第35話「友達と過ごす時間」
日曜日、私は家でのんびりしていた。
ここ最近はまた気分も上がってきたような気がする。気分の波というのは不思議なものだなと、改めて思っている。まぁ誰でも調子がいい日、そうでもない日、あるかなと思った。
タブレットを持って来て、小説を読んでみる。一般的な本もいいが、今はWeb小説も面白いものが多く、私はよくサイトをチェックしている。異世界ファンタジー、恋愛あたりが私がよく読むジャンルのようだ。
(……あ、これ面白そうだな、フォローして読んでみようかな)
私は一つの異世界ファンタジーの小説を見つけた。おとなしい主人公がある時異世界に迷い込んで、あれやこれやと冒険の旅に出る、王道な物語かな。
この主人公はなんだか引っ込み思案で、おどおどしているような感じだ。自分に自信がないというか、そういうところが私にそっくりだなと思った。
(なんだかこの主人公、私にそっくりだな……でも、この子も頑張っている。私も頑張らないとな……)
ピンポーン。
そんなことを思っていると、インターホンが鳴った。何か宅配便かな? と思って出てみると――
「あ、小春だ、こんにちはー」
玄関先にいたのは涼子だった。あれ? どうしたのだろうか。
「あ、あれ? 来るって言ってたっけ?」
「ああ、いや、何も言ってなかったんだけどさ、小春何してるかなーと思ったのと、ちょっと驚かせようかと思って来てみたよ。忙しかった?」
「あ、そうなんだね、ううん、大丈夫。のんびり小説読んでたとこだから……あ、上がって」
私がそう言うと、「おじゃましまーす」と言って涼子が上がった。そのまま私の部屋に案内する。
「ごめんねー急に来てしまって。小春の読書の邪魔しちゃったなぁ」
「ううん、大丈夫だよ。あ、飲み物持ってくるね」
私はそう言ってキッチンへ行き、二人分のジュースを用意して部屋に戻った。
「はい、どうぞ」
「ありがとー! なんか小春さ、ちょっと調子いいのかな? 言葉もハッキリしているというか」
「うん、ちょっと調子もいいみたい……夏休みだからかな」
「そっかそっか、いいことだねー。あ、でも躁状態という可能性もあるのか、油断できないね」
「そうだね……そこは気をつけておいた方がいいのかなって思うよ」
気分が上がってきているのは間違いないが、涼子の言う通り、また躁状態という可能性もある。そうなると厄介だ。なんでもできそうな気分になって、行動してしまうかもしれない。そういう時こそ一旦立ち止まって、周りをよく見る。橘先生が言っていたことを守らなければ。
「そだねー、まぁでも、調子がいい時も楽しんで、楽に考えて過ごすことも大事なんじゃないかなぁ」
「うん、病院の先生は持ち上がってきた時も一旦立ち止まって、周りをよく見てって言ってた……それは忘れないようにしようかなって」
「うんうん、小春はしっかりしてるからさ、大丈夫だよー」
涼子がニコッと笑顔を見せた。
「ま、まぁ、そうでもないけどね……あ、凌駕くんは今頃部活かな……」
「ああ、そうだね、今頃頑張ってるんじゃないかなー。凌駕も偉いよね、しっかり部活も頑張ってさー」
「そうだね、部活やってるってすごいことだと思う……」
「うんうん、あ、それと、あの三人で遊びに行ったのも楽しかったねー」
この前、三人で久しぶりに遊びに行くことができた。私もそれが嬉しかった。私が元気になったら三人で遊びに行こうという涼子との約束も守れたかなと思う。まぁ、私はまだまだ治療中の身ではあるが。
「うん、この前はありがとう。また三人でいきたいな……」
「そだね、でも、三人と言わず、次は凌駕と小春が二人でデートなんていうのもいいんじゃないかなぁと思うわけよ」
そう言って涼子がニヤニヤしていた……って、え、で、デートって、それはさすがに……恥ずかしい。
「え、い、いや、それは恥ずかしいというか、なんというか……」
「いいじゃんいいじゃん、凌駕だって嫌な気持ちではないと思うよー。まぁ凌駕の気持ちがイマイチよく見えないんだけど、小春との話になるとちょっと恥ずかしそうなところを見ると、まんざらでもないのかなぁって」
「そ、そうかな……た、たまたまなんじゃない……?」
「いや、もしかしたら凌駕も小春のこと、なんかいいなくらいは思っている可能性はあるね。長い付き合いの私が言うから、間違いないさ!」
涼子がぽんと胸を叩いた。私は思わず笑ってしまった。
「あ、小春の笑顔が見れた。いいね。凌駕も小春の可愛い笑顔見たら、イチコロだと思いますよぉー」
「い、イチコロって……でも、やっぱり私なんかが……っていう気分になってしまうな……」
「いいんだよー、前にも言ったけど、恋をするのは自由だよ。もうちょっと自信を持ってもいいと思うよー」
「そ、そっか……うん、そうしようかな……」
何事に対してもイマイチ自信のない私だが、涼子の言う通り、もう少し自信を持ってもいいのかなと、恋バナをしながら思っていた私だった。
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