転生したらバッファローで、いきなり殺し合いをさせられそうになったから理不尽に抗って全てを破壊してみた。

理不尽を破壊する力

（どゆこと？）

　俺は確かに死んだ。

　数十年ぶりに行った動物園で、何故か外に出ていた牛が俺を見た途端に突進してきてそれで……。

　なのに今俺は、バッファローになっていた。

（整理しても分からん。牛に轢かれてバッファローになるってどういうことよ）

　しかもここは俺の居た世界とは明らかに違う。

　だって元の世界であるのか？ 闘技場でバッファローを戦わせることが？

「さぁぁぁぁ、やってまいりました。殺人バッファローの異名を取り消すべく、対戦相手を轢き殺さなければいけない意味の分からないバッファローのリーダー。その名は『人轢きバイソン』」

（バッファローじゃないかい！）

　確かにバッファローはアメリカバイソンのことだけど、そこまでバッファローって言ってるなら最後までバッファローと言えばいい。

　そんなことを思ったところで誰にも通じないのだけど。

「そして対戦相手は、こちらも有名なシリアルキラー。数多くの人の目玉を取り除き、それを丸呑みにし続けた男。安心しろ、説明してる俺も気持ち悪い」

　そう言われて観客席を見ると、口元を押さえてる人や、実際に吐いている人がいる。

「だがそいつも捕まればただの人。こうして異名取り下げのコロシアムに参加しなければ処刑を待つしかないのだ」

（逆に勝ち続けたらそんな猟奇的殺人者が無罪放免？）

「不安に思うな。あくまで異名を取り下げるだけで、処刑は免れない」

（じゃあなんの為にやるんだよ）

「なんの為って思うなんとなく人殺しが見たくてここに来た奴もいるだろう」

（そいつの方がサイコパスでやばいだろ！）

「異名取り下げなんて口実なのさ。実際は処刑の手間を省くのが大きな理由。そしてそれを見世物にしたら儲かっていいことずくめだろ？」

　そういうことを言っていいのだろうかとも思ったけど、処刑が決まっている奴らに聞かれても別にどうせ死ぬからいいのだろうし、客も損はしないからいいのだろう。

（なんか気に食わないけどな）

　相手もこのバッファローも人を殺しているのだから、処刑される理由があるのだから仕方ない。

　だけど俺はどうなる？

　勝手に転生したと思ったら、いきなり二度目の死を宣告された。

　そんなの理不尽だ。

「さぁ『人轢（ひとひ）きバイソン』対『瞳飲（ひとみの）み』。レディー、ファイ！」

「見世物にされる動物の気持ちがやっと分かりましたよ。腹立ちますから観客でも殺してやりましょうか、ねっ」

『瞳飲み』はそう言うと観客席に、どこから取り出したのか分からないナイフを投げつけた。

（異世界なら見えない壁とかで防がれるんだよな）

　そんな期待も虚しく、ナイフは観客席に居る女性の頭に突き刺さった。

（当たるのかよ！）

「一応言っておきますけど、観客の皆様の命は保証しません。死んだら自己責任ですので」

（ふーん）

　人の生き死にを傍観するのだから、それ相応のデメリットがあって当然だ。

（いい事思いついた）

「ブォォォォォォォォ」

『瞳飲み』が逃げ惑う観客席にナイフを投げ続けてる中、俺は雄叫びをあげる。

　意味があるかは分からない。

　だけどもしかしたら……。

「うるさい牛ですね。牛の目玉には興味ないですけど、死んでくだ──」

『瞳飲み』が俺にナイフを投げようと構えたところで動きが止まった。

　理由はおそらくこの地鳴り。

（成功かな？）

　バッファローになった経験がないから分からなかったけど、アニメなんかでよく雄叫びをあげると仲間がやってくる描写があるので試してみた。

　そしたら案の定。

「こ、これはなんということか。大量のバッファローが客席を蹂躙して、ぐぼばっ」

「ほう、確かあなたはリーダーと説明されていましたね。理不尽に抗う為に仲間を呼んで全てを破壊しようと？」

（そうだよ）

　元の世界では人を殺すなんて発想がまず浮かんでこない。

　だけど異世界だからなのか、バッファローになったからなのか、人を殺すことに抵抗がない。

「素晴らしい。そしてあなたは私を殺すと？」

（……）

　正直どちらでもいい。

　この男を殺しても殺さなくても俺のやることは何も変わらないのだから。

「なるほど。あなたは理不尽を容認しているこの世界を破壊したいのですね」

（俺の心でも分かってるのかよ）

「考えぐらいは分かります。まぁ見逃してくれると言うのなら感謝して逃げさせていただきます。それでは」

『瞳飲み』はそう言うと俺の目の前から姿を消した。

　文字通り瞬間移動のように。

（まぁいいか。俺は俺の仕事をしよう）

　その後俺は建物に突進し続けた。

　全ての観客を殺した仲間のバッファローも同じように。

　そしてコロシアムを破壊するのに時間はかからなかった。

　俺達はその間に囲んでいた騎士団？ だかなんだかを薙ぎ払って進んで行った。

　目の前に立ちはだかる全てを破壊して。