第29話 試し撃ち
小石川倉庫に勤めている下山と上田は、作ったショットガンの試射をするため、休日、山奥に向けて車を走らせていた。
「もう少ししたら、開けた場所に出るから」
運転席にいる上田が口を開いた。
市内を出発してから、かれこれ1時間半くらいたっていた。
「了解」
下山はサイドミラーを見ながら返事をした。
誰かにつけられている様子はない。
このくらい人里から離れたら、ショットガンの音を聞かれることもないだろう。
車をさらに走らせ約10分後、上田が言った通り、少し開けた場所に出た。
地面についているキャタピラの跡から、重機を一時的に保管するために切り開いた場所だと分かった。
上田は少し奥に入った所で車を停めた。
「どうだい、しもやん。ここなら、大きな音を出しても問題ないだろう?」
車から降りると、上田がすぐに話しかけて来た。
「ああ。周りも山林に囲まれているし、試射するにはもってこいの場所だ」
下山は周囲を見渡しながら言った。
「あの土砂崩れ注意の看板、的に使えない?」
上田が看板を指差し言った。
「そうだな。あれ使わせてもらうか」
「じゃあ、早速準備に取り掛かろう」
「ああ」
上田はトランクを開け、中から試射に使う台を取り出し、看板の前に置いた。
下山は上田が設置した台に作った銃を取り付け、そしてトリガーに電動で動く長い棒を挟んだ。
「準備完了だ。ヒロ、離れて」
「ああ」
上田はすぐに銃から離れ、近くの木の影に隠れた。
下山も同じように近くの森林の中に身を潜めた。
「じゃあ、いくよ。5秒前。4、3、2、1」
下山はトリガーを引くリモートスイッチを押した。
引き金に挟んだ棒が手前に引かれ、爆発音と共に弾が飛び出した。
あたりに煙が立ち込め、火薬の匂いが下山の鼻に入ってきた。
下山はおそるおそる試射台に近づき、銃の状態を確認した。
亀裂や壊れた様子はない。
前方の看板を見ると、しっかり複数の銃弾が貫通した後が残っていた。
「ヒロ、成功だ」
下山は後方にいた上田の方を向き、声を上げた。
「まじで? やったね、しもやん」
上田が下山の方に駆け寄ってきた。
「ああ。これで西原を葬れる」
下山の心は大きな充実感で満たされていた。
一夜明け、方丈は少し二日酔いの状態のまま事務所を訪れた。
事務所に着くと、すぐに濃い目のコーヒーを淹れ、眠気覚ましに飲み始めた。
今日中に経理だけは終わらせたかった。
「おはようございます」
一海が元気に事務所の中へ入ってきた。
「一海。今日、日曜だぞ? なんかあったのか?」
「これから撮影会があるから、コスチュームを取りに来ただけよ」
「そうか」
「というのは、理由の一つ。昨日のデートどうだった?」
一海が興味津々の目をしながら聞いて来た。
「えっ? まあ、片岡エイミーは莉凛の信奉者で、莉凛は性格もよく、プログラマーとしての腕も優秀だということが分かった」
「そうじゃなくて、ヤったの?」
「はあ、ヤるわけないだろう。バーで飲んだ後、お互い別れて帰ったよ」
「つまんない。スパイなんだから007のような展開にならないとダメじゃん」
「アホか。でも収穫はあったぞ。今度、地元の企業や政治家との懇談会があるから、その席に同席して欲しいって言われた。エイミーの話によると、竹本莉凛は俺のことを大変気に入っているそうだ」
「あら。エイミーって、随分彼女と仲良くなったじゃない」
「まあ。成り行きで、プライベートの時はお互い名前で呼ぶことになったんだ」
「ふーん」
一海は意味深な表情を浮かべて言った。
「ほら。撮影会なんだろう? さっさと行け。遅れるぞ」
「分かりました。行ってきます、所長」
一海はわざとらしく丁寧な言葉使いで方丈に別れを言い、事務所を出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます