第27話 導きの朝

 方丈探偵事務所の方丈と秋田、それと一海は事務所に集まり、互いに現状報告をした。


「じゃあ、今、今来季は必死にスケボーの練習をしているんだ」


 秋田からの報告を受け、方丈が口を開いた。


「はい。大技もしっかり決められるよう、一生懸命練習しています」


「意外と真面目な人だったんだな」


「長男と違って、次男はいい人ね」


 一海が辛辣な感想を述べた。


「そういえば、今、長男の天音はどうなっているんだ?」


 方丈は天音の動向を探っていた一海にたずねた。


「会社には来ているけど静かにしてる。自分から何か行動している様子はないわ。その代わり、彼の部下たちが謝罪のため一生懸命走り回っているわ。でも、あの天音って人、あまり人から好かれてなかったのね。この機会に彼から離れる企業や人が結構いるそうよ」


「かなり苦境に立たされているんだな」


「ええ」


「方丈さんの方は、どうなっているんですか?」


 秋田が聞いてきた。


「莉凛との接触は、選挙の手伝いをして以来、一度もない。だけど、今日、秘書の片岡エイミーから連絡をもらった」


「それって、デートのお誘い?」


 一海が聞いてきた。


「多分な」


 方丈はスマートフォンの画面に片岡エイミーから届いたメッセージを表示し、二人の前に出した。


「あら、今晩飲みに行きませんかって、絵文字を使って来てるんだ。うん。これは間違いなくデートのお誘いね」


 一海がメッセージを見て断定した。


「やっぱ、そうだよな?」


「すでに行くって返事はしたんですね」


 同じくスマートフォンの画面を見ていた秋田が、口を開いた。


「ああ。こんなチャンス滅多にないからな。しっかり探ってくるよ」


 方丈はポケットにスマートフォンをしまい言った。




 吉本太一は言われた通り午前中に動画を仕上げ、午後から今大世とともに都内の有名中華料理店を訪れた。


 店の奥にある個室に入ると、そこには3人の男が丸テーブルを囲み座っていた。


「よう、お久しぶり」


 真ん中にいたガタイのいい中年男性が口を開いた。


「お久しぶりです、平賀(ひらが)さん」


 大世は丁寧に言葉を返した。


「まあ、座れよ」


「はい」


 大世と太一は、入り口から手前にある席についた。


「まずは、一杯。ここの紹興酒は美味いぞ」


「いただきます。太一、お前も飲め」


「はい」


 太一は言われるがまま、グラスを受け取り、紹興酒を口に含んだ。


 クセのある強い味が、すぐに口の中に広がった。

 

 太一は一気にそれを喉の奥に流し込み、味を無かったことにした。


「効きますね」


 大世が感想を述べた。


「なかなか、いい酒だろう?」


「ええ」


「そっちの子は、結構きつそうだったけどな」


「初めて口にしたので、ちょっと驚いただけです」


 珍しく太一の口から自然と強がりが出た。


「ほう。面白いな、お前。名前は?」


「吉本太一と申します」


「平賀清和(ひらが きよかず)だ。導きの朝の地域本部長をしている。よろしくな」


「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 どうやら、平賀に気に入られたようだ。


「いい若者が入ったじゃないか、大世」


「ええ。俺が頼りないせいか、なぜか優秀な人が自然に集まってくるんですよ」


「それも、一つの真理だな」


「そう思います」


「ところで、今日おれに相談したいことがあるって聞いたが、どんな要件だ」


「先日、とある女性から男に付きまとわれて困っているので助けて欲しいと依頼を受けたんです。それで、彼女が働いている店に行って、本当かどうか確認しに行ったのですが、ちょっとこれを見てもらえますか」


 大世は先ほど太一が編集した映像を、平賀に見せた。


「こいつは、ひょっとして松田か?」


 平賀が顔をしかめながら言った。


「はい。依頼人は最初警察に何とかして欲しいと頼んだのですが、相手が宗教団体だからと言うことでまともに取り合ってもらえず、うちに頼みに来たんです。平賀さん。この男の暴走を、何とか止めていただけませんか?」


「分かった。ちょっと待ってろ」


 平賀はすぐにポケットからスマートフォンを取り出し、電話をかけた。


「もしもし。おい、松田。お前、最近、飲み屋の女にちょっかい出してるそうじゃないか? あっ? 出してない?」


「そこ、何ていう店?」


 平賀が耳元からスマートフォンを離し、聞いてきた。


「バー・トロピカルです」


 大世はすぐに答えた。


「バー・トロピカルだ。お前、そこに行っているよな? ああ。その子、お前の事好きじゃないからな。えっ、何でそんなことが分かるかって? お前がその子に言い寄っている動画を見たからだよ。彼女が本気で嫌がっているの、お前、分からないのか? その事で俺に直接苦情が来てるんだよ。ああ。いいか。お前二度と、そのバーにも女の子にも近づくなよ。分かったな。よし。じゃあな」


 平賀はしっかり松田に説教をし、電話を切った。


「これで大丈夫だ。もし、あいつがまたその子に付きまとったら、すぐに俺の所に連絡をくれ。しっかり締め殺してやるから」


「ありがとうございます」


 大世はすぐに平賀にお礼を言った。

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