桜の花びらは、いつ散ってくれるのだろうか。

桜井千景

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 私には、未だに囚われていることがある。


 それは、高校時代から大学時代まで片想いしていた彼のことだ。

 高校2年生の頃。私と彼は同じクラスになった。席は隣だったから、話すことも時々あった。

 彼はクラスの人気者であり、野球部のピッチャーをやっていたこともあり、部活の仲間たちからも慕われていたと思う。

 私が彼に惹かれた理由は、きっとその部分だろう。

 ずっと彼のことを横目で見ていた。視線の先にはいつも彼がいた。気がついたら、彼が目の前にいたのだ。


 私は、彼が好きだった。


 告白もしようとした。でも、彼は人気者でありよくモテていた。だからきっと、私よりもいい女に巡り合うのだろうと、諦めていた。


 そんな彼とは縁もあってか、大学も同じところに進学した。

 大学にはいってからは学科が違ったこともあり、そんなに話をしていない。だから、途端に寂しくなって何度か飲みに行こうと誘った。

 彼はその誘いに毎回乗ってくれた。気前のいい彼のことを、やっぱり諦めきれなくて、卒業を控えた冬に、酒に酔うフリをしながら彼に想いを伝えた。でも、その時は振られてしまった。

 彼には、彼女がいた。それで何だか悲しくなって、彼と別れた途端、涙が溢れ出てしまった。

 家でさんざん泣いた。でも、やっぱり諦めきれなくて。でも、相手には彼女がいる。そして悲しくなって、その繰り返し。

 あの日のことは、今でも忘れられない。


 そして、卒業式の日。

 私は彼を高校時代のときのように、横目で見ているだけだった。

 結局、私は彼に気まずさから声をかけることができなかった。あの時、声をかけていれば良かったと今になって思う。あれが、最後だったから。

 片思いの最後。そして、彼の最後だった。


 その翌週、彼は死んだ。

 理由はわからない。だが、クラスのラインで彼の葬儀についてメッセージが流れてきた。

 そのメッセージを見た途端、スマホを持っていた手が震えたのを今でも覚えている。嫌な感覚だった。


 結局私は、彼に囚われたままだ。

 あの片想いと決別できずにいる。

 私は、彼にとって何でもない存在だったけれど、私にとっては大切な人だった。

 あの卒業式の日。あの日声をかけ、決別したかった。あの人に別れを告げられなかった。片想いと決別できなかった。


 その後悔だけが、私の心を渦巻いている。



 ── もうすぐ、桜の季節だ。

 桜の花びらは地面に積もり、いつのまにか朽ちて消えてゆく。

 彼への想いは、桜のように散っていった。だから、後は消えるのを待つだけだ。

 でも、それが私にとってどうしても苦しい。

 彼への想いは、何時になったら消えてくれるのだろうか。

 想いはじわじわと首を絞めるように、私を苦しめ続ける。


 桜の花びらは、いつ散ってくれるのだろうか。




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