ホームイン

最早無白

ホームイン

 僕は晴れて第一志望の大学に合格した。毎日の受験勉強が実を結んだ……というわけではなく、スポーツ推薦で声をかけてもらった形となる。本当に運が良かったとしか言いようがない。


 地元からかなり離れているため、四月から新天地で一人暮らしだ。ネットでよさげな物件が見つかったので、今は内見に来ている。

 駅から徒歩十五分、ワンルームでバストイレ別、しかも家賃は五万円ときた。正直、ここに住まない手はない。


「はい、どうぞー」


 不動産屋さんの案内のもと、鍵を右に回して扉を開く。どれだけ破格か、答え合わせしていくとしよう……。


「あ、ども~。少年も内見? 仲間じゃ~ん」


「いや誰ですか!?」


 目に飛び込んできたのは、テレビを見ながらくつろぐ女の人だった。

 なんで内見しに来た部屋に、内見の先客がいるんだ。確かにここは人気そうな物件だけど、時間帯が被るなんてあるのか?


「ねえ見て! ここって『9』を押してもテレビ映るんだよ、すごくな~い?」


「えっ、マジですか!? うわ本当だ……って、なんで内見なのに普通にくつろいでるんですか!」


「そうカリカリしないでよ少年。私はね、どれくらいダラけられるか検証してただけ。ここいいよ~、もう内見!」


 それはもう引っ越したも同然なのでは? 『内見』という口実を使って、タダで住み込もうとしてない?


「やめてくださいよ! 僕もここに越す予定なんで、出てってください!」


「や~だ~! ここめっちゃいいんだも~ん! 手放したくな~い……そうだ、!? こんないい物件にだよ、アツくない?」


 自分のことを棚に上げて、あくまで家を譲る気はないお姉さん。やだ怖い……。

 完全に奪われた部屋を名残惜しく見渡していると、なにやら大きなトロフィーが目に留まる。


「アレってなんですか?」


「あ~アレ? 一応わたし、野球で日本一取ったことあって、それでもらえたんだよね~……」


「ぜひ一緒に住まわせてください!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ホームイン 最早無白 @MohayaMushiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説