第35話 時間稼ぎ
◇ ◇ ◇
「あの子に見つかって、連れ戻された」
そんなことはいちいち説明しなくとも、山荘に舞い戻っている時点で誰もが理解しているのだが、
三人は直樹を気遣うように、黙って頷いた。
あの子とこの山に、完全に振り回されている。
直樹は椅子にどっしりと腰を下ろし、全力疾走でくたくたの体を休めながら、皆に尋ねた。
「で、最初に誰が行くか決まったのか?」
「俺と直樹、ということになった」
意外だ。男二人がここを離れるという選択をするとは。
「時間稼ぎだ。あと二時間半ほどで日が昇る。明るくなったら、
そういうことか、と納得する。
「もし俺が先に山を下りることができたら、救助要請する。ここに戻れるようなら、俺も戻る」
と、亮平が葵と莉奈を安心させるように言った。
直樹はポリタンクに手をかけ、それを傾けながら少しずつ水を流し、もう片方の手のひらを洗い流す。砂利で擦りむいたのか、ひりひり痛む。
痛みを感じるということは、これは夢ではないということだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます