ワンルームかくれんぼ with 地縛霊

自爆じゃないです。

　皆さんこんにちは！　私、つばきって言います！

　ひらがな3文字つ・ば・き♡　覚えてくださいね？　あは！

　え、なになに？　変にテンション高いね、って？

　そうなんですよ。別に私、常日頃から売れないアイドル風あいさつしてるんじゃないんですよ。

　今ちょっとピンチでヤケっぱちなんです。

　3分以内にしなければならないこと……はないんですが、もうじきクライシスが。

　なんと本日、

　私の住んでる部屋（学生マンションワンルーム）に、内見の方がいらっしゃるんです。

　え？　おかしいだろ、って？　すでに人が住んでる家に内見なんて、渡辺篤史くらいだろ、って？

　いやいや、それがおかしくないんです。

　なぜなら誰も住んでないから。

　どうしました？　意味分からないってお顔。

　おーい。あは？　もしもーし？

　あ、そうだ。言ってませんでしたね。

　私、幽霊です。

　この部屋に住み着いてる地縛霊です。

　厳密には部屋ではなく土地なんですけども。

　私が埋まっている真上に102号室ができて、区切られて閉じ込められました。

　出れない。

　だから私が住んでると言っても過言ではないし。

　大正時代からこの土地にいるし、私の家と言っても過言ではない。

　いいね？

　というのはさておき。

　そこに内見という、14歳と100年史上最大のピンチが迫っているのです。

　えぇ、ピンチなんです。

　今来られては困るんです。

　だって、

　朝起きたら、姿が消せなくなってるんですもん。

　え？　幽霊が寝るのか、って？

　寝ますよ。逆にあなた、一回死んで幽霊になっただけで、そんなすぐ生活スタイル変わる？

　それはいいんですよ。

　朝起きたら洗面所の鏡に私が映ってるんですよ。

　久々に見ましたよこの輝ける美少女フェイス。

　困りましたね？　困りましたよ？

　内見の人が来たら、丸見えじゃないですか。

　誰も住んでないはずの部屋に女の子がいるとか、事件じゃないですか。

　通報されちゃうじゃないですか。

　嫌ですよ、警察に連れてかれて住所とか答えられなくてオッサンに

『これだから最近のクソガキは。どうせトー横で売春でもしてんだろ？　オレらの若い頃はなぁ！』

　って顔されるの。

　そうでなくても、普通に幽霊ってジャッジされても

「今回の話はなかったことに……」

　って住んでもらえないじゃないですか。

　そうなんです。私は人に住んでほしいんです！

　いえ、何もイタズラとか『ほん怖』したいわけじゃないですよ？

　そんな邪悪なことしません。

　でもね。

　人が住んでないと家具がないんですよ。

　家主がいないあいだにテレビ見れないんですよ。

　持ち込まれたPS4でアーマード・コアできないんですよ。

　パソコン後ろから覗き込んで犬猫動画見れないんですよ。

　退屈じゃないですか！

　昼も夜も寝ても覚めても、幽霊らしく何もないフローリングの隅で体育座りしてろと！？

　ふざけんな！

　あと全校集会で制服スカートの女子に体育座りさせんのもやめろや！

　絶対あれクソ教師どもの下心だからな！　性暴力！　死ね！

　失礼、少し取り乱しました。私は大正乙女で袴なのでセーフです。

　え？　なんで大正の袴少女が学校のスカート事情知ってんだ、って？

　……あは☆

　とにかく。

　私はこの部屋に娯楽を持ち込んでもらうため、なんとしても内見をやり過ごし！

　入居者をゲットしなければならないのです！！

　しかしそのためには。

　あー、やっぱりまだ映ってる。

　この事故物件丸出し美少女幽霊を、どこかに隠してしまわなければ。

　でもこの部屋はワンルーム。

　私はこの部屋の地縛霊。

　どうしたらいいの？

　クローゼット？　バスタブ？　ベランダ？　いや、普通に覗くでしょ。

　天井にベッタリ張り付いてやり過ごします？

　いやいやいや、普通部屋の照明のタイプ確認しますからね。見えちゃいますね。

　いえ、パンツじゃなくて私が。スカートじゃなくて袴だって。

　ま、袴も状況によっては見えますけどね？

　いや、パンツとか大正だから違う下着とかは置いといて。

　どうやってやり過ごしたらいいんでしょうね？

　どこに隠れたらいいんでしょうね？

　せめて前の入居者が家具の一つでも残しといてくれりゃあ。

　陰に隠れるワンチャンスあったのに。

　ん？

　前の入居者？　家具を残す？

　んー……

　そうだ！

「いかがでしょうか、こちらの物件は」

「はい！　すごく気に入りました！　こちらのお部屋で契約させてもらいます！」

「ありがとうございます」

「ただ」

「はい？」

「『前の入居者が残していった家具はない』って聞いてたんですけど」

「はい……」

「なんですか？　あの、部屋の隅の、等身大フィギュア？　ダッチワイフ？」

「誰が紅毛竹夫人（ダッチワイフ）ですか！！」

「「うわ！　しゃべった！！」」