第22話 いざ、出発
旅装を整えてレイヴン、カーリィ、メラは店の外に出た。
盗まれて困るような貴重品は、全て派生スキル『
レイヴンは、一通り、施錠関係のチェックをした。
その確認をし終えたところ、肩に止まるクロウが小声で話しかけてくる。
「兄さん、何か人が集まり始めているよ」
「何?」
店の隣にある大きな建物は、冒険者ギルドだ。そこで、何かイベントの予定があっただろうか?と、記憶の中を探るが、思い当たることは何もない。
すると、何事かと考えているレイヴンの周りに、次第に人が移動しだすのだ。見知った冒険者たちとはいえ、職業柄、厳つい表情の男も多い。
その迫力にレイヴンたちは
「な、何だよ、お前ら」
そんな
一体、何が始まるのかレイヴンが戸惑っていると、冒険者たちの間を割って、ギルドマスターのグリュムと受付のエイミが登場する。
「レイヴン、お前が旅に出るって聞いたから、ギルド総出で見送ってやろうと思ってな」
グリュムの台詞に、肩透かしを喰らったレイヴンは、思わず大声で突っ込んだ。
「大袈裟なんだよ。大体、みんな、そんなに暇じゃないだろ」
「そう。忙しい中、皆さん集まってくれたのよ。レイヴンくんが無事戻るのを冒険者ギルド一同は、心待ちにしているわ」
まぁ、そこまで言われては、レイヴンも悪い気はしない。
感謝するしかないのだが、素直に表現するのは気恥ずかしく、そんな柄でもなかった。
「分かった。分かりましたよ・・・お前ら、俺が帰って来たら、きちんと返済が終わっているか確認するからな!」
そう宣言するレイヴンに冒険者たちの歓声が沸く。借金をしっかり返せと言われて、喜ぶ負債者たちとは、一体、何だろうか?
カーリィとメラは、この光景を不思議に思うのと同時に、何故か口元が綻ぶのだった。
こうして、冒険者たちに見送られながら、レイヴンたち一行は王都ロドスを旅立つ。
まず、目指す先はイグナシア王国の南に位置する川港町イズムルだ。
そこから、エウベ大陸を東西に流れる大河ミードル川を船で東に
その町から、南下して数日進むと、ようやく砂漠の民ヘダン族が住まうダネス砂漠に到着するのだ。
ダネス砂漠から先の知識はレイヴンにはない。何故なら、ヘダン族が暮らす街ミラージの詳細な場所は、同じ部族かそれに近しい者にしか開示されていないからだ。
つまり、砂漠に着いてからは、カーリィとメラに案内してもらうことになる。
イズムルまでの道程は、歩くことも可能だが、ここは馬を借りる事にした。
長旅で体力を温存したいのもあるが、何より時間を短縮できるのが大きい。
徒歩だと四日かかる道のりも、馬だとその半分の二日で済むのだ。
レイヴンは、あれだけ盛大に見送られた手前、すんなり用事を済ませて、少しでも早く王都ロドスに戻って来てやろうと考えたのである。
最初の目的地までの道のりは順調で、無事にイズムルに入るとミラが乗船手続きをしに向かった。
ここから二泊三日の船上の旅へと移るのである。
レイヴンが船の旅は久しぶりだと考えながら、持っていると、戻って来たメラの表情は、何故か暗かった。
「姫さま、申し訳ございません。乗船できません」
船に乗れなければ、対岸に渡ることができない。陸路を通って、次の川港町まで、行く方法もあるが、遠回りになり過ぎる。また、日数が余分にかかってしまうのだ。
できる事なら、このイズムルで船に乗りたい。
レイヴンは、乗船できない理由の方も気になった。
そもそも船が運航していないというのであれば、旅の計画自体を大幅に変更しなければならないのである。
しかし、よく聞くと何のことはない。単純に満席でチケットが取れないだけだった。
周りを見れば、繁忙期なのかイズムルの街中は、人の往来が多く活気にあふれている。
これは少々、時期が悪かったのかもしれない。
とはいえ、船の運行業者は一つではないはず。その点をミラに確認した。
「全社、全滅だったのかい?」
「いえ、王侯貴族、上流階級が乗る船は、いつも通り空いていると思います」
「何だ、あるんじゃん」
メラに代わって、今度はレイヴンがクロウと一緒に乗船手続きに向かう。
確かに一箇所だけ、人の列が少ない窓口があった。そこがおそらく、メラが言っていた高級客船なのだろう。
レイヴンは、そこの最後尾に並ぶ。
看板の表示を見ると、最低価格が白金貨1枚と書かれており、さすがに移動目的だけの庶民には手が届かない価格だと思った。
とすると、一つ前に並ぶカップルは、かなりの金持ちなのかもしれない。
服装は、そう派手ではないため、自分の事は棚に上げて、人は見かけによらないものだと決め込んだ。
その時・・・
「すいません」
急に後ろから声をかけられて、レイヴンは飛び上がるほどに驚く。
振り返ると、そこにはいかにも執事然とした男が、申し訳なさそうに立っていた。
「な、何ですか?」
「申し訳ございませんが、旦那さまがお待ちで、列の順番を譲ってもらえませんでしょうか?」
この男の視線を追うと、でっぷりと肥えた体格。いかにも成金風の男が、明らかにイライラした顔をしている。
その横には、神経質そうな婦人もおり、まるで、こちらに睨みを利かせているようだった。
あんな主人に仕えるこの男が、何とも憐れに思えてくる。
「譲ってもいいけど、だからと言って、今すぐ乗船できる訳じゃないぜ」
「それは、承知しておりますが・・・」
か細い声で答える男に仕方なく、レイヴンは順番を譲った。すると、前にいたカップルも同調する。
「俺たちもいいぜ」
後ろ姿しか見ていなかったその男、振り返ると、意外にも精悍な顔つきをしていた。
茶髪を短く刈り上げており、何となくヤンチャなイメージを連想させる。その隣の女性は眼鏡をかけており、知的な雰囲気を醸し出していた。
ワイルド系と上品系、真逆な組み合わせである。人は、つくづく自分にないものを相手に求めるのか?などと、レイヴンはいらぬお世話なことを考えた。
「ありがとうございます」
「いや、いいさ。それにしても、あんたも大変だな。・・・あんな大きな宝石まで身に着けて、如何にもって感じだ」
男が返答に困る事を言って、豪快に笑うワイルド男。そんな彼を彼女が窘める。
「ウォルト、そんな事を言っては失礼よ」
ウォルトと呼ばれた男は頭をかいた。どうやら、この女性には頭が上がらない様子。
彼女は、レイヴンに会釈をすると、自ら名を名乗った。
「この人の名は、聞こえたかもしれないけど、ウォルト。そして、私はパメラよ。多分、同じ船に乗ると思うから、よろしくね」
「ああ、こちらこそ。俺はレイヴンだ。そして、この相棒がクロウ」
レイヴンの紹介とともにクロウは会釈をするような仕草を見せた。そんな黒い鳥にパメラは、にっこりと微笑む。
「クロウくんもよろしくね」
すっかり上機嫌となったクロウを肩に乗せるレイヴンは、『チョロ過ぎるぜ、弟よ』と思いながら、順番を待つのだった。
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