バレてしまった…オトコだって。

なんだか硬い表情のバード。

ついて行って大丈夫なのかな…と少し不安に感じる空気。

それでも、NOとは言えない圧力を感じ、後ろをついて行く。


林を抜けて…

小さな湖の所へ出た。

ここは、泣いてるところをアルさんに見つかってしまった場所、そして、初めて抱きしめられた場所。

その事を思い出して、思わず頬に赤みが差しそうだった。


綺麗だけど、奥まった所だから、あれからは、訪れていなかった。

なんとなく…人気がない場所へ行くのは…エマさんからの注意もあって、避けていたから。


それなのに…

バードについてきてしまった。

ちょっと強引な所はあるが、明るいし、男らしい所はちょっと憧れるくらいで。色々とお世話になったし、僕は本当は男だから…という頭があって、少し油断していたのかもしれない。

すでに、夕暮れから宵闇に変わっていて、辺りは暗く、月灯りに照らされている湖は、キラキラとしていて、不気味にも感じる程、異様に美しかった。

恋人同士なら、逢瀬の場として、これ程に最適な場所はないかもしれない。


「リュカ…」

バードの眼は、真剣な光を帯びていて。

この後の事が、今度こそ予想出来た。

そして、ついてきてしまった事に、酷く後悔した。

でも、遅かった。


「リュカ…好きだ」

あー、言われてしまった。

話がある…と言われた時に気付けば良かったのに、林の方へ行く時に、気付けば…

色々後悔が頭に巡ったが、時すでに遅かった。

告白されてしまった。

僕は、皆んなにレースを配って、喜んで貰った事に満足して、心が浮かれていたのだろう。

完全に失敗してしまった。

こういう場面は、一番起こってはならなかったのに。


バードに抱きしめられる。

僕は、急に行動される事に弱いのか、避けられなくて、抱きしめられた瞬間に、ゾワッとした。

ハンナさんの時は、暖かな気持ちになったのに。

アルさんに抱きしめてもらうと、ドキドキはしたけど…ゾワッとなんてしなくて、むしろ…ずっとそうしていたいと、思ってしまう程、嬉しい出来事だったのに。

あからさまな違いに、僕は、驚いた。

体験すると、如実な違いに気付いてしまい、戸惑った。


とにかく、離れたくて…怖くて。ゾワゾワするのを止めたくて、僕は、反射的にドンッと押し返し…

「何すんだよっ!!」

思わず怒りをぶつけてしまった。

声が!と思って、口を両手で抑えた時には…手遅れで。


「リュカ?なんか…声、オトコ?」

バードの目の中に、困惑と怒りの炎が見えた。

ムード満点な場所で、決心して告白したのに、跳ね除けられた事への、お門違いな恨みを感じる。

突然、本当に突然、僕の胸元の服を掴んだと思うと…一気に左右に引き裂かれた。静かな場には、ビリビリという音が響く。

あらわになったのは、膨らみが無い僕の平たい胸。

まさしく男だと言わんばかりの胸が、暗闇に晒される。

胸の細工は服の方にしていたので…

地肌は、何も細工していなかったから。

こんな事になるのは想定外。


「お前…オトコなのか?女の振りして…気持ち悪ぃ」

バードは歪んだ顔で、そんな言葉を僕にぶつけ、足音を大きく踏み鳴らしながら…来た道を戻っていった。



どうしよう…

どう、しよう…頭の中は混乱しか無かった。

告白されて、更に抱きしめられて、拒絶したら、服まで裂かれ…男だとバレる。

時系列に並べてみたけど、最悪でしかない。

何より、これって…

皆んなにバラされてしまうという恐怖心で、僕はガタガタと震えた。

1人残され、でも、この暗闇に…このまま此処に留まるのは、怖くて。

誰にも見られませんように…と祈りながら、胸元をかき合わせ、駆け足で林を抜けようとすると、ドンッとぶつかった。

バードが戻ってきたのかも!!?

そう思った瞬間、手にギュッと力が入り、縮み上がる僕。


「ん?リュカ?」

アルさんだった…

なんて事だ、こんな姿を見られてしまうなんて…でも、他の誰かだったとしたら、それどころでは無い。

頭は真っ白だった、これは…幸運なのか、不運なのか…

もう、全く分からない。


「どうした?え、服…」

「アルさん…僕、男だって、バレちゃった…よ」

「そんな事より、大丈夫なのか?何かされては無いんだな?」

「バードに…好きだと言われて、抱きしめられて…気持ち悪くて、突き飛ばしてしまって…そしたら、凄く凄く怒らせて…服を割かれて…胸を見られたから、男だってバレた。僕っ、どうしよう」

もう、涙は止まらないし、説明してる間も不安感でいっぱいで…

しかも、アルさんに見られてしまって…


「とにかく…部屋へ帰ろう」

アルさんは、自分が着ていたベストを僕に着せて、前を隠してくれた。

部屋までの距離が、異様に長く感じた。

1分が10分にでもなったみたいに、足には鎖に繋がれた鉛が付いてるみたいに…重く。


部屋に戻ってからも、ガタガタと震えが、止まらなくて。

涙も止まらなくて…

アルさんが、僕の背中をさすりながら、ベットに僕を座らせてくれ、そして、優しく抱きしめてくれた。

やはりバードにされた時とは、明らかな違い。


「僕…もう、ここには居られない…家に帰る」

「式典はどうするの?」

「出れないよ、男だとバレたのに」

アルさんは、怒りを沈めながら、とても深く考え込んでいるようだった。

そして、着るために掛けている僕の真っ白なドレスを見ている。

「アレを着る予定なんだろ?」

コクリと頷いた。

そうだけど…着て出るなんて、もう、絶対無理だ。バードも居るだろうし…

そんな度胸は持ち合わせていない。


「リュカ、聞いて…怖いかもしれないけど、大丈夫、式典に出て、必ず待ってるから、絶対に俺を見つけて。心配は要らない」


アルさんはそう言ったけど、僕は逃げる事で頭がいっぱいだった。

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