第5話:狂気の狩り

「…………」

ん……?かすかながら何か聞こえる。幻聴か?いや、人の声だろう。

「おーい、起きろー」

頭がさえてくると同時に徐々にその声が鮮明になってくる。男の声だ。俺は知らず知らずのうちに寝落ちしてしまっていたようだ。とても気持ちがいい。まるで冬の寒い日に布団に入った時のような快感を覚える。すると「バサッ!」という音と共に俺にまとわりついていた物体の感覚がなくなる。

「寒ッ!」

俺はあまりの寒さに声を出してしまう。まるで冷凍庫に入った気分だ。俺の目が完全に覚める。俺はどうやら布団をかぶっていたらしい。声の主が俺からはぎ取ったであろう布団を持っていたからだ。その声の主はレンだった。そして彼は布団を持って俺を見下していた。

「いつまで寝てるんだ?というかなんで地べたで寝てるんだ?敷布団があるだろ?」

レンはまた俺に声をかけてくる。試しに寝転がってみただけだったのにそのまま寝てしまうなんて…相当疲れていたんだな……。ん?そういえばなんで掛け布団がかかってるんだ?俺は少なくとも自分で布団をかぶった覚えた記憶はない。レンがかけた訳……はないか。じゃあいったい誰が……

「おい!だから早く起きろって言ってるだろ!?」

しびれを切らしたレンの言葉に俺は体を震わせる。恐る恐るレンを見上げてみると厳しい顔つきで腕を組んでいた。他人にこんな目を向けられたのは久しぶりだ。普通に怖いからやめてほしい。刑務官から向けられた軽蔑の目とはわけが違う。俺はレンの圧に圧倒され、慌てて体を起こす。自分の目で自分の体を見て思ったが、さっきからこんなだらしない姿をレンに晒していたのか……そう思うと急に気恥ずかしくなってしまう……

でもそれと同時に別の気まずさが漂っている。なんせ昨日レンを突き放したっきり話していないからな。どんな顔をすればいいかわからない。というか顔を合わせられない。てかわざわざ俺の部屋にきて起こしに来るなんて……そんな心配されるほど寝てたのか…?

「服も着替えないまま…何をやっているんだ、全く。」

レンは呆れながらそう言った。俺は宇宙服のまま寝ていたようだ。そういえば服も新しく支給されたんだっけ?目線を逸らすと壁際には衣服一式がきれいにたたまれた状態で置かれていた。まあそんなことはどうでもいい。

「今……何時ですか……?」

俺は疑問に思い、勇気をだしてレンに聞いてみた。内心俺は心臓がバクバクしている。もしかしたら俺が知らないうちに昼を回っているのかもしれないからだ。俺は朝が苦手だからな。昼まで寝過ごしてしまうもざらにある。いつもはベニ坊がタイマー代わりになっていたから失念した。しかもこの部屋には時計がないから尚更ドキドキする。

「ん?今か?えー、今は朝の 6 時前くらいだな。」

「は?朝の6時?」

思わず心の声が漏れてしまう。また語調が強くってしまったがそうなっても仕方ないだろう。だってまだ6時だぜ?18 時じゃなくて。なんでこんな時間に起こすんだよ?昨日の当てつけか?

「長が言ってただろう。最低限の義務は果たせと。……わかったら 15 分後に中央の広場に集合するんだぞ。」

彼はそう言い放って俺の部屋を後にした。は?15 分後に広場に集合するって……何でだ?というか唐突すぎるだろ!?おかげで完全に目が覚めたのだが…、集合って……集会でもあるのだろうか?それだったらめちゃめちゃ行きたくない。ただでさえ人の集まりは苦手なのに昨日、あれだけ気まずい空気だったからなおさらだ。かと言ってぶっちできるほどの勇気はない。まあこの集落にいる限りはここのルールに従わないといけないということなのだろう。

はあ、普通に憂鬱だ。気を取り直して俺はあたりを見渡してみた。ベニ坊はいない。ベニ坊…大丈夫だろうか…?原獣に蹴飛ばされて以来、大分調子が悪かったからな。整備にはしばらくかかると言っていたが実際どれくらいかかるのだろうか?それのせいでこの集落からの出発が遅くなるのは嫌なんだがな……。

ああ、そういえばあいつは突っかかってきてくれたな。やはりベニ坊がいないと心細いものだ。彼が去った部屋は静寂に包まれていた。……まあ広場に集合しなかったらですることないしな。

…とりあえず集合時間に間に合うように支度をするか…。



俺は時間に余裕をもって集合場所に到着したのだが予想とは裏腹に結構な人が集まっていた。この集落に来てから初めての朝を迎えたがいつもより肌寒く感じる。久しぶりに掛け布団をかぶったからだろうか。この星自体、昼と夜の寒暖差はあまりなくとても過ごしやすい気候だと言える。しかしこの人混みを見るとまるで俺が遅刻をしたかのように思えてしまう。とても居心地が悪い。早くレンかテトラを見つけないとな……。

通り過ぎる人は皆、俺をちらちら見てくる。ここに来てからずっとこれだ。その通り過ぎる人は普段のラフな私服ではなく全員、俺と同じ宇宙服を着ている。なぜだろうか?ただ集会するわけではないのか?よく見ていると皆、いろいろなも

のを背負っている。でかい網をもっている人もいれば、銃などの物騒なものを持っている人もいる。しかも昨日では見なかったナイスバディなお姉さんや屈強で色黒のマッチョマンもちらほらいる。俺には刺激が強すぎる空間だ。そんな広場を肩を狭め、周りをチラチラ見ながら歩いていると両肩が身に覚えのある柔らかい手で掴まれる感覚がした。俺はあまりの唐突な出来事にビクッとしてしまう。

「おはよう、ユーギリ君…!」

この声を聴いた瞬間俺はその正体を理解した。テトラだ。なんだか楽しげな声だな。俺はテトラの方へ振り返ろ

うとするとそれを妨げるようにテトラが俺の正面に割って入る。俺はその動きについていけずしどろもどろにな

ってしまった。

「ごめん……びっくりさせちゃった…?」

テトラは不思議そうに、でもどこか申し訳なさそうな雰囲気で尋ねてくる。どこまでも俺の不意を突いてくる女だな。

「い、いや大丈夫……です。あ、というか探してたというか……なんというか……」

めちゃめちゃテトラが見つめてくる……しかし、やはりどうしても目を合わせることができない。なんでこんな誘惑まがいのことをしてくるんだ…?そのせいで俺は顔のにやつきが止まらない。

「そっかー、そうだよね。1 人じゃ不安だったよね…。全く、レンさんは君の担当なのに……まだ慣れてないんだからしっかり付き添ってあげればいいのにね…起こしに行くだけ起こしに行っといて放置じゃ…ねぇ……」

彼女はうつむきながらそう言った。言われてみればそうだ。俺は広場で何をするのか、まったく知らされていないんだぞ!?なのに起こすだけ起こしておいて放置するのは不親切だろ!?まあ昨日の件で気まずさを感じていたというのは少なからずあるだろうが…、というか担当ってなんだ?

「あの……担当ってどういうことですか……?」

俺は恐る恐る聞いてみた。数日間一緒に行動してきたからだろうか。とても話しかけやすく感じる。ここの人間とは気が合わないと感じていたがテトラとはどうも気が合うらしい。まあ人当たりもよさそうだしな。

「あれ、レンさんから聞いてなかった…?……まあいっか。…本当は準備ができたらすぐにでもここを出発した

いと思っていたんだけど、今ちょっと事情があって本部までの道が通れなくて……。数日後には一応通れるようにはなるみたいなんだけど…それまではこの集落で滞在しないといけないの。で、そんな君のサポーター的な仕事を任されたのがレンさんだったの。」

担当ってそういう意味だったのか…というか本部までの道が通れないって…何があったんだろうか?しかし数日とはいえ、ここで生活しないといけないのか……まあ数日くらい我慢しないとな。

え、てかサポーターだったらテトラが最適じゃないか?ここの集落のどんな人よりも一緒にいた時間も長いし、別に相性も悪くない…と勝手に思っている。なのに何であいつなんだ?正直テトラの方がよかった。いや別に女の子だからいいっていうわけじゃないからな!テトラといる方が気が楽なだけだからな!……何かテトラには事情があるのだろうか?

「ごめんね……できたら私がその担当に回りたかったんだけど……私はこの集落の人じゃないから……」

彼女は俺の心を読んだかのように俺の疑問に答えた。この集落の人間じゃない…?ますます意味が分からない。じゃあ何でテトラはここにいるんだ?ほかの集落の人とも仲良く挨拶を交わしていたし、仲が悪いわけでもないだろう。でも思い返せば昨日の俺の歓迎パーティー(俺は蚊帳の外)にもいなかったな。これは集落の人しか参加できないということだろうか?でもあのパーティーは集落の人じゃない俺の歓迎会だから別にテトラが参加できてもいいと思うのだが……

「これからどうするかとかってレンさんから聞いてるよね…?」

「えっ、いや……」

と俺は素直に答える。レンからはここに集合しろとしか聞かされていない。

「え、まさかそれも聞かされてないの……?」

とテトラは心外そうにそう言った。俺は素直にうなずく。

「私も詳しいことは知らないんだよね……どうしようか…。……よし、じゃあ一緒にまずはレンさんを探そう

か!」

テトラは微笑んで優しくそう言った。確かに集合したあとのことは考えてなかった。集合しろとまで言っているんだから行けばわかるものだと思い込んでいたがそういうわけでもないらしい。全く、報連相くらいはきっちりしてほしいものだ。それに比べてテトラは本当に天使のようだ。不安がっている俺を見て、一緒に探そうなんて言ってくるんだから。

こうして俺はテトラに手招きされ、レンを一緒にさがすことになった。



「もう…担当なんですからしっかりしてくださいね!せめて自分のところに来てほしいくらいは言わないと…初めてなんですから。」

横にいる彼女はまるで俺の気持ちを代弁するかのように目の前の男に訴える。

「すまなかった…!こっちもいろいろと準備で忙しかったんだ。あまり怒らないでくれ。」

目の前の男は腰を低くして謝罪する。

「いやっ、別に怒っているわけじゃないんですけど……これから数日間、本当に大丈夫ですか……?ほかの仕事もあるでしょうし、何かできることがあれば全然おっしゃってくださいね…!」

とテトラは優しく言った。何だよ、気遣いの塊かよ!?と心の中で叫んでしまうくらい完璧なムーブだ。これが同い年だと思うと心がどうかしてしまいそうだ。

「君もすまなかった。今度からは気を付けるよ。」

そうレンは俺の方を向いて言った。とりあえず昨日のことは気にしていないっぽいな。もっと素っ気ない態度をとられると思っていたから少し心外だ。まあ本心ではどう思っているかどうかはわからないが。だがそう心で思っても体は素直だ。レンの正面に立つとどうしても目線、いや体を逸らしてしまう。やはり気まずいな。

「で、今日ここに来てもらった理由なんだが…テトラから聞いてるか?」

と改まってレンは俺にそう尋ねた。

「いや、特に何も……」

いやそれはお前の仕事だろ!と思ってしまったがまあ事実確認と言ったところだろうか。そんなやり取りをしていると周りがより騒がしくなってきた。人波がぞろぞろと移動していくのを感じる。集落の人たちはどこに行くのだろうか?人波を目で追ってしまう。そんな俺の注目を無理やり変えるようにレンは話し始めた。

「そうか…さっきここにいる限り最低限の義務は守れと言ったよな。それの意味なんだが…ここの人は生きるためにやらなければいけないことを分担してやっている。まあ具体的にいうと外の原獣を狩ったり、原獣から集落を守る門番の仕事だったり、ここの畑の管理、運営だったりだな。ほかにもいっぱいあるが…。

で、ここに世話になるということは君も分担された仕事はこなしてもらわないといけない。わかるか……?」

うん。まあなんとなく途中からそういうことだろうと察してはいたが外にいる原獣を狩るって言ったか?……まさかそれに割り当てられるとかはないよな?

「まあ俺の担当として原獣狩りと大した広さではないが畑も持っているからそれの管理があるから君にはその両方を担当というか手伝ってもらうことになる……が大丈夫か……?俺はほかの担当についてはあまり知らないからどうしようもないが……」

ああ、一瞬でフラグが回収されてしまった。まあこの展開になった以上こうなることは覚悟していたが……マジで狩りをするのか…?え、原獣ってあの原獣だよな。ベニ坊をケガさせたあの原獣だよな……そう思うと背筋が凍り付く。しかも原獣狩りと畑の管理って…二つもやらされるのか…

「で、原獣狩りと言っても色々なものがあってだな。まあ大きく分けると草食原獣の狩りと肉食原獣の狩りとで分けられるんだが……どっちがいいとかあるか…?」

草食原獣…ああ、そういえば旅の道中にも俺たちが真横を通っても我関せずの態度をとる原獣がいたか…そういうことであれば話は別だ。あの貧弱そうなあいつら捕まえるだけであれば俺でもできる。と思う。

「草食の方でいいですか……?」

と俺は迷わず答える。そりゃそうだ。あんな肉食獣相手に俺なんかが太刀打ちできるわけがないだろう。しかし俺の想いとは裏腹にレンは心外そうな顔を浮かべる。え、普通こっちを選ぶだろ?

