第4話 その後の武蔵吉池家
全く信じられない店であった。
旧共産圏の国営食堂でもまだましな接客をしたであろう。
日本国内で営業していた飲食店とは思えず、SMクラブの一種だったのではないだろうか。
後に知ったことだがあの店はラーメンマニアの間で悪名高き極悪店であり、そこで食事に行ったこと自体が勲章になることから逆にマニアを引き付けているという側面もあったようだ。
あの接客態度にもかかわらずあれだけの行列ができているんだから、これはこれで立派な商法の一つと言えるのかもしれない。
腹が立つことこの上ないが。
今から思えばラーメンマニアの柴田が行きたがったのは『武蔵吉池家』へ行ったという自己満足を得るためだったのだろう。
私を強引に誘ったのは一人で行くのが嫌だったからに違いない。
あの日以来口きかなくなったし、職場もやめてしまって連絡が全くなくなって久しいから確かめようがないが。
しかし、そんなラーメン屋風SMクラブの存続をいつまでも許すほど社会は間違っていなかったようである。
『武蔵吉池家』で受けた仕打ちが忘れられず、もう二度とあの店と行列を見たくないと、その近辺である新宿区某所は禁断の地と化していたのだが、五年後にどうしても『武蔵吉池家』の目と鼻の先の場所に行かなければならない用事があって嫌々行ってみたらインド料理屋になっていた。
ネットで探しても見当たらなかったから移転したのではなく閉店したんだろう。
悪が滅んでめでたしめでたしである。
とは言え、このムカつく体験はいつまでも忘れられやせず、店主をあの店員たち共々高温の鍋で煮込んでやりたい気持ちは今も変わらない。
私はラーメンを今でも好きだが、行列のできるラーメン屋だけは行く気しないのは、どうしてもあの『武蔵吉池家』を思い出してしまうからである。
それに最近では、行列ができるような名店の味を再現したカップ麺や冷凍チルド食品が売られているから、わざわざ行かなくてもよいだろう。
そりゃ直接店に行って食べるのが一番かもしれないが、行列に並んだのに大した味じゃなくて、おまけに偉そうな態度を取られたりして嫌な思いをするのはごめんである。
だから、まず冷凍チルド版を試してから行っても、遅くはないのではないだろうか?と私は考えるのだ。
何十年経っても許せぬ!!「行列ができるラーメン屋」から追い出された屈辱 44年の童貞地獄 @komaetarou
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