住宅の内見

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

「関西のテレビ番組、やばくないですか」

 ある日、弟子の松本まつもとエリーゼが言った。

「うん、やばいね」

 即答した。自覚はある。

「夕方、テレビでやってる不可解な物件を紹介する番組とか。うっかり見入って、スーパーに行くのが遅くなる」

「解る! あれ、見ちゃうよねえ」

 関西の人は、正直、ノリで生きているところがある。だから、あのような訳の解らない部屋を作ってしまうのだろう。

「シュールですよね」

「うん」

 東北にはあんな訳の解らない建物、無いんだよなあと呟く。

「建物と言えば、渋沢栄一の終の住処が地元にあったのですが、建てた会社に奪い返されたんですよね」

 つい最近まで、星野リゾートの敷地にあったそうだ。

 渋沢栄一の秘書が、取り壊しの危機にあった家を地元まで移築したらしい。

「だから、お金があったら、京終きょうばて先生の家も地元まで持って帰りますよ」

「適当だなあ…」

 別にそこまでして取っておいてほしいものでも無いのだけど。

「家か。えっちゃん、のぞみ君と結婚したら、どこ住むの」

「えっ、京都の坂木さかき家では」

 ムズムズする。

「家、建てようよ。何なら、今から見に行こうよ!」

「はい?」

 えっちゃんが、首を傾げた。


「私、『大暗室』に住みたいのです」

「江戸川乱歩か」

 京都某所。

「こちらです。京終さま」

 ねずみ色の背広を着た男が指し示す。

 ぽっかりと開いた大穴。慎重に、はしごを降りて行く。

 扉を開けると、そこは花畑。

「パノラマ島ではないですか!」

 えっちゃんが、駆けて行く。

 一方、僕の手を引く者がいる。

明日香あすかちゃん」

 いつの間にか、和風の建物の前に、立っていた。

「あれ…」

 明日香が、いない。

「よろしいですか」

 例の男が、呟く。玄関扉に、手をかけている。

 息を呑む。

「やっぱり、いいです」

「ええ~…」


 夢の話をしたら、弟子は大層憤慨していた。

「私は、もうすごかったですよ。酒池肉林ですよ。きっとそうに違いありません」

「酒池肉林って…」

 僕の見たところ、弟子と一つ年上の坂木美古都さかきみこととは、清いおつきあいである。

「はっはっは…」

「んもう~!」

 平和な一日であった。



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住宅の内見 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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