「え、本当に大丈夫か……?結構走ることになると思うが…」

「えっ、でも肉食原獣の方ってやっぱり危ないですよね…?」

と俺は聞く。結構走るって…それは肉食獣を狩るときも一緒のことじゃないのか?

「ん……まあそりゃ肉食を狩るときの方が危険ではあるが…別に最大限俺はフォローするつもりだし、あまり心配する必要はないと思うぞ。」

ん……それでもやっぱり草食の方がいい気がする。多分肉食の方をやるってなった時の方がフォローは手厚いんだろうが……それでも草食の方がいいな。

「……いや、でもやっぱり草食の方でお願いします。」

と俺はきっぱりと言い切った。まあ実際集落の外には出たくないのだが……まあここにいてもすることがないしな…腹をくくって頑張るしかないか…。

「そうか…わかった。まあ不安にならなくても大丈夫だ。俺が出来る限りサポートするから。」

とレンは言った。やっぱり優しいな。まるで昨日のことがなかったかのように接してくる。そっと後ろを振り返るとテトラがこの一連の会話をほほえましそうに見ていた。多分この感じだとテトラは同行しないのだろう。まああまりこういうことを言うのは情けないがテトラと離れるとなると思うと不安な気持ちになってしまう。おまけにベニ坊もいないしな…まあ今回は初回だしそこまで難しいことは求められないだろう。

そう自分に言い聞かせて俺はレンの後をついていった…、



……俺が愚かだった。というべきだろう。俺は今めちゃめちゃ後悔している。なぜって?俺は草食獣狩りと称したマラソンをさせられているからだ。いや、マラソンというか持久走と言ったほうがいいだろう。2、3km走るどころではない。もう 30 分は余裕で走っているだろう。足の感覚はもはやなくなっている。呼吸のリズムもこれまでにないくらい乱れている。しかも中々のペースを保ったまま走らないといけない。俺の斜め正面には今回の狩りのターゲットである草食獣がいる。とは言っても 50mから 100mくらいは離れているが。そして横を振り向くと 50mくらい離れたところでレンが並走している。ここまで見ていればわかる通り俺は獲物である草食獣を追いかけている。

でもじゃあ何で武器とかを使って早くとどめを刺さないのかと思うだろう。元々草食獣というものは肉食獣から身を守るために鋭い機器察知能力や素早い足を持っている。そしてこの星の生物はその面がより一層強い。そのためこっそり近づいて捕獲するのも、罠にかけることも難しい。じゃあ飛び道具、例えば銃があれば容易に仕留めることは可能だろう。でもこれもなかなか難しいらしい。なぜなら銃弾というものは消耗品だ。で、狩りというのは 2 日に 1 回行われるものなんだが、狩りのたびに弾を使っているといずれなくなってしまうからだ。そもそもこの星では銃や銃弾というのは貴重品らしい。ことにこんな辺境の集落では尚更だろうしな。そんな貴重な銃弾を草食獣の狩りなんかに使うよりは肉食獣の狩りなどに使ったほうがいいというのはわかるんだが…それにしてもどうにかならなかったのか!?

「お前、それはちょっと狩りに対するイメージが古すぎるんじゃないか?原始の時代、人間は自分たちの最大の武器である持久力を最大限に生かして自分たちより足が速い動物を狩っていたんだ。原始時代の狩りというと槍を使って獲物を追い詰めたりすると想像するかもしれんが実際は自分たちより足の速い獲物をひたすら追いかけて獲物がバテたところで颯爽と捕獲する、これが本当の原始時代の狩りだ。」

とは言われたが……それって原始時代の話だろ!?狩りの方法がひたすら走って獲物のスタミナ切れを目指すって…もう少し何かなかったのかよ…。ベニ坊がいれば全然違うかっただろうが今は整備に出しているからな。

