第15話 健気な彼女
あきらは家に入ってきたカノンにすぐに気付いた。
慌てて事情を説明しようとするあきらを遮って「あ、私、忘れ物取りに来ただけだから。ごめん、今日タコパって言ってたの忘れてた。本当にごめんね。私、帰るね」と言い、すぐに帰った。
しばらくして買い出し組が帰ってきて何事もなかったかのようにオールタコパは続いた。
翌朝。あきらは自責の念にかられていた。あんなに心に封印してきた気持ちがいとも簡単に解き放たれてしまったのだ。しかも彼女にその現場を見られるといったドラマでいったら修羅場のようなシーンである。
(カノンに事情を説明しないと!てか事情って何だ。事故じゃない。ただ単に抱きたかっただけじゃん。自分の気持ちに正直になってしまっただけ。事情も何もない。何話しても言い訳になって結局カノンを傷つけてしまう)
そう頭で考えてる内に1週間が経った。もちろんその間、カノンに連絡はしていない。向こうからも来なかった。バイトのシフトも狙ったかのように被らなかった。でもこのままじゃダメだ。きっちり謝罪をしよう。カノンを傷付けることはもう二度としないと誠心誠意謝罪しよう。それが俺にできる最善策だ。そう思った。
あきらは「今日会える?」とラインすると「うん」とだけ返ってきた。
静かなバーで二人で会うことになった。カノンはブルームーンのカクテル、あきらはカルアミルクを頼んだ。カノンはいつもそんなに高い度数のお酒は飲まないはずなのに何故かこの日はブルームーン(度数20度前後)を注文していた。
しばらく無言が続いていたがようやくあきらは口を開いた。
「この前は本当に…」
言いかけた言葉を遮るようにカノンが話した。
「言わないで。悲しくなっちゃうから。信じてるから何も言わないで。」
カノンは涙目でそう話した。
(俺、最低だ。こんなに俺の事を思ってくれてる彼女を泣かせてしまったんだ。本当は絶対気づいてる。俺がしたこと、俺の気持ち、絶対気づいてるのに)
「そういえばさ、そろそろバレンタインだよね!私、張り切ってあきらさんにチョコ作ろうと思ってるんだ〜」
無理に笑顔を作って話し続けるカノン。おそらく彼女の中ではこの前のナツミとのハグは水に流すという意味なのだろう。優しすぎるカノンにあきらは言葉が出なかった。
(もう浮気など絶対しない。軽はずみな行動は絶対しない)
そう心に深く刻んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます