美少女魔王と人類最後の僕の日常

もるすべ

第1話 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れには三分以内にやらなければならないことがあった

 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れには三分以内にやらなければならないことがあった。それは一人の少女を送り届けること、彼らの主人を。


「三分以内じゃ、急げ!」

 群れの先頭、バッファローの背中で美少女が叫ぶ。

 月白色の長い髪をなびかせ華奢な体で巨大なバッファローに跨がる姿は、まるで小さな女の子にすぎない。だがその真の正体は世界を滅ぼし尽くした、魔王イヴリス。


「おのれ、約定を破りおって! 許さん」

 主人の怒りを体現したかのように荒ぶる、バッファロー型の魔獣たち。

 魔王の配下に相応しい体重百トン超の魔獣が数万頭、廃墟の住居やビル…… 全てを破壊しながら突き進む。


「ダメ! もう三分たっちゃう」

 恋しい男の好みに姿を変えている、魔王イヴリス。

 彼女の声に焦りが浮かぶと、バッファローの群れが猛然とラストスパートをかける。いま、東京スカイツリーの残骸を蹴散らしてトドメを刺した。


「待ってよ~ お兄ちゃ~ん」

 魔王イヴリスは、可愛らしい羊角を振りながら悲痛な叫びを上げた。

 主人に忠実なバッファローたちは、魔王が戯れに兄と呼ぶ少年を轢き殺さんばかりに猛り狂い、全てを破壊しながら突き進む。




「いただきます」

 三分たったところで、僕がフタを開けようとすると。

 ドドドドドッ と、突然の地鳴りに続いて ブワッ と、土煙に襲われた。「なんだ、なんだ」と思ってるうちに煙がはれて、女の子がバッファローの上から飛び降りて言う。


「最後の一個、一緒に食べるって約束したじゃない!」

 僕をお兄ちゃんと呼ぶ変わった子、人類滅亡したらしいから二人ぼっち。

 女の子は僕の横に座って、花のような匂いの体を擦りつけて甘えてくる。僕が謝りつつフタ開けて割り箸で麺をすくってあげると、嬉しそうに「ちゅるん」と啜り込んだ。


「う~ん! やっぱ、カップラーメンうまいのじゃ」

 美少女の笑顔につられて、僕も麺を啜る。

 巨大バッファローの群れを見上げて、「明日から何食べよう」と呟いた。

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