第14話 吹雪舞う

 会議室に戻った秋田は、妹尾たちと共に部屋の片付けと清掃を行なった。


 そしてそれが終わると再びスタジオに行き、作品のクライマックスを見届けた。


「いくよ。5秒前、4、3、2、1」


 今来紀の掛け声と共に、俳優たちが刀を手に大立ち回りを始めた。


 それと同時に、紙吹雪が上から少しずつ舞い落ちてきた。


 取って、置いて、切る。見て、合わせ、切る。つかんで、ずらして、切る。


 先ほどの言葉が、落ちてくる紙吹雪と共に秋田の頭の中に何度も繰り返し浮かんできた。


 斬り合いはしばらく続き、ライバルの男はとうとう主人公に斬られ地面に倒れた。


「カット。はい、オーケー。映像チェックします」


 すぐに来紀が今撮った映像のチェックを始めた。


 スタジオにいるメンバーは、静かにその様子を眺めていた。


「チェック終了。皆さん、お疲れ様でした」


 来紀の言葉を聞いて、みな手を叩き、歓声を上げた。


 秋田も当初の目的を忘れ、大きな達成感で満たされていた。


 映画がクランクアップした後、簡単な慰労会が開かれた。


 アルコールのない飲み物とお菓子が用意され、みなそれぞれ談笑を始めた。


「下山さん。お疲れ様です」


 秋田は教団の情報を集めるため、長く教団に在籍している下山博美に声をかけた。


「お疲れ様、秋田くん。肩とか腰、痛くない?」


 博美はやさしい口調で聞いて来た。


「大丈夫です。下山さんは大丈夫ですか?」


「私は大丈夫よ。教団から言われて、毎日体を鍛えているから」


 博美は腕を回しながら答えた。


「すばらしい。それでそんなに元気なんですね」


「ありがとう」


「下山さんは、ここに来てどれくらいになるんですか?」


「そうね。かれこれ30年近くになるかしら」


「30年。長いですね」


「ええ。入信した時は家族や親戚に猛反対されたけど、私はこの決断は正しかったって、今でも胸を張って言えるわ」


 彼女の満ち足りた表情を見る限り、本心から言っているようだった。


「入信したきっかけって、何だったんですか?」


「夫の自殺。彼ね、私の実家の工務店を継いでくれたんだけど、あわなくてストレスから酒にはまって……。悪いことしたわ。私が継いでくれって頼まなければ、あの人、自殺なんてしなかったのに」


 博美は遠い目をしながら言った。


「そうだったですか」


「秋田君」


 突然、後ろから声をかけられた。振り返ると、そこには木下と今来紀がいた。


「あっ、お疲れ様です」


 秋田は二人にあいさつした。


「おつかれ、秋田くん。木下さんから、聞いたよ。一生懸命、紙吹雪を作ってくれたんだね。ありがとう」


 来紀は熱量のある言葉で、秋田を労った。


「いえいえ。僕は言われてことをただやっただけです」


「そんなことないよ。言われた事をきちんと出来るって、それだけで素晴らしい能力なんだから。それに君は周囲への気配りもきちんと出来ていたと、木下さんが褒めていたよ」


「恐れ入ります」


 秋田は丁寧にお礼を言った。


「そんな君を見込んで、一つお願いがあるんだけどいいかな?」


「はい。どんな内容ですか?」


「明後日、自由憲政党の個人演説会があるんだけど、そこにボランティアとして参加してくれないか?」

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