我が家に自由を

そうざ

Freedom to Build a House

「土足で結構でございますので、どうぞ中の方へ」

 炬燵で寝転がりながら鼻を穿ほじってテレビを観ていたら、どやどやと御一行が上がり込んで来た。

「こちらが人気の狭小ミニマル物件タイプでございます」

 旗を掲げた制服の営業マンが引き連れているのは、色んなタイプのカップル。

「日当たりや風通しが極限まで抑制されております」

「この床ってTATAMIでしょ? でもサンプルとは違うみたい」

「畳はその性質上、経年ギミックが実装されておりまして、次第に色合いが変化し、表面が毛羽立って参ります」

 へぇ~っと感心する御一行。

「あははっ、このモニターってまるで箱だ」

 内見者がブラウン管テレビをパンパンと叩く。その度に戦地からの中継映像が上下にぶれる。

「おおっ、窓の外は隣家の壁が迫ってる!」

「見て見てっ、液体に浸かる様式のバスだ!」

「ええっ、本物の便器があるよ!」

 ワイワイガヤガヤ、実に賑やか。

「これなぁに?」

 内見者の中に一匹だけ小さいのが交じっていた。子供という生き物かも知れない。

「コ・タ・ツ」

「指に付いてるのは?」

「ハ・ナ・ク・ソ」

「美味しいの?」

「ここは空気が淀んでございますから、生半可な鼻糞とは一味も二味も違うかと」

 営業マンが透かさず口を挟んで御案内。

「ところで、防撃基準とか反撃性能はどうなの?」

 内見者が挙って心配を口にする。こっちは音も立てずに濡れ乾パンを口にする。

「全く問題ございません。軍法スレスレまで基準や性能を抑制してレトロデザインを最優先するのが我が社のモットーでございます」

 おぉ~っと感動する御一行。

避難家シェルター作りに一番大切なのは自由設計でございます。飽くまでもお客様本位っ、法令二の次っ」

 狂喜乱舞で唱和する御一行。

「只今ご成約頂けますと隙間風エフェクトが無料サービスになっておりまして――」

 実に賑やかな御一行はワイワイガヤガヤと去って行った。

 急に静かになったので、本格的に眠くなってしまった。やっぱり炬燵は便利だと思った。

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