日当たり不良好物件

維 黎

第霊話

「ささ、どうぞ中へ。こちらは当社が自信をもってお勧めするお部屋でございます」

「はぁ」


 そう言ってとあるアパートのドアへ案内するのは、山下と名乗った不動産会社の内見担当者。

 

『お前もそろそろ身を固めて落ち着けよ。いつまでもフラフラと自由を謳歌してるのがカッコいいってのは昭和世代の考えだぜ?』


 周りにいる連中がどんどん身を落ち着けていく中で、そのうちの一人のセリフがふとよぎった。

 俺は自由気ままな今の状態がいいんだと思っていても知った仲が一人、また一人と身を落ち着けていくと多少の焦りも出てくるわけで。

 物は試しと目に留まったTUKUMOって不動産屋を覗いてみた結果、そんなに乗り気じゃなかったんだが『まぁ、一度見るだけでも。ね? ね? お金が必要なわけでもないし、時間もたっぷりとあるでしょう?』

 なんて言葉に乗せられて部屋の前まで案内された。


「――それじゃ、まあ。お邪魔します」


 誰もいない空き部屋なんだからお邪魔もないんだが、特に乗り気で来てるわけでもないという若干の後ろめたさからそんな言葉が口を衝く。

 特にこれといって代り映えのしないどこにでも見かけるようなドアを抜けて部屋に入る。後ろから担当の山下さんがついてくるのが気配でわかった。


「――!?」


 部屋に入った瞬間、一瞬揺らめく。

 1DKの間取り図で見るよりも、実際に部屋を見てみると何も置かれていないこともあって思っていたよりも広く感じたが、そんなことが理由ではなくて。


「いかかですか? 二階角部屋で北向き。日当たり不良好で目の前が墓地。丑三つ時ゴールデンタイムには結構にぎやかで楽しいですよ。当店お勧めのお部屋です」

「――ここに決めます。なんかこう、惹かれるモノを感じました」

「ほう! そうですか! ありがとうございます! アレですね。轢かれたお客様にはピッタリなお部屋だったということでしょうか? ハッハッハッ」


 死んでから32年目にして初めて憑く自宅霊生活の始まりである。




――了――


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日当たり不良好物件 維 黎 @yuirei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