物書きの最後のはなし。

かげのひと

物書きの最後のはなし。

 地球滅亡までのカウントダウンも、気づけばもう残りわずか。

 なに、物語ではよく見かける話だ。

 知名度で言えばリメイクもされた『アルマゲドン』が有名どころか? それとも少年と少女が入れ替わってしまう、彗星を廻る出来事の映画の方が最近の子には分かりやすいか?


 テレビを付ければ、奪略だ、暴動だ、と放送を繰り返してたアナウンサー達も今では静かなものだった。

 どうせ、隕石の落下で滅ぶのだ。

 最後の時まで仕事をしたいなんていう人間はどれほどいるというのだろう。

 現に、就寝前までは騒がしかったこの街も驚くほど静まり返っている。


 覚悟を決めたのか。それとも、可能性を掛けてどこかに逃げ出したのか。

 いさぎよいのも、諦めが悪いのも、どちらも人間らしくていいものだ。


 そのくせ、自分はというと最後の一日だというのに、パソコンの前で睨めっこを続けている。

 足元では飼いネコが欠伸を一つ。暢気なものだ。

 眠気覚ましに入れたコーヒーは、普段よりも少し濃い。

 胃の中にスッと落ちると、腹の虫が思い出したように「ぐぅー」と音を立てた。

 

 机の端に追いやったサンドイッチをたぐり寄せる。賞味期限を少しばかり過ぎたハムとチーズをパンに挟み、それにお気に入りのハニーマスタードをふんだんにトッピングしたものだ。

 ホットサンドの予定だったが、ガスももう使えなかった。

 最後の食事がままならないのも、私らしい。

 

 時計を見れば、人類に残された時間は、僅か十分足らず。

 この世にやらなきゃいけないことなんて、無いと思っていたけれど。

 

 なんだか締め切りがあった方が調子が良い。

 あとちょっと。

 その時が刻一刻と近づいてくる。

 THE END。

 その文字を見るために、今まで書いてきた。

 せめて、これだけは。

 

 「はー」


 と、大きく深い溜め息を零す。

 間に合った。

 時計を見れば、長針はメモリ三つ前。


 物語なんて所詮は自己満足。

 

 辞世の句としては上出来だろう。

 あとがきにふてぶてしく書き残し、私はゆっくり目を閉じた。

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物書きの最後のはなし。 かげのひと @ayanakakanaya

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