第3話 捜査開始

 小石川倉庫は繁華街から車で40分ほど離れた所にあった。


 倉庫を5つ所有し、その一区画に事務所を構えていた。


 矢上は上司の喜代次とともに車で小石川倉庫へ行き、会社の応接室で社長の小石川洋平(こいしがわ ようへい)と面会した。


「初めまして。ここで社長をしております、小石川洋平です」


 小石川は丁寧に、二人にあいさつした。


 日に焼けた精悍な顔つきに、がっしりとした体型の小石川は、とても50代には見えなかった。


「こちらこそ、初めまして。N県警から参りました、喜代次亘です。こちらは部下の矢上です。本日はお忙しい中、時間を取っていただきありがとうございます」


 三人はそれぞれ名刺を交換し、向かい合う形でソファーに腰掛けた。


「報道ですでにご存知だと思われますが、今朝、高冬法行さんが遺体で発見されました。お辛いとは思いますが、改めて彼が姿を消す前の様子を聞かせてもらえませんか?」


 喜代次が丁寧な口調で、小石川に話しかけた。


「はい。あの日、高冬は帰宅途中に『明日の未来建設』に寄って、伝票を届けることになっていました。夜7時に高冬はいつも通り退社したんですが、夜10時を過ぎた頃、彼の奥さんから夫がまだ自宅に戻らず連絡もつかない、何か心当たりはないかと連絡を受けたんです」


「その時、小石川さんは関係者全員に高冬さんの行方を知らないか連絡したんですよね?」


「はい。ですが、明日の未来建設に立ち寄った後の行方が全く分からず、それで警察に連絡しました」


「高冬さんが行方不明になる前後に、何かトラブルは有りませんでしたか?」


 喜代次が質問した。


「ありません」


「では最近、高冬さんが気落ちしたり、怯えたりしていた様子はありませんでしたか?」


「それもないです。いつも通りでした」


「届けた伝票とは、何か特別なものでしたか?」


「いえ。いつもと同じものです」


「そうですか……分かりました。ありがとうございます。できればこの後、高冬さんの同僚の方からも話を聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」


「もちろんです。では、少々お待ちください」


 小石川は応接室を出て行った。程なくして、小石川は40歳くらいの男を連れて戻って来た。


「ご紹介します。彼は弊社で在庫管理をしている中本裕也(なかもと ゆうや)です。彼が工場内を案内するので、その時に従業員から話を聞いて下さい」


「分かりました」


「初めまして、中本です。皆さまのお力になれるよう、頑張ります」


 中本は丁寧にお辞儀をした。


「こちらこそ。初めまして。N県警から参りました、喜代次亘です。こちらは部下の矢上です。本日はよろしくお願いします」


 三人は互いに名刺を交換した。


「では、まず倉庫の方から案内いたします。ついて来てください」


 二人は中本と共に、事務所の外に出た。




 中本に連れられ着いた先は、事務所から一番近くにあった倉庫だった。


 中では二人の男がフォークリフトを使って作業をしていた。


「下山さん、上田さん。すいません、ちょっといいですか」


 中本に声をかけられ、作業をしていた二人の男はフォークリフトを降りてこちらに近づいてきた。


「何でしょうか?」


 胸に上田と書かれた名札がついた、中肉中背の40歳くらいの男が口を開いた。


「お二人に紹介したい人がいます。こちらはN県警から来た刑事さん。喜代次さんと矢上さんです。二人は現在、高冬さんの事件を捜査しています。高冬さんのこと、刑事さんたちに話してもらえませんか?」


「俺はここに来てまだ2週間くらいですけど、答えていいんですか?」


 上田が聞き返してきた。


「もちろんです。よろしくお願いします」


 喜代次はすぐに答えた。


「では、初めまして。上田浩勝(うえだ ひろかつ)です」


 上田は淡々とした口調であいさつしてきた。


「下山審久(しもやま あきひさ)です」


 上田の隣にいた下山は、上田よりもぶっきらぼうな感じであいさつした。顔にもあまり感情が出ず、何を考えているのか全く分からない男だった。


「お二人にお聞きしたいのですが、高冬さんはどんな方でしたか?」


 喜代次の質問に、手前にいた上田が先に口を開いた。


「高冬さんは俺より5つ年下の上司だったんですが、いつも丁寧に接してくれました。ここに来てまだ2週間ですが、ここであの人の悪口を聞いたことは一度もありません」


「そうでしたか。下山さんは高冬さんについて、どう思っていましたか?」


「高冬さんはいい人です。亡くなって残念です」


 下山は、再びぶっきらぼうに言葉を返して来た。


「では行方不明になった4日前、高冬さんの様子はどうでしたか?」


「いつも通りだったよな?」


 上田が下山の方を向きながらたずねた。


「ああ」


「では、4日前の夜、お二人は何をしていましたか?」


「えっ? それってアリバイっていうやつですか?」


 上田が明らかに嫌そうな顔をしながら聞いてきた。


「ええ。大変申し訳ないのですが、決まりとして必ず聞くことになっていまして。ですが、アリバイがなくても気にしないでくださいね。男性の一人暮らしなら、アリバイがないのは普通ですから」


「仕事が終わって帰る途中、近くのコンビニで弁当とビールを買って、それから家でくつろいでいましたよ。一人で」


 上田は不服そうに答えた。


「下山さんは、その時、何をしていましたか?」


「何も」


「何も?」


「はい。駅の近くの定食屋で食事した後、まっすぐ家に帰りました」


 下山は相変わらず無表情のまま、最低限の説明をしてくれた。


「そうですか。分かりました。仕事中にも関わらず、ご協力いただき、ありがとうございました。本日はこれで失礼致します。もし後で何か思い出したことがございましたら、こちらまでご連絡ください。お待ちしております」


 矢上たちは電話番号とメールアドレスが載った名刺を二人に渡した。


「では、他の従業員にも話を聞きにいきましょうか」


 中本が喜代次たちに声をかけてきた。


「よろしくお願いします」


 二人はすぐに言葉を返した。


「では、失礼します」


 上田たちに別れを言い、矢上たちは次の倉庫に向かった。

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