そういえば広場に集まっていた連中は肉食原獣狩りをするために集まったって言ってたな。の割に誰もパーソナルロボットを連れてなかったな。というか集落に来てから一回もほかのパーソナルロボットに会っていないな。俺が会ったことがあるのはベニ坊とテトラのラビーだけだ。3 年後にパーソナルロボットは自爆するって言ってたからな。じゃあ集落の人たちは大半がこの星にきて 3 年たっているということか。まあこの星は未成年の受刑者専用の星なはずなのに明らか三十路は超えているであろう人もちらほらいるもんな。

と余計なことを考えて気を紛らわせていたが流石にそろそろ限界だ。俺はもともと体力はある方ではなかったし学校の持久走も大っ嫌いだった。いやまあ持久走が好きな人はそういないと思うが。しかも 30 分丸々ほぼ全速力で走らされたんだ。

はっきり言って 5 分目くらいで限界が来た。もうまともな思考ができない。目線がぐわんぐわんしてしまう。

そうして満身創痍で走っていると徐々に獲物の足が遅くなっているのに気付いた。俺はやっと来た!と言わんばかりにレンの方向を見る。レンも少しうれしそうな表情をしてうなずく。俺は最後の力を振り絞って獲物に追いつくようにペースを上げた。足の裏、ふくらはぎ、脇腹、体のいたるところが痛い。俺たちがスピードを上げていくのと反比例するように獲物の足は遅くなっていく。

そうこうしているうちに俺たちは獲物に追いついた。その獲物はなんというか鹿のような見た目をしていて顔は小さくて少しかわいいと感じてしまう。

だがそんなことより…やっと…やっと…!長い長い持久走から解放されたーっ!と叫びたくなるくらいの達成感と開放感を感じる。学校の持久走とかも休んでいたから走り切った実際の感覚というものを初めて実感した。何気にこんな走ったのは人生で初めてだろう。

でもそれと同時に疲労感がどっと体にかかる。体から熱が発されて、多動症が如くその場をぐるぐる歩き回ってしまう。宇宙服で走らされなかっただけよかっただろう。動きやすい

とはいえあれで走らされてたら熱中症で確実にお陀仏だった。自分のことで精一杯な俺をしり目にレンは慣れた手つきで獲物を縛っていく。俺は全く余裕がないので横目でその様子を見ているだけだった。

「…どうだ……。実際の狩りというものを体験してみて、やっぱりしんどかったか…?」

って、みりゃわかるだろ!?隣で顔を赤くしながらゼェハァゼェハァ言っているんだから。というか事前にしっかり狩りの詳細を教えてくれていれば心の準備ができたのに…!

「はぁ……はぁ……はぁ…い……。んっ…あぁ……めちゃ…めちゃしんどかった……です。」

俺はあまりに息が上がりすぎてまるで喘ぎ声のような声で返事をしてしまう。

「まあ俺ですらいまだに慣れないからな……初めてだったらなおさらだろう。」

とレンは少し息を荒くさせながらそう言った。確かにレンも少ししんどそうだな。いやでもあれだけ走った後ですました顔で獲物の処理をしている時点でバケモンだがな。

「まあでもこうでもしないと人の口に合う食材は得れないということだ。いかんせんこの星には食べれはするが人間の口に合わないものが多すぎるからな。毎日あんなものを食ってたら気が狂ってしまうよ。」

まあその通りかもしれないな……実際、しかたなく生きるためにまずいものを食べていたおかげで心がおかしくなってしまいかけたからな。こんなにしないと獲物一つとれないなんて…少し舐めていたかもしれないな…獲物を得るためにこんな体力を使ってるようじゃな…

そうこうしているとレンはすでに獲物を縛り終え、肩に担いていた。縛られている獲物を見ると少しかわいそうに思えてくる。そしてレンは立つと俺を見下げてきた。一方の俺はというと息も大分落ち着いて発熱もおさまってきたのでその場でがっつりあぐらをかいていた。え?もしかしてもう出発する感じすか?流石にもう少し休憩させてほしいんだが…

「まだきついか…?ここはあまり安全じゃないから、できれば移動したいんだが…」

まあそうか。なんせここは荒原のど真ん中だからな。多くの原獣は夜行性とはいえこんなところでいつまでも棒立ちするのは自殺行為だ。わかってるが…

「あ、あの…あとっ…5 分、休ませてください……」

「おお、そうか…」

流石にちょっと休ませてくれ…!

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