第30話 手、繋いでいいですか
【登場人物紹介】
これまでのあらすじを踏まえた人物紹介です。
真鍋星矢(せいや)…社会人二年目。自分の優柔不断な性格を変えるため、副業でバーテンダーという新たな世界へ飛び込む。春花に告白したが保留にされている。
多田愛未(まなみ)…社会人一年目。あざと系女子。星矢を誘惑してもて遊んだと思われ、距離を置かれている。現在は会社の上司、内間君恵の恋愛相談に乗っている。
中野春花(はるか)…社会人一年目。ストーカー対策として星矢と恋人のフリをしていた。星矢の告白は一旦保留にしている。
春日部博(ひろし)…星矢の良き相談相手。愛されキャラだがモテはしない。
内間君恵(きみえ)…星矢の上司。星矢に告白したがあっさり振られてしまった。現在はバーテンダーの孝之にアプローチされている。
堤健司(けんじ)…星矢が副業で働くバーのマスター。オネェ。人生の先輩的存在。
町田孝之(たかゆき)…星矢のバーでの教育係。星矢の一個上。お客さんで来ていた内間君恵に恋をする。
今西絢音(あやね)…星矢のバーの常連客。男の欲望を詰め込んだかのような女性。星矢を誘惑するが失敗。
_______________________
クレープを食べ終わった星矢と春花は渋谷のプラネタリウムに来ていた。席にはカップルシートというものがあったが二人は『カップルシート』という名前に遠慮して普通の席にした。
席に着く。プラネタリウム上映が始まる前の時間。撮影禁止だったのでツーショは撮れなかったが天井に映し出されてる星が綺麗だった。星矢は社員旅行の日、海で星を眺めていた時、好きな人と見たいと博と会話したことや実際に夜に春花と夜空の星を見たことを思い出した。
そして今も「デート」としてプラネタリウムの夜空を春花と二人で見れている。それが何よりうれしかった。しかし、同時にまだ「カップル」になれていないという事実と告白を保留されているという事実を思い出してしまう。
………今、俺の隣で夜空を見ている人は何を考えているのだろう。この時間を楽しんでいるのだろうか。それに今日のデートで付き合うか付き合わないか決める可能性もあるし、、………
星矢はそんなことを考えながら春花の横顔をチラッと見た。その時、春花も星矢の方を見て目が合ってしまった。星矢は少し気まずく感じ、目線をそらした。
………うわ、ここで目を合わせてニコッとできる奴がモテるんだろうな、、………
星矢は春花を楽しませないとという思いが強かった。かなりの緊張で平常心ではいられなかった。
「星矢さん!」
「な、何!?」
「すっごく楽しいです!私、プラネタリウム大好きなんですよね」
「良かった!」
二言目が出てこない。星矢はいつもなるべく無言の時間ができないように言葉を続ける傾向があったが色々考え事をしていたので出てこなかった。でも春花も楽しんでくれてるという事実が嬉しかった。
「星矢さん!」
「はい、、」
緊張してどっちが先輩なのか分からない。
「手、繋いでいいですか」
春花の言葉に星矢が返す間もなく上映が始まってしまった。でも確かに春花は「手、繋いでいいですか」と聞いた。
………くそぉ。タイミング悪かった、、ここでさらっと何も言わずに繋げる勇気が俺にあれば!!………
夜空と共に流れる音楽を聴きながら星矢は何も言わず手を繋ぐ事ができない自分に苛立ちを覚えた。でも頑張って手を近づけた。
………せめて触れたい!!………
上映中、何度か二人の手が触れた。触れる度に二人はお互いを見て気まずそうに目線をそらす。
これが社会人の恋愛なのか。中高生の恋愛を見ているかのような感覚だろう。そのくらい二人とも初(うぶ)だったのだ。こんな初(うぶ)な感情も春花としか味わえない。
………愛未とならこんな感覚、味わえなかったかもな………
そんな傍から見たら微笑ましいくらい初(うぶ)な感覚を味わいながらプラネタリウムは終了した。
一方、内間さんと孝之はミステリーの小説を貸そうとした事からお互いミステリー小説が好きなことが分かり、話が弾んだ。話自体は盛り上がっていたが内間さんは少し不安気な様子だった。
「私、ちょっとお手洗い行ってくるね」
「はい」
内間さんはトイレへ行くとすぐに愛未に電話をかけた。
「ねえ、多田さん!今、相談いいかな?」
「良いですけどデート中じゃないんですか?」
「ちょっとお手洗いに抜け出してきて。どうしても相談したくて」
「どうしたんですか?」
「孝之さんとのデート、すっごい楽しいし話も盛り上がってるんだけど。何だろう。バーで話してる感覚と変わらないっていうか。この人と一緒にいたいって思えないんだよね。だから次、ミステリー展一緒に行こうって言ってくれてるんだけど断った方がいいのかなーって思って。どうした方がいいと思う?」
「内間さん。流石にそれは自分で決めることですよ?」
「え?」
「相談は乗ります。一意見としては好きではない人と付き合うのも好きな人を忘れるといった意味で私は賛成派です。でもそれを決めるのは結局自分なんで。自分の気持ちに正直になるべきです!」
「私の気持ち、、」
内間は頭の中で星矢を思い浮かべた。一度振られたけど成功への未練はまだ断ち切れてなかった。
「私、真鍋くんがまだ好きみたい」
内間は電話越しにそう言うと何かを決心したかのようにトイレを出た。
そして元々いた席に戻り、お金だけ机に置いた。
「ごめん!今日帰っていいかな?」
「え、急にどうしたんですか?」
「あなたと話してて本当に楽しかった。ミステリーの話もできて嬉しかった。でも楽しい反面、これが好きな人とだったらどんなに幸せなんだろうって思っちゃって。もちろんあなたの事まだ全然知らないしこれから好きになれる可能性が全くないのかって言われたらすぐ答えられないんだけど。でもやっぱり私は自分から好きになった人がいいみたい。自分勝手で本当にごめんなさい。ミステリー展には行けません」
「結構はっきり言うんですね」
「ごめんなさい。言葉がこれくらいしか出てこなくて」
「自分から好きになった人って星矢さんの事ですか?」
「え!?」
「見てたら分かりますよ。星矢さんは手強いですよ、なかなか。でもそんなにハッキリ自分の意志言える人なかなかいないんで。俺は応援してます。頑張ってください」
孝之は笑顔で応援した。
「ありがとう!本当にごめんね!」
内間はそう言い残して店を出た。そしてどこかに向かって走り出した。
一方、星矢と春花はプラネタリウムが終わり、駅まで二人で歩いていた。ほぼ無言の空間だった。改札近くになると春花がようやく話し始めた。
「この前の告白の件なんですけど」
星矢はドキッとした。ここ最近で一番くらいの緊張だった。
_______________________
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!主人公が誰と結ばれるのか等、予想を応援コメントとかに書いてくれるととても嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます