【KAC20241+ 参加作品】レザーネック(米海兵隊) vs 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ

あら フォウ かもんべいべ

第1話







  遠い異国の地にて。


 果てしなく広がる荒野、地平線の先に映る土煙が、まるで天へと昇ろうとする竜のように立ち込め、地鳴りを轟かせながらこちらへと向かってくる様子を、双眼鏡越しに眺めるカスガ大尉は、今置かれた状況に対して大きなため息をついた。


「トム、アフ〇〇にバッファローなんて生息してるものなのか?」


「大尉、バイソンでしたら我々のご先祖様が、絶滅寸前まで追い込みましたね」


「おう、お前らアングロサクソンも派手にやらかしてくれたもんだ。ともあれ、ア〇〇ンにバイソンはいない。あれはそうだな……野生化したヤクの群れか?」


「さぁ? まるで我々のご先祖様への恨みが、具現化したかのようですね」


「お前らの先祖のクソッタレ! で、どうする? 陣地を引き払って後退するか、それとも迎撃でもするか?」


「大尉、私の出身のテキサスでも、野生化した豚に日夜銃撃を加えてますが、全く収まる様子もありませんよ? 200万匹ぐらいいるらしいですからね。硝煙臭い観光名物として売り出しているぐらいですから、我々もここで商売始めます?」


「「HAHAHA!」」


 トム中尉とジョークを交わしたカスガ大尉は、笑い合ったのも束の間、現実逃避をする時間も刻一刻と無くなりつつある。


 土煙を巻き上げながらこちらへと向かってくる、まるで地中から這い出した竜のようなものの正体は、【全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ】であった。


 そもそもアフガンにバッファローはいない、生息していない。


 しかし、現実問題として、こちらへと向かっていることは事実であり、到達するのも時間の問題だと考えたカスガ大尉は、トム中尉の配下の兵卒たちへと声をかけた。


「さて、我々は今、配置転換をするか、最高の射撃訓練をするか、決断を迫られている。サマーフィールド上等兵、お前の当たらない射撃もこの機会に、その道のエキスパートとなれるかもしれないぞ?」


 カスガ大尉に名指しで呼ばれたサマーフィールド上等兵こと、ジェニファー=S・サマーフィールドは、北欧系の金髪碧眼にうっすらとソバカスが浮かぶ、まだあどけなさの残る幼顔は、どこか不満げなままカスガ大尉に対して注視し、やがては姿勢を正しながら答えた。


「大尉、エミュー戦争ってご存知かしら?」


「なんだ、それは?」


 思いもよらぬ返答、質問返しにカスガ大尉は、サマーフィールド上等兵に対して続きを促した。


「そうね、今からおおよそ100年前の話ね。エミューは繁殖期になると、群れを作って大移動するのだけど、その途中で農作物を食い荒らすのよ。それで民間じゃどうにもならなくなって困ったから、オーストラリア軍に害獣駆除を依頼したのよ。エミューの集団を車両で追いかけて、機関銃で一網打尽しようって作戦よ」


「へぇ、相変わらず勉強熱心で感心するよ。それで、サマーフィールド上等兵、結果は?」


「大尉、人類は敗北したわ。射撃訓練もいいけど、エミューに負けた我々が、どうやって対抗しようって言うのよ?」


 エミューにすら負けた人類が、【全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ】に対して、どうやったら勝てるのか?


 カスガ大尉は、サマーフィールド上等兵の言うエミュー戦争の例から状況をよく理解したことで、また一つ大きくため息を吐き出し、トム中尉にこう告げた。


「トム、間に合うかはわからないが、空軍に絨毯爆撃を要請しろ。我々は、足止めしつつ、ハンヴィーで後退する。それでは、状況を開始する。総員、この地球上でアメリカ軍が最強であると証明しようではないか!!」


 部隊からは歓声が上がり、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを迎撃しつつ、後退する任務だけであれば、テロリスト相手と違い、向こうから弾が飛んでくることもない。


 うまくいけば無傷で済むばかりか、射撃訓練として最適ともなれば、部隊の士気はますます旺盛となるのであった。


 総員、配置に付いて状況を開始し、空軍の支援も間に合った甲斐があり、B52の絨毯爆撃により、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを吹き飛ばした。


 米帝らしさ全開のパワープレイにより、多額の運用コストを投じた作戦の結果、またしても人類は敗北した。


 先の例から人類はなにも学ばず、エミュー戦争の二の舞を演じたのであった───。







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