通学路【KAC20241】

郷野すみれ

第1話

私には三分以内にやらなければならないことがあった。


そう、あと三分以内に発車してしまうであろう電車に乗らなければいけないのだ。


時間を示す腕時計は7:13を指している。発車時刻は7:16。これを逃すと高校への始発電車はない。始発でないと、座れずにずっと立っていなければいけないのできついのだ。


いつも通りに準備をして家を出たはずなのに、今日はなんでこんなにギリギリなのだろう。気温が寒かったから、布団から出るのが少し遅かったのか。私はマスクを口の下に少しずらし、白く曇る息を眺めながら駆け足で駅へ向かう。


「はあ、はあ……」


駅の建物が見えてきた。時刻は7:14。あと二分。


その時、後ろから軽快な足音が聞こえた。


「あれ? 佐紀子じゃねえか。お前が遅いの珍しいな。いつも俺が駅に着く頃にはホームにいるのに」


幼馴染の卓人の声が斜め後ろの上から降ってくる。幼稚園の頃から中学まで同じところに通い、電車通学の進学先の高校も一緒の腐れ縁だ。


「お……は……」


息が切れて、声にならない。思っていたより体が辛いらしい。


「陸上部の俺はともかく、お前なあ……。 っていうか、そのペースだと間に合わないぞ。相変わらず荷物が多いんだから、そのバッグよこせ、持ってやる」


私は憎まれ口を叩く余裕もなく、大人しく肩掛けバッグを渡した。


「おもっ! 何入ってんだよ」


そう言って、先に卓人は去っていった。


7:15。あと一分。


卓人に荷物を渡したおかげで、体が軽くなった。ラストスパート。遠くで踏切の音が聞こえる。


死に物狂いで足を動かし、改札を通る。


ホームに着いていた卓人の元に行ったところで、電車が入ってきた。人がそこそこいるので、マスクの位置を戻した。


「あり、がとう。助かった」


「間に合ってよかったな」


「うん」


電車に乗り込み、座ったところで荷物を受け取ろうとすると、断られた。


「いい。高校の最寄り駅まで持っておく」


「え、なんで」


「お前、ちっちゃいのに荷物多いから。置き勉してないんだろ? 俺は荷物少ないからな」


「ちっちゃいのには余計。そういえば、卓人なんであんなに急いでたの? 別にこの電車逃しても次の電車があるじゃん。私と違ってずっと立ってても平気でしょ? そういえば、よくこの電車で見かけるよね」


「お前……」


深くため息を吐かれた。そして、理由は教えてもらえないらしい。


まあ、今日の分のお礼として高校に着いたら何か奢ろう。

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通学路【KAC20241】 郷野すみれ @satono_sumire

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