全破壊突進バッファローは水辺で一頭になったとき、何を思うか

五十貝ボタン

全破壊突進バッファローは水辺で一頭になったとき、何を思うか

 ぼくには三分以内にやらなければならないことがあった。


 ぼくは全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れの一頭だ。

 ぼくはいままで、群れと共に全てを破壊しながら突き進んできた。

 

 あるとき、ぼくは気づいた。

 群れがものがあることに。

 群れは日に数度、水辺で突進を止める。バッファロー、すなわち水牛は水浴びをする。そのためには水が必要だ。


 そう、水が必要なのだ。


 群れは水を破壊しようとはしない。

 でも、もし水に向かって突進したら、やっぱり水も破壊するんだろうか?

 群れのうち一頭だけでも、全破壊突進できるんだろうか?

 そう思った時、ぼくは「群れのうちの一頭」であるだけでなく、ぼくがであることに思い至った。


 いままでは何も考えずに全破壊突進していればよかった。

 でも、自分の意思で全破壊突進したいと思って全てを破壊しながら突き進んだことが今までに一度でもあっただろうか?


 ピィーーッ!

 全破壊突進監督バッファローがホイッスルを鳴らした。全破壊突進再開まであと三分の合図だ。

 全破壊突進をはじめたら、ぼくはきっと群れでの全破壊突進に夢中になる。でもそれは、ほんとうにぼくがしたい全破壊突進なんだろうか?

 ぼくにしかできない全破壊突進があるんじゃないか?

 それとも、群れから離れて全破壊突進なんてできないのか?


 考えているうちに、二分五〇秒が過ぎ去っている。次の水場でもぼくは同じことを思うだろうか。そのとき、ぼくはいまのぼくと同じぼくなんだろうか?


 喉に熱いものが込み上げてきた。反芻動物だからだ。

 草を噛みながら、ぼくは走り出した。

 誰かがぼくを止める声が聞こえたが、突き進んだ。水の中へ。


 バシャーン!


 無我夢中で水の中へ飛び込んだ。


 浮いている。

 ぼくに水は破壊できなかったのだ。


 群れは突進しはじめていた。

 二度とあそこにもどることはないと思った。

 全破壊突進バッファローの群れを離れてしまった。

 でも満足だ。

 ぼくはぼくだったんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

全破壊突進バッファローは水辺で一頭になったとき、何を思うか 五十貝ボタン @suimiyama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