悲鳴が飛び出していく。


「え、なに! どうしたの!」


レビアが飛び起きると同時に、部屋の中を舞っていた氷の塊が消えた。

そう、レビアはおそらく寝ながら魔法を使い、部屋を超危険地帯に変えていたのだ。


俺の大量の出血を見て、レビアは血相を変えながら回復魔法を使う。


「ヒール!」


痛みが引いていく。

そして次の瞬間、現状を理解したであろうレビアが叫ぶ。


「ちょっと乙女の寝室に入るなんて何考えてるのよ!」


「ごめん」


完全に目くばせとかは俺の思い込みなわけで、俺は謝るしかなかった。

必死に頭を下げる。

半殺しにされても仕方ないくらいの罪を犯してはいる。

もう一度切り刻まれてもしょうがない。身構えて、全身を固くする。


「恥ずかしいから秘密にしておきたかったのに……絶対幻滅された。何のために面倒な封印魔法までかけてたと思ってるのよ……」


けれどレビアから追撃が飛んでくることはなくて、彼女はなんだかぶつぶつ言うばかり。頭をあげて見てみると、彼女の顔は真っ赤になっていた。

あれ、これは照れているのか……!

いや、ワンチャンあるのでは。


俺は興奮してガツガツ行ってしまいそうな気持ちを必死に本当に必死に抑えて。

レビアの頭に手を載せる。


「幻滅なんてしてないさ。むしろ可愛いと思う」


彼女の目を見ながらそう言ったのちに、くるりとうしろを向く。

キザなセリフ過ぎて恥ずかしくて、まっすぐレビアの顔が見られなくなっていた。

そのまま俺は部屋の外へと向かう。


「じゃあおやすみ。ちょっと顔を見たかっただけなんだ。勝手に入ってごめんな」


口早に言って彼女の部屋から出る。

熱くて熱くて顔から火が出そうだった。いや、今日は何度も火は纏ったけれども。


「ちょっと待って」


レビアに呼び止められる。

でも自分の顔が熱すぎて振り向けない。


「どうした?」


背を向けたまま、俺が応えると、背中に何か柔らかいものが当たり、体温が伝わってくる。


「……お礼。今日はありがと。私、ほんとに今日、死ぬんだって思ってたから。いろいろ嬉しかった」


さっと体からそれは離れていく。


「お、おやすみ! また明日」


彼女の自室が閉じられ、封印魔法がかけられる雰囲気がする。


俺は頭がぼーっとした状態でリビングに戻り、寝袋に包まれる。

今起きたことが夢か現実か判別がつかなかった。

女の人にこういう風に触れられたのは、人生で初めてのことだった。


ふわふわとした頭の中で、俺はゆっくりと考える。


レビアの部屋の秘密の事。

心が通じるのは幸せだってこと。

仲間との楽しい時間。


これからもこんな風にいろんなことを知ったり、共有したり、体験したりして、このダンジョンでの不思議なルームシェアは続いていくのだろう。


そう思って体の中に湧き上がってくるこのワクワクした気持ちは何だろうか。


途方に暮れてやってきたこのダンジョン。

俺はここでの生活がたまらなく好きになっていた。


また、明日から、家を綺麗にしていこう。

そう心に決めて優しい気持ちの中で眠りにつくのだった。



つこうとしたのだが、俺はある真実に気付いて、がばっと体を起こす。

封印魔法、そして壁に貼ってあるふわふわ。

いろいろ言ってたけど、レビアがダンジョンで暮らしてたのってもしかして。


俺とほぼ同じ理由なんじゃないか???


真相は闇の、いや、ダンジョンの奥深く。

そんなこんなで、俺たちのルームシェアはまだまだ続いていくのでした!



                             END

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