動物牧場

コラム

***

牧場のオーナーには三分以内にやらなければならないことがあった。


それはお昼の時間になったら必ず三分以内に、牧場に住む動物たちへエサを与えなければいけないルールがあるからだ。


もし時間を過ぎてしまったら、オーナーは動物たちに牧場を追い出されてしまう。


「やっと来たわよ、ショアフィールドさんが」


「いつもギリギリよね、あの人って」


ウシとブタが笑っている前に、牧場のオーナーである男――ショアフィールドが慌てながら皿の上にエサを撒く。


二匹は人のように二歩の足で立ち、スプーンを持って皿へと手を伸ばしていた。


そしてショアフィールドは次の動物たちがいる場所へと走り、同じようにエサを与えていく。


状況からわかる通り、この牧場は動物たちに強い権利がある。


その理由は、動物たちがある日に落ちぶれていく牧場の状態に嫌気がさし、人間に反抗したからだった。


結果として、動物たちの革命は成功。


その後――つまりは現在は、牧場オーナーを動物たちが投票して選べるようにし、さらには人と同じ権利が与えられた。


「ちょっとショアフィールドさん。ボクのエサなんだけど」


エサを与えられたニワトリが、ショアフィールドに声をかけた。


この牧場の動物は三種類いて、ウシ、ブタ、ニワトリがそれぞれ仲良く暮らしている。


いつも牧場のオーナーがあくせく働いているのを横目に、それをせせら笑うのが動物たちの娯楽だ。


「食品添加物が入ってるでしょ、これ。ダメだよ、ボクらは繊細なんだから、ちゃんと無添加のエサにしてもらわないと」


「すみません。心からお詫び申し上げます……」


「ショアフィールドさんって、いつも謝ってるなぁ」


ニワトリから苦情を受け、ショアフィールドは深く頭を下げた。


その姿を見た動物たちは、誰もが腹を抱えて笑っている。


投票で選ばれた人間は、動物たちに嫌われたらすぐにオーナーをクビになってしまう。


今は人間社会も厳しく、安定した給与が入る牧場の仕事は誰もがやりたがる職だ。


牧場のオーナーの年収は政治家すらも超える額であり、選ばれれば生活は安泰どころか一財産を稼げる。


そのことを知っているのもあって、動物たちは皆、自分たちが選んだ人間のことを、コメディアンと召使い両方が合わさった扱いをしていた。


ショアフィールドは今日も不手際があれば謝罪し、牧場の経営政策を発表すれば小馬鹿にされる日々を送っている。


そんな態度でいるなら新しいオーナーを選べばいいじゃないかと思われるが、今のところショアフィールドに代わる人間はろくな者がいなかった。


夢みたいなことを情熱的に語る人物や、明らかに不正ありきで伸し上がろうとする者などがおり、ショアフィールドよりもマシなオーナーは見当たらない。


「まあ、誰がなっても似たようなもんだけどね」


「そうよね。結局、何も変わらないわ」


「そうよそうよ。人間なんてお金のことしか頭にない、哀れな生き物なんだから」


同じテーブルについていたニワトリとウシ、そしてブタの三匹が、人間のことを哀れだと笑っている。


いつも金のことばかり考え、他人よりも秀でていたいと、互いの足を引っ張り合う最低の生き物だと。


ニワトリが笑いながら、ウシとブタに言う。


「話は変わるんだけどさ。なんかショアフィールドさんが牧場のオーナーになってからかなぁ。なんかボクらニワトリの数が減ってきているんだよ」


「あら偶然ね。ワタシたちウシの数も減っているの」


「アタシらブタもよ」


三匹は年々仲間の数が減っていることを不思議に思いながら、全部ショアフィールドが悪いのだと笑い合った。


牧場のオーナーのくせに、ちゃんとした経営政策を考えないからだと、次第に声を荒げながら語り合う。


これは動物たちが、権利を勝ち取ってからずっと続いている光景だ。


彼ら彼女らは権利こそ得たものの、毎年、仲間の数は減るばかりだった。


「じゃあ、手筈通りにたのむぞ」


深夜の牧場の外で、ショアフィールドが黒づくめの男たちと話をしていた。


動物たちがもう寝静まった時間だ。


「はい。それで今回の数はどうしましょう、ショアフィールド大臣?」


「いつも通りでいい。多すぎず少なすぎ。奴らがグチグチと文句をいうぐらいで収まる数だ」


ショアフィールドは笑う。


哀れなのはお前たち家畜だと。


そうやって表向きは権利があると思っていればいいと。


こうして今夜もまた、人知れず動物たちの数は減っていった。


〈了〉

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