打たれる、ならば打つだけだ

水瀬 由良

打たれる。ならば打つだけだ。打てない?ならば、打つだけだ。

25−23

25−17

15−17

11−8

19-12

 試合のスコアである。

 何の試合か。25点でそろっているからバレーの試合かと思いきや、3セットと4セット目がおかしい。3セットとれば勝ちなのであれば、3セット目も25点でなければおかしい。それ以前に3セット目は相手がとっている。

 バスケットの試合にしてはロースロアだし、実力伯仲の卓球の試合で11点とればいいところをデュースで得点が重ねられたというので、あれば2セット目がおかしい。


 だったら、何の試合なのか。

 野球である。


 これでこんなものかと感じるようになってしまった自分はもうとっくに常識がなくなっている。


 皆さんは、馬鹿試合指数というものをご存知だろうか。誰が考え出したのかは分からない。それぞれの得点を二乗して、足したものをそのように言う。例えば、10−8であれば、10の二乗で100、8の二乗は64。これを足すと164となり、これが馬鹿試合指数である。

 概ね100を超えれば馬鹿試合と言っていい。


 ところがこのチーム、山陰バイソンズの場合、100はおろか、200に届くのが普通だ。11点をとった試合で11点しかとれなかったと悔しがるのが、山陰バイソンズであり、8点をとられた試合で8点に抑えたと自慢するのが、山陰バイソンズなのだ。


 山陰バイソンズは5年ほど前の球界再編問題の時に、新しくできた球団である。その時も相当揉めたが、新しくできた球団には選手がいない。そう言っても選手がいなければ試合はできない。そう言って、集まった選手は打つには打つが他に難がありすぎる選手達だった。


 どうして、こんな選手が集まってしまったのか。

 新球団なので、ある程度の選手は出さないといけない。でも、主力は出せない。ならば、出して格好のつく選手、ということで、こんな偏りのある選手構成になってしまったのだ。


 チームの方針はこの時点で決まっていた。

 チーム防御率は実に8点台。失点率となると、さらに上がる。理由は簡単でプロと思えないそのエラー数のためだ。もちろん、記録に残らないエラーも数知れず。

 ただし、打つ方はというと、これも常識外れ。

 チーム出塁率は実に5割を越え、OPSは1を超える。

 ホームランか三振かというのが野球の基本と言われるが、バイソンズはそんな中途半端なことはしない。ホームランかホームランか場外かというような訳の分からないレベルなのである。


 さながら、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れだ。

 常識という常識を全て破壊し、そんな方針じゃ勝てっこないという助言を無視して、ただただ攻撃に全力振りして突き進む一団の群れ。

 とにかく、山陰バイソンズの方針は「打て。打てなくても打て」である。


 意味が分からない。


 打てなくても打て。とはどういう意味なのか。

 俺は球団3年目のドラフト会議でドラフト指名され、入団したのだが、その意味を監督に聞いてみると、

「そのままの意味だ。相手が球界のエースだろうが、抑えの大魔神だろうが、とにかく打てるまで打てということだ」

と答えてくれた。


 はっきり訳が分からなくなった俺は考えるのを止めた。

 とりあえず、打てば使ってもらえるのだ。

 守れなくてもである。ちなみに投手はいない。野手のみである。若干語弊があるが、全員が野手でもあり、投手でもある。

 とにかく、どうせ抑えられないのだ。ならば、誰が投げてもいいじゃないということで、全員が登板するベンチ入りするのは25名。全員が登板できる。

 なんかもうむちゃくちゃだ。


 その結果が冒頭のスコアという結果に表れているのである。


 このむちゃくちゃな方針のおかげで、球団創設5年目にして、相当な数のファンがいる。

 新スタイルお笑い球団である。

 もちろん、こっちは真剣そのものだ。脳筋だが、脳筋が真剣ではないというわけではない。脳筋こそ真剣なのだ。


 今日も今日とて、打ちまくる。

 今日も今日とて、打たれまくる。

 それで、直近5試合は4勝1敗。首位を走っている。


 おっと、次は俺の登板か。まぁ、何点とられても気にしなければいい。そのうち、打ち損じてくれるだろう。実際に、ストライクは投げられるし、入団時に投げ方だけはいろいろとやらされた。オーバースローは言うに及ばず、スリクォーターに、サイドスロー、アンダスローまでさせられ、クイックもやらされた。おかげでタイミングは取りづらいみたいだから、時々、打ち損じてくれる。

 相手チームの監督は知将として有名な野田監督だ。野田監督なんかは山陰バイソンズを『近代野球の否定だ。あんなチームを認めてはならない』とか言っているらしい。


 でも、仕方ない。

 俺たちはこうした環境でしか、プロ野球選手になれなかったし、生きれなかったのだ。俺なんかは守備が悪いからってドラフト7位まで残っていた。

 山陰バイソンズが拾ってくれなければ、指名漏れになっていたことだろう。

 

 だからこそ、俺達バイソンズは高らかに宣言する。

 

「バイソンズの打撃は世界一!!!!」

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打たれる、ならば打つだけだ 水瀬 由良 @styraco

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