結末のための物語

サトウ・レン

結末を書け。

『物語の結末』には三分以内にやらなければならないことがあった。


 三分以内に物語の結末を見たいから、三分以内に物語を終わらせろよ、と繰り返し言うのだ。


 だから私は、この物語を書きはじめている。ただひとり、『物語の結末』のために。私が書きはじめた物語を、同時並行で、『物語の結末』が読んでいる。


 三分ならば、八百字程度のショートショートだろうか。

『物語の結末』は言の葉の世界で生きることを選んだ、私の古い友人だ。言葉になったあとも、私たちの友人関係は続いている。時折、脈絡もなく現れて、物語の結末について、私に語りかけてくるのだ。


 長編ばかり書いている私は物語を完結させることが下手で、運良くピリオドを打てた二作品がたまたま評価されただけで、誰にも知られないまま捨ててしまった何十ものの未完の作品があり、耳をそばだてれば、いつも怨嗟の声が聞こえてくる。


「仕方ないだろ。実力が足りないんだよ。私に」

「また言い訳するのか」『物語の結末』は完結させることのできない人間に容赦がない。「俺に言わせりゃ、逆だよ。どんな結末だっていいじゃないか。それなのに結末を打たない、ってことは、お前はこの物語を綺麗に終わらせることができる、とお前自身の力を過大評価しているんだよ。伏線が回収できない、読者の反応がない、自分自身の力不足を自覚したくない、って心に理由を付けて」


 だから、と『物語の結末』は続ける。

 どんなに拙くても、いまから三分以内に、物語にピリオドを打て。


「無理を言うなよ。俺に、ショートショートなんて書けるはずがないだろ。何を書いたって、長くなってしまうんだから」

「脈絡なんてなくていいだろ。お前が終止符を打てば、誰がなんと言おうと、それは物語の結末になる」


 くそっ。勝手なことばかり言いやがって。分かったよ。最後の一文で全てを壊してやるよ。


 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れに、全てを破壊してもらうことにした。

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結末のための物語 サトウ・レン @ryose

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