第3話

 私はシエナと二人で、エントランスに急いだ。


 両親がおり、その向こう側に背の高い男性が佇んでいる。どうやら、今日のお見合い相手の男爵様だろうか。

 淡い栗毛色の髪に濃いみどり色の瞳が印象的なそれなりの美男だ。まあ、体格がややガッチリした感じだが。


「……あら、オーレリア。身支度はできたようね」


「はい、母様」


 母が気がついて、声をかけてきた。父も同じように視線を向けた。


「お、身支度ができたのか。オーレリア、こちらに」


「……はあ」


 父に呼ばれて、私は傍らに立つ。いざ、正面から見たら。男性は私よりはリンゴ一つ分背が高い。


「アンダーソン男爵、こちらが娘のオーレリアです」


「……ほう、こちらの女性が。初めまして、私はエセルバート・アンダーソンと申します。以後、お見知り置きを」  


「初めまして、ご紹介にあずかりました。私はオーレリア・ハンゼルと申します。アンダーソン男爵様」


 私は初対面の相手なので、カーテシーをする。アンダーソン男爵は慌てて、頭を上げるように言った。


「ハンゼル嬢、頭を上げてください。私の方が爵位は低いですから」


「そう言う訳にもいきません、初対面の方ですし」


「……分かりました、けど。私には気軽に接してください」


 私はその言葉を受けて、カーテシーを解いた。


「では、何とお呼びしましょう?」


「……そうですね、エセルとかバートとか。好きなように」


「……じゃあ、エセル様と呼ばせていただきますね」


「ああ、私もエフィルと呼ばせてもらいます」


「はい」


 私は承諾した。アンダーソン男爵もとい、エセル様は手を差し出した。


「エフィル嬢、行きましょうか」


「分かりました」


 頷いて、エセル様の手を取る。両親と四人で歩き出した。


 しばらくは応接室にて両親をまじえ、談笑する。一時間程したら、「後は若い人達だけで」といって私とエセル様の二人きりにされた。

 けど、ちょっと気まずい。まあ、私は男性と二人きりになった事がないし。エセル様も似たような感じみたいだ。


「……あの、エセル様。庭園にでも行きませんか?」


「そうですね、行きましょう」


 私が思い切って言ったら、向こうも頷いてくれた。二人して連れ立って庭園に出たのだった。


 今は三月の中旬で初春と言える季節だ。昼間なので、陽の光も暖かくて。散策にはぴったりの天候と言えた。


「今日は良い天気ですね」


「はい、本当に」


「エフィル嬢は散策を普段でもしますか?」


「ええ、時たまにですけど」


「そうですか、私も暇があったら。散策をしますね」


 取り留めもない話をしながら、ゆっくりと庭園を回る。エセル様は割と人懐っこい。

 私に、趣味の話をしてくれた。


「へえ、エセル様は遠乗りや馬の世話が好きなんですね」


「はい、私の領地にある小高い丘まで行く事が多いかな。そこから、見る景色はなかなかですよ」


「私は読書や詩を書いたり、歌う事が好きで。たまに、絵も描きますね」


 私は思った。エセル様との共通点がないと。これじゃあ、お断りされるわね。


「あの、エフィル嬢?」


「すみません、ちょっと。考え事をしていまして」


「はあ、ならいいんですが。そうだな、また機会があったら。絵を見せてもらえませんか?」


 私は意外な提案に驚きを隠せない。


「あの、そんなに上手くはないですよ。下手の横好きと言いますか」


「いや、あなたが嫌なら。無理にとは言いませんよ」


「はあ」

 

 二の句が継げずに、私は俯いた。その後は無言で散策をするのだった。

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お亀さん令嬢と呼ばれたが、旦那様と幸せになる 入江 涼子 @irie05

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