第15話 作戦会議

冒険者ギルドに戻ったレイヴンは、今後の展開をじっくりと考えた。

再び、ダバンの屋敷に忍びこむのは危険と判断し、こちらも体制を整えることにする。

いくらレイヴンとはいえ、四対一は厳しいのだ。


相手の狙いがトーマスだとすれば、王城に向かうルート上で襲ってくるはず。

そこを逆手にとって、迎撃する作戦を練ることにした。


灰色のフードを被った男の能力は未知数だが、その他、ガンツ、ソール、カーリィのスキルは把握している。

そこから、割り出した勝つための方策は、助っ人の参戦。


レイヴンは、その相手にAランクに昇格したばかりの冒険者パーティー『星屑スターダスト』を指名した。

早速、冒険者ギルドを通して、依頼をかける。


報奨金も高く、普段、世話になっているレイヴンからの要請を『星屑スターダスト』のリーダー、カイシスは二つ返事で引き受けるのだった。


早速、集まって、綿密な打合せを行う。

レイヴンとカイシスがテーブルにつくと、その他のメンバーはリーダーの後ろに立って、二人の話に聞き入っていた。


星屑スターダスト』のパーティー構成は、盾役タンクのカイシスと、攻撃役アタッカーのメルソンとホッグ。後は回復役ヒーラーのシェスタとバランスがとれている。


普段は主にダンジョンのモンスターを相手に戦っているのだが、盗賊などの対人経験もあるため、レイヴンが白羽の矢を立てたのだ。


「まず、ダバン側が襲ってくるとするならば、ここで、間違いないと思う」


冒険者ギルドから最短距離で王城に向かう場合、必ず通らなければならない場所を、地図を見ながらレイヴンが示す。

そこは、いわゆるスラム街だった。


「どうして、ここだと思うんだ?」

「障害物が多く、奇襲をかけるのには絶好のポイントだ。また、後でダバンの奴が事件をもみ消しやすいのさ」

「じゃあ、ルートを変えるか?」


カイシスの意見にレイヴンは頭を振る。奇襲も来ると分かっていれば、問題ないのだ。

それに他の場所だと、私闘に巻き込まれる人が増える。


「スラム街で向かえ討つことにする。・・・そうだな、ここら辺の住人には冒険者ギルドを通して、割のいいアルバイトと炊き出しでも用意する。それで、できるだけ人を避難させよう」


その言葉にカイシスの顔が崩れた。普段は、ぶっきらぼうで口調も生意気。

だが、レイヴンと付き合うと、こういう優しさや気配りを垣間見ることがあるのだ。


カイシスの反応を無視して、レイヴンは話を進める。

敵の特徴を全員に伝えるのだ。


ソールはスピード特化タイプ、ガンツはパワー特化タイプ。この二人については、何とか対策が取れそうだが、やはり問題は『無効インバルド』のスキルを持つカーリィである。

滅多にお目にかかれないチート級スキルだけあって、対処の仕方が難しい。


「直接スキルでの攻撃は通用しないんだろ?」

「ああ、しかも彼女が操る白い紐に触れても駄目だ」


つまり、容易に近づくこともできないということだ。盾役タンクのカイシスなんかは、『頑丈スターディー』のスキルが無効にされれば、その役割自体をこなすのも難しくなる。


「まぁ、そう怖い顔するな。カーリィは、俺が何とかするよ」


なかなかの難敵に突破口が見えず、やや沈みがちとなった作戦会議だったか、レイヴンの一言で空気が変わった。

具体的根拠を示した訳でもないのに、その自信に満ちた表情を見ていると、本当に何とかなるような気がする。


そんなレイヴンのことをカイシスは不思議そうに見つめた。

この黒髪緋眼くろかみひのめの青年が実際に戦っている姿すら、見たこともないのに、どうしてここまで人に安心感を与えるのだろうか?


「何だよ」


視線を感じたレイヴンに、少々、つっけんどんな言い方をされたカイシスは、目を閉じて頬を綻ばせる。そして、作戦会議は終了とばかりに立ち上がるのだ。


「ふっ、何でもない。明日は頼むぜ」

「依頼をしているのは俺の方だ。逆じゃないのか?」

「そうだったな」


リーダーにつられるように『星屑スターダスト』のメンバーが、ギルドに借りた部屋から出て行く。

次々と退出する中、最後に部屋を出ようとしたシェスタにレイヴンは声をかけた。

紅一点の彼女は、驚きながらも部屋の中央に戻る。


「シェスタには、これを渡しておく」


そう言って、テーブルの上に並べられたのは、聖水だった。しかも純度の高い特級聖水で、相当高価な代物が惜しげもなく置かれている。


「これは?」

「相手の呪術師の能力が分からない。念のために回復役ヒーラーのシェスタに持っていてほしいんんだ」

「分かったわ」


備えがあることに越したことはない。シェスタは、レイヴンの意図を理解し、自分の魔法道具マジックアイテム『収納ポシェット』の中に、聖水を詰め込んだ。

礼を言って、今度こそ、本当に出て行くシェスタを見送ったレイヴンは、席に腰を下ろして一息つく。


『打てる手は打った。後は、カーリィに捕まる前に、何とか・・・』


頭の中で、何度もシミュレーションを繰り返すのだった。



「おい、本当に俺たちだけで、先行するのか?」

「ああ、俺はあの女のスキルが気にくわない」


そう話すのは、ガンツとソールだ。ダバンの屋敷をこっそりと抜け出して、既にスラム街の一角に潜んでいる。


「本物なのか?その『無効インバルド』ってスキルは?」


ソールは実際に、そのスキルの洗礼を受けているが、ガンツは、まだ半信半疑なのだ。

全てのスキルを無効にするなんて、とんでもなく馬鹿げた能力。簡単には信用できるものではない。


「間違いなく本物だ。あの女に捕まった瞬間、スキルがまったく使えなくなった」


説明するソールは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

スキルが使えないだけではなく、生命力まで奪われたような虚脱感も伴う。

それは、二度と、カーリィとは関わり合いたくないと思うほどだった。


それが故、今回、行動をともにするのを嫌い、二人だけでトーマスを襲撃しようとしているのである。

こんなことビルメスが承知する訳もなく、許可のない独断での行動。


あの呪術師が知れば、怒り狂うだろうが、そんな事は知った事じゃない。

要は、二人でトーマスを仕留めればいいだけなのだ。


「まぁ、俺はあのレイヴンって野郎を殺せればいい」


こんな時、相方が単純なガンツでソールは、大いに助かる。

ひとまず、夜が明けるまで、待機をして鋭気を養うことにするのだった。

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