第36話「心の上昇と野球部の見学」
八月、夏の暑さは相変わらずで、日に焼けてしまう勢いだった。
私はここ最近どこかふわふわと心と身体が軽く、嬉しい気持ちになっていた。やはり学校がないというのが一つ大きいだろう。女の子たちに余計なことを言われなくて済む。その分涼子や凌駕くんとも会えないけど、仕方ない。
ふわふわと心と身体が軽いということは、躁状態の可能性もある。そういう時は一旦立ち止まって、周りをよく見るというのは橘先生の教えだ。なんでもやりすぎに注意しておこうと思った。
今日は涼子と話して、一緒に凌駕くんの部活を見に行こうと思っていた。夏の大会は負けてしまったが、凌駕くんは夏休みも練習を頑張っているみたいだ。ちょっと応援できたらいいなという気持ちだった。
一応学校に行くので、制服を着る。前にも言ったが濃いえんじ色のブレザーは、私のお気に入りだ。身支度を整えていると、インターホンが鳴った。出ると涼子がいた。
「おはよぉー、小春、行けそうかな?」
「おはよう、大丈夫、行けるよ」
「よっしゃ、じゃあ行きますかー」
涼子と一緒に家を出て、駅に向かう。午前中だが日差しが強かった。日焼け止めは塗ってきたが、大丈夫だろうか。
「あっついねー、こんな中凌駕は頑張ってるんだもんねー、尊敬しちゃうよ」
「ほんとだね、すごいなぁ……私だったらすぐ倒れてそう……」
「あはは、小春は無理しちゃダメだからね、学校着いたら飲み物買おうか」
二人で話しながら、学校に来た。売店の横にある自販機でスポーツドリンクを買った。その後グラウンドに行ってみる。野球部が練習しているのが見えた。暑い中みんな必死に白球を追いかけている。ほんとにすごいなと思った。
「凌駕はどこにいるかなぁ」
「うーん、ユニフォームで帽子かぶってると分かりにくいね……」
「――あれ? 荒川の彼女さん?」
その時、声をかけられた。見ると以前凌駕くんをからかっていた先輩がいた。
「あ、お、おはようございます。凌駕くんはいますか……?」
「ああ、次バッティング練習するから、今あそこで準備してるよ。そこのベンチに座って見てるといいよ」
私と涼子は「失礼します」と言ってベンチに座らせてもらった。凌駕くんがバッターボックスに入る。
カキーン! カキーン!
金属バットの乾いた音が響く。ボールは面白いように外野まで飛んで行った。
「す、すごい……!」
「ほんとだねー、凌駕はやっぱりパワーがあるなぁ。身体も大きいもんね」
凌駕くんのカッコいい姿をまた見ることができて、私は嬉しかった……って、ま、また胸がドキドキしている。スポーツができる男の子はやはりカッコよかった。
「……小春、ぼーっと凌駕のこと見てるね。ふふふ、ときめいちゃった?」
涼子がそう言って私の頬をツンツンと突いてきた。あ、ば、バレたのかな……私は顔に出やすいのだろうか。
「あ、う、うん……スポーツができる男の子ってカッコいいなぁと思って……」
「そだねー、なんかカッコよく見えるよね。いいんだよ、小春のストレートな気持ちが大事だよ」
「そ、そっか……恥ずかしいな……」
「恥ずかしがらなくていいよー。それにしても小春はちょっと調子がいいのかな? 今日も元気そうだしさ」
「う、うん、また調子がいいみたいで……もしかしたら躁状態かもしれないけど、それでも人に迷惑をかけてなければいいかなって」
「うんうん、大丈夫だよ、調子がいい時に色々楽しむのもありだと思うよ。でも気をつけておいてね」
涼子がニコッと笑顔を見せた。
しばらくバッティング練習をしていた凌駕くんが、「ありがとうございました!」と言った後、こちらへとやって来た。あ、もしかして気づいたのか、先ほどの先輩が何か言ってくれたのかな。
「おーっす、なんだ、二人とも来てたのか」
「うん、凌駕が頑張る姿を見に行こうって、小春と話しててねー。凌駕はすごいねぇ、ぽんぽんボールが飛んで行ってたし」
「あはは、まぁしっかり練習しておかないと、本番で力が発揮できないからな。二人とも暑くないか? ここは日陰だけど」
「う、うん、大丈夫……あ、凌駕くん、これスポーツドリンク。よかったら飲んで」
「おお、ありがとう。やっぱ水分とらないとな」
凌駕くんにスポーツドリンクを手渡した。
「……そのスポーツドリンクには、小春からの愛がつまっていますからねぇ、凌駕が飲んだら、小春のことしか考えられなくなってしまいますよぉ」
「……ええ!? あ、いや、その……」
「な、何言ってるんだよ涼子、ま、まぁ飲むけど……」
「ふふふ、いいんですよぉ凌駕さん、素直な男の子の方がモテると思いますよぉ」
「な、なんなんだよ……小春、ありがとな。いただきます」
「あ、う、うん……」
うう、涼子が変なこと言うから、恥ずかしくなってきた……今真っ赤になってるんだろうな……。
それからしばらく、野球部の練習風景を見学させてもらった。みんな一生懸命ですごいなと思った。私も元気をもらったような感じだった。
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