誇り高き俺の仕事

青樹空良

誇り高き俺の仕事

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。


『14時57分』


「すまない。もう行かなければ」

「そんなに仕事の方が大事なの!?」

「馬鹿言うな、そんなことあるわけないじゃないか! だが、これは俺にしか出来ないことなんだ!」

「待ってよ!」


 彼女の声を背中に聞きながら俺は急いだ。


「わかってくれ!」


 と、叫びながら。

 俺だって辛いに決まっている。

 本当は彼女とずっと一緒にいたい。今だって時間ギリギリまで一緒にいたくらいだ。

 だが、俺は行かなければならない。

 俺のことを待っている人たちがいる。


『14時58分』


 目指す場所が見えてきた。

 彼女は追ってきてはいない。

 大切な彼女だが仕事場に連れていくわけにはいかない。

 俺は窓からすべり込む。

 大丈夫だ。誰も俺の姿には気付いていない。

 が、俺のことを待っている人たちの姿は見える。

 俺を待っていてくれる人がいる限り、時間に遅れるわけにはいかない。

 時間厳守の仕事なのだ。

 俺の仕事場まであと少し。


『14時59分』


 間に合った。

 俺は誰にも気付かれずに仕事場へと辿り着いた。

 身だしなみを整える。

 人に姿を見せるのが仕事だ。おかしな格好をしていては出て行けない。

 呼吸もしっかりと整える。

 この自慢の喉も大事な仕事道具だ。


『15時00分』


 扉が開く。

 満を持して俺は人々の前に姿を見せる。

 そして、


「ぱっぽー、ぱっぽー、ぱっぽー」


 美しい声で三回鳴いた。

 誇らしげに鳴いた後、俺は閉まる扉とともに15時の役目を終えた。

 俺は安堵のため息を吐く。

 間に合って良かった。


「おかーさーん! ハトさん鳴いたー! おやつー!」


 俺が仕事をしている家の子どもが母親に向かって叫んでいる。

 一時間に一度仕事をしている中で15時は特に大切だ。この家の子どもがおやつの合図として俺を待っている。

 もちろん、どの時間だって大切だ。

 待っている人たちがいる限り、俺は定時に鳴き続ける。

 それが、誇り高き鳩時計の仕事だからだ。

 よし、彼女のところに戻るか!

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誇り高き俺の仕事 青樹空良 @aoki-akira

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