第45話 終わりにしてくれ

 あの子は一人しかいないはずなのに、手が一つ、二つ、三つ、四つと増え、無数の手で叩き続けるのだ。

 こんな中で寝てなどいられない。


 直樹なおきは自分の体に鞭を打ち、起き上がって外に出た。

 すると、再び山中にカウントアップが始まったのだ。


「遊べばいいんだろ!」


 直樹はふらふらになりながら私道を駆け下りた。

 そして、いつもの場所であの子と出くわすのだ。


『みぃつけた』


 どうせ見つかるのだから走らなくてもいいだろうと高をくくって歩けば、直樹の背にあの子が圧し掛かってきた。小さな女の子の重さではない。

 直樹はそれに耐えられず、あの子を振り払って走り続けた。


 それを何度も繰り返していくうちに、陽射しがだんだん強くなり、暑さにますます体力を消耗した。

 食事を取ることも眠ることも許されなかった。


 日が沈むと、あの子はますます活発になった。

 直樹の髪や足を引っ張る。ゴミ袋に入れていた空き缶を全て外に放り出し、次々と蹴り転がしている。耳障りな奇声を上げる。石を手にし、亮平りょうへいの車をぎぃぎぃと音立てながら傷つけて遊んでいる。


 しばらくして、直樹は激しい頭痛に襲われた。手足がしびれ、筋肉が痙攣している。

 山荘前の地べたに倒れ、意識もうろうとする中、あの子は直樹を覗き込んでニタニタと笑っていた。

 直樹は最後の力を振り絞り叫んだのだった。



「頼む。もう終わりにしてくれーーーっ!」


 ◇ ◇ ◇

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