第36話 直樹と亮平が山を下りる

「それと……、崖下に健人けんとの車らしきものが見えた」

 直樹なおきがそう呟くと、それにも皆は黙って頷いたのだった。


 ◇ ◇ ◇

 

 午後三時をまわった頃、再び山がざわつき始めた。

 気まぐれなあの子の遊びが始まるらしい。

 直樹と亮平りょうへいは立ち上がって、心身ともに準備を始めた。直樹はすでに二度山を駆け下りているが、それでも念入りに足首をほぐした。


「俺が獣道を走る。亮平は私道を進んでくれ」

「分かった。くれぐれも怪我だけはするなよ」

「ああ」


 そう返事して、直樹は私道の左手にある、崖に向かってできた獣道の入り口へと移動した。


 この先、どこかで行き止まりになるかもしれない。全く見当違いな場所に出るかもしれない。それを確かめるべく、直樹は敢えてこのルートを選択した。


 亮平は私道の前で待機している。

 あおい莉奈りなは身を寄せ合って、不安げに二人の背を見つめている。

 とその時、背筋を凍り付かせるようなあの声が山中にこだました。



『いぃぃぃち』



 始まった。


「行くぞ!」 

 直樹の声と亮平の声が重なり、二人同時に飛び出した。

 懐中電灯を右手に抱え、山道を疾走する。折れた枝葉や小石に足を取られ、何度もひやりとしながら、それでもひた走った。

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