第44話 山荘にひとり取り残された

 直樹なおきはすぐに立ち上がり、私道を駆け下りたのだった。

 途中、亮平りょうへいが投げ入れたであろうタオルに包まれたスマホを見つけ、鷲掴みにして全力疾走した。

 だが、山荘に戻ると、奇妙なことが起こっていた。


 あおいどころか、莉奈りなの姿もなかったのだった――。


 ◇ ◇ ◇


 照明がなくとも、もうすっかり辺りを一望することができた。

 直樹はテントの中、車の中をくまなく見て歩いたが、どこにも人の姿はなかった。

 あまり近付きたくはなかったが山荘の扉を開き、葵と莉奈の名を呼んでみた。やはり返事はなかった。


「いったい莉奈はどこにいったんだ? 葵は山を降りられたのか? あの悲鳴はだれのものだったんだ?」


 訳が分からず、直樹は頭を振りながら、山荘の前に健人が設置したテントへと移動した。

 疲労困憊で、立っているのもままならなかったのだ。

 入り口を開放したまま床にごろりと横たわり、瞼を閉じたその時だ。


『いぃぃぃち!』


 無理だ。動けない。


『にぃぃぃっ!』


 いい加減にしてくれ。

 見れば分かるだろ?

 俺はもう動けないんだ。


『さぁぁぁん!』


 頼む、休ませてくれ。


 それでも、あの子は数えることをやめなかった。

『十』を数え終えた時、あの子が外側からテントをバタバタと叩き出した。

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