第16話 スラム街の戦闘
朝早く、冒険者ギルドを出発する一台の馬車がある。
その中には元内務卿のトーマス・ラングラーが乗っており、これから王城へと向かうところだった。
「ダバンの手の者が襲ってくると思いますが、トーマス卿は絶対、馬車の外には出ないでください」
「分かった。よろしく頼む」
馬車の中には、彼の他にレイヴンの相棒クロウが乗っており、小さな護衛役を自認しているようである。
レイヴンは、小声で弟とも軽く挨拶を交わした。
この馬車の他に冒険者ギルドの前で、慌ただしく準備している一団がある。
それは広場で炊き出しを用意するエイミたちだった。
「変な事、頼んですいません」
「いいのよ。一度、やってみたかったの」
ギルド職員の中で、料理好きな人が何人か集まって、レイヴンの依頼をこなしてくれるとの事。
金に糸目をつけず好きな食材を買っていいと伝えたため、相当いい肉を購入したようだ。もしかしたら自分たちの方が、楽しみにしているのかもしれない。
それでも、本来の職務とは別の仕事を快く引き受けてくれるのはありがたかった。
そして、いよいよ出発する。一路、王城を目指して馬車は走りだした。
レイヴンが予想した襲撃ポイントと思われるスラム街までは、問題なく順調に
そのまま、馬車はスラム街の入口へと差し掛かった。
ここで、レイヴンは『
敵の四人の内、ガンツは絶対にレイヴンを狙ってくるはず。まず、そのガンツを浮かせた駒として、レイヴンが倒した後、馬車に再合流するという作戦だ。
その間、『
すると、目論見通りレイヴンの前に巨漢が立ち塞がる。このスラム街での襲撃も含め、ここまでは予想通りの展開となった。
「おいおい、まさか俺さまとタイマンをはろうってのか?舐めやがって」
「こないだ、あっさりと伸びていた奴が、何を言ってるんだ?」
「てめぇ」
怒りのまま殴りつけるガンツの拳は、レイヴンに躱され空を切る。そのまま、地面と激突し、大きなクレーターが出来上がった。
「ひゅー、馬鹿力」
レイヴンがガンツを冷やかす一方で、馬車の前でも戦闘が始まった様子。
素早いソールの攻撃をカイシスが受け止めるのだが、
中々の白熱の攻防を繰り広げられているようだ。
ここで、疑問なのは襲ってきているのが、ガンツとソールの二人だけという事。
フード男とカーリィは、どこかに潜んでいるのだろうか?
死角からカーリィの紐で搦めとられるのは、非常に厄介な攻め方だ。
「おい、何で二人しかいない」
「ああ?てめぇら、如きには十分すぎるだろ」
駆け引きもくそもないガンツの証言で、数的有利を知ったレイヴンは、この状況を喜んだ。
目の前の単細胞の力馬鹿と、早めに決着をつけようとする。
『
先ほど、地面を壊したのと同じ衝撃をガンツに喰らわせたのだ。巨体はものの見事に吹き飛んでいく。
スラム街の建物に激突し、瓦礫がガンツの上に落ちていった。
これで勝負ありと思ったレイヴンだったが、すぐに考えを改める。
激しい爆発音とともに建物の破片を飛ばし、ガンツが立ち上がってきたのだ。
「この前は油断していたが、今日は、そうはいかねぇ。俺さまの『
眼が完全に血走っており、血だらけの顔と相まって、ちょっとしたホラー映像。
何か近寄りたくないとレイヴンが余計な事を考えていると、ガンツは地面を蹴り上げ、砂埃を巻き上げる。
視覚を奪った隙に急接近し、レイヴンの右足を掴むのだ。
そのまま、片腕で高々と持ち上げると、相手の体を地面に叩きつける。
「ぐわっ」
まるで、棒切れを振り回すように、ぐるぐると回しては、地面に何度も叩きつけられると、さすがのレイヴンも気絶したのか動かなくなった。
その様子に、ガンツが勝ち誇る。
「このまま、息の根を止めてやる」
とどめとばかりに、より一層、高く上に上げた瞬間、レイヴンの目が開いた。
『
『
レイヴンが、自身が受けたダメージを買い取り、即座にガンツにぶつけたのである。
これは効いたのか、ガンツの体はぐらつき、片膝をついた。
その瞬間、手を振りほどいて、レイヴンは距離をとる。
「これでも倒れないとは、本当に化物に近いな」
ガンツの意識は朦朧としているようだが、倒すまでには至らなかった。
そんな敵に敬意を示し、とっておきのスキルを使う事を決断する。
『
レイヴンは、スキルの影響で体中に力を漲らせた。膨れ上がった右腕を振りかざすと、渾身の一撃でガンツを殴りつける。
「お前自身のスキル攻撃を喰らった感想は、どうだ!」
体力が減ったところに、自分の『
立ち上がって来る気配は、一切ない。
「ふーっ。確かに弟より、かなり手強かったぜ」
ガンツとの対戦で、一日に一度しか使用できない、とっておきの『
『
本来、人体にスキルポケットは一つしかないため、この無茶なスキルの使用条件は厳しかった。
まず、スキルの書などで後天的に得られるスキルでなければならない。更に、その攻撃を一度、受けなければならなかった。
その上で、前述の通り、一日一度という限定までつく。
但し、借りられた方は、その間、スキルが使用不可となるため、ガンツは生身の体で自分のスキル攻撃を受けたのだ。
これでは、立てる道理がない。
苦労はしたが、難敵の一人を倒したレイヴンは、『
だが、強烈なプレッシャーを感じとり、思わずその足を止める。
レイヴンの視線の先、スラム街の路地をゆっくりと歩いてくる人影が二つ。
それは、灰色のフードを被った男とやや虚ろな目をしているカーリィだった。
「ちっ、馬鹿者どもが。早速、一人、やられているではないか」
フード男の怒りはもっともだが、レイヴンにとって、正直、どうでもよかった。
それよりカーリィの方が気になる。
あの目は、やはり奴隷紋に支配されているのだろうか?
だとすれば、ここからが正念場である。
レイヴンは、気持ちを引き締め直すのだった。
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