白雪姫には三分以内にやらなければならないことがあった

エモリモエ

白雪姫には三分以内にやらなければならないことがあった

白雪姫には三分以内にやらなければならないことがあった。


油断した。

すべてはこの一言に尽きる。

カリリと林檎をかじったとたん、毒がまわってバッタリ倒れた。

林檎売りの婆さんは「うけけ」と笑って去ってしまった。

ピンチである。

が、白雪姫は根性で毒と戦った。

三分間。根拠はないがそれくらいなら根性でなんとかいけると思った。

どうしてもこのまま死ぬわけにはいかない。


なぜなら白雪姫は今、ノーブラだったからである。


白雪姫は姫である。

姫ではあるが、たまにはノビノビくつろぎたい。

養われている身の上とはいえ毎日慣れないはつらい。

なにより同居する小人たちはサイズは子供でもれっきとした成人男性。気も使う。

だから皆が揃って仕事に出かけた解放感たるや。

「ヤッホー」と叫んだ勢いでブラジャーをポイっと脱ぎ捨ててしまったとしても。

仕方のないことだろう。


そんな心の隙間をついての、婆さんの毒林檎攻撃である。

自業自得。

だが、白雪姫は姫なのだ。

姫たるもの、下着もつけずに死んではならない。


白雪姫は知っている。

小人たちは自分を愛してくれている。

死んだら悲しむ。

感情表現豊かな彼らのことだ。

悲しみのあまり泣きながら白雪姫の体をベタベタ触ることだろう。

その時にブラジャーを着けていないのは困る。

ものすごく、困る。


大丈夫。

下着を脱ぎ捨てた部屋に行き、下着を着ける。

それだけだ。

がんばれ白雪姫。

白雪姫は立ち上がる。

よっぽど強い毒らしい。めまいで天井がクルクルまわる。

根性。根性だ、白雪姫。

這ってでもいかなくては。

ほんの少し前に解放感に身を任せ「ヤッホー」と叫んだあの部屋に。

ああ、もう少し。

あと少し……。


根性でもぎとった三分は過ぎた。


白雪姫の死体は帰宅した小人たちに発見された。

嘆き悲しむ小人たちにもみくちゃにされたすえ、白雪姫はガラスの棺に納められた。

後日どこぞの王子の接吻でその目を覚ます、その時まで。

片手にブラジャーを握りしめたまま。

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